昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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第2部 新段階の日本経済

2. 繁栄を支えた新しい要因

(2) 技術革新の波及

絶えざる技術革新の波及はわが国経済発展の主要な原動力であった。

戦後の日本の技術革新は先進国から進んだ技術を導入することにより研究,実験段階を節約して短期間のうちに工業化するという有利な形で行なわれてきた。それは,技術導入部門の労働生産性を高めることによつて産業構造の高度化をもたらすとともに,設備投資の伸びを高め成長へのけん引力となつたが,技術水準が先進国水準に接近してからも,それが次々に経済の各分野に拡がることによつて,ひきつづき繁栄の要因となつている。

第109表 は戦後の技術革新の進展を高成長商品の出現という面からみたものである。これによると,ある時期に一時的に集中して成長商品が登場したのではなく,次から次へと新しい商品が登場してきたことがわかる。

このように新しい成長商品が次々と登場してきた第1の要因は,需要の変化である。最初は繊維,織物などの衣類関係や化学肥料,農業用機械などの食料生産関係の商品からエアコンディショナー,アルミサッシュなどの住宅関係の商品へと成長商品が変化し,最近では労働力不足を反映して自動販売機や事務用機械などの省力機械,さらに電子計算機や工業用計測器などの情報処理関係がいちじるしい伸びをみせている。

第2の要因は新製品の開発である。たとえばナイロン,ビニロン,ポリエステルなどの合成繊維,ポリエチレン,ポリプロピレンなどの合成樹脂,トランジスター,ダイオードなどの半導体,さらには合成ゴムなどの新技術にもとづいて開発された新製品は,既存の材料や部品の代替を促す一方,新しい機能を提供することによつて新しい需要を誘発して他産業に刺激をあたえつつ,それ自身が成長商品になつてきた。また,こうした新商品の開発とともに,在来の商品の製造技術についてもいちじるしい進歩がみられた。たとえば,火力発電所の熱効率,発電所から需要家までの送配電の効率(送配電損失率の逓減),また高炉の効率(コークス比,出銑比)などの技術水準は先進国の水準を上回る状態に達している。こうした海外から導入された技術を日本の国情に見合つて消化し,さらに進んだものに発展させて定着させるという方式は,わが国技術革新の一つの特徴でもあつた。

1) 技術波及の多様化

このように次々と新しい成長商品が登場するなかで,技術革新の波及や技術交流の方向に新しい傾向がみられるようになつている。

その第1は,技術革新の波及が多様化していることである。すなわち,材料そのものの生産から材料の加工へ,生産工程から包装,流通工程へ,さらには消費生活と直接関連するレジャー,家具,雑貨などの部門へと技術革新が様々な方向に波及していることである。 第110図 は合成樹脂関係の技術導入の内容の変化を示したものであるが,製造技術の導入が40年代になつて減少しているのに対し,加工技術の導入は30年代後半から飛躍的に増加してきている。このような技術革新の加工部門への移行は他の分野についてもみられる。たとえば,鉄鋼についてみると,建設用鋼材などの工場での加工,さらに高張力鋼や耐海水性鋼などの開発や技術導入がおこなわれており,また半導体部門では,より高性能の集積回路やサイリスター(電流を整流,制御するシリコン素子)の開発,生産として現われている。このような傾向の背景には,需要の質的な多様化,高度化,加工品相互間の競争の激化,材料部門の大量生産をつうじた価格低下による需要分野の拡大等がある。なお,このような技術革新の拡大とあいまつて,材料需要を増大させたり,新材料やよりすぐれた材料の開発を促進しており,このための資源の安定的な確保も必要となつてこよう。

つぎに生産工程から包装,在庫,輸送部門への技術革新の波及という点についてみると,省力化を意図した包装や在庫管理の自動化,さらにはコンテナ輸送,パレット輸送にみられるような包装と輸送を一体化した効率的な方法が次第に普及してきている。こうした生産以降の段階に対しても技術革新が波及しつつあることは,従来これら部門の合理化が遅れていたという面もあるが,生産から消費までを総合的にとらえ,全体的な効率化をはかるというシステム工学的考え方が普及してきたことにもよるものであろう。こうした面での技術革新は今後さらに多角的に波及していくであろう。

2) 技術交流の多角化

第2は,技術交流が国際的にも国内的にも多角化してきていることである。国際的には30年代の外国技術への依存一辺倒から,わが国も次第に技術を外国へ輸出するようになつてきている。また,国内についてみると,大企業と中小企業の間の技術交流が盛んになつてきている。 第111図 は大企業と中小企業の間の交流状態をみたものであるが,中小企業からの技術提供は大企業のそれより比重は小さいが,技術の有力な供給源になつていることが注目される。このように,大企業と中小企業の相互作用が技術革新を末端まで浸透させていると同時に,中小企業でも技術的に特化された部門では大企業に劣らない力をもつた企業が生れつつあることを示すものである。

3) 省力技術の波及

第3は,自由化の進展や労働力需給のひつ迫化を背景にして,規模の利益を求める設備の大型化が追求されると同時に,省力化,オートメ化の技術革新が急速に進んでいることである。最近,省力機械の生産は急速に伸びているが( 第112図 ),生産工程においても数値制御工作機械,ロボットの採用という形で省力化が進んでいる。さらにそうした合理化の進展は電子計算機の利用を中心とした情報社会のひろがりと相まつて,個々の生産工程の自動化にとどまらず,生産の総合的管理,さらには在庫管理の面での自動化もすすんでいる。このように自動化,合理化の波及は単にそれ自身の改善にとどまらず,機械設備をともなわない面での技術革新,つまり組織面や管理面での技術革新の波及をもたらしてきている。

第113図 農業機械の所有の変化

一方,農業面でも技術革新の波及がみられた。昭和33年から42年にかけて農業労働生産性は8割近い上昇を示したが,これは省力的技術の普及に負うところが大きい( 第113図 )。農業面での技術革新でも農薬化学肥料,除草剤,動力耕うん機,病虫害防除機の改良等にみられるように,海外からの技術と国産の技術が結びついて,わが国の自主技術として確立されたところに大きい特徴がある。こうした農業面での技術革新の波及は農業の生産性を高め,農家からの労働力流出の一要因として成長に寄与するところ大であつた。

以上のような傾向の背後には,企業の研究開発活動も活発化していることがあげられる。製造業についてみると,ほとんどの業種において技術開発支出などの伸びは諸外国の伸びを上回つており,なかでも電気機械工業や化学工業など技術進歩のはやい産業での研究活動が全体の拡大に大きく寄与している。こうした産業の研究活動は,単にその産業の成長にとつて必要であるばかりでなく,開発された技術をつうじて他部門の技術革新を誘発,増殖するという形で技術革新の波及をはやめ,繁栄を支える大きな要因となつている。


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