昭和44年
年次経済報告
豊かさへの挑戦
昭和44年7月15日
経済企画庁
第1部 昭和43年度の景気動向
3. 息の長い景気上昇のための課題
今後の景気動向に関連して,まず,注目を要するのは海外経済の動きである。
1968年は,前年の停滞のあとをうけて,世界経済が再び拡大した年であつた。たとえば,OECD加盟国についてみると,経済成長率(実質)は67年に3.4%であつたが,68年には5.3%の高い伸びとなり,貿易(輸入)の伸びも同じく5.2%から12.8%へと高まつた。そして現在も欧米主要国では経済,貿易の拡大がつづいている。しかし,こうしたなかで,先行きわが国の経済動向にも大きな影響を与えるような注目すべき動きがないわけではない。
その一つは,国際通貨情勢の不安定性である。67年11月のポンド切下げ以来,68年には金投機やポンド,フランス・フランをめぐる動揺がつづきこの5月にはマルク投機がおこるなど国際通貨をめぐる問題はたえない。これまでのところ国際協力が進み,最近のマルク問題も西ドイツ政府の切り上げ拒否などによつて小康状態を保つている。しかし,主要国間の国際収支不均衡という問題もまだ改善されていないし,また各国通貨の再調整という基本的課題についての論議も高まつているので,今後の国際通貨問題にはなお,予断を許さないものがある。この問題が当面,世界貿易やわが国の国際収支に直接大きくひびくことはないにしても,それが各国の緊縮政策,金利上昇などの一つの背景になつている点は看過しえない。
その二は,主要国のインフレ問題である。69年に入つてからの消費者物価をみると,前年比の上昇率が,アメリカ,イギリス,フランスなどでは5~6%にのぼり,西ドイツでも3%に近い。
このような物価上昇に対処するため,国際収支対策とも結びついて,このところ各国での景気抑制策が目立つて強まつてきている。
ことに,アメリカでのインフレ・マインドは政府の相つぐ抑制策にもかかわらず,いぜん根強いものがある。それは市中金利の異常な上昇をもたらし,ユーロダラーなど欧州諸国での金利上昇とも悪循環しながら世界的にかつてない高金利時代を現出しているが,その影響については十分な注意を払う必要がある。
その三は,世界景気,とくにアメリカの景気動向である。アメリカ経済はなお拡大をつづけているが景気抑制策の影響が次第にあらわれ,下期にはスローダウンするという見方が強い。一部の指標にはすでにその兆候がみられないでもない。問題は,スローダウンの程度であり,それが適度なものにとどまるかどうか,インフレ気運を背景とした需要の先行的拡大や異常な金利高などを考えると,見通しをたてにくい状態にある。
当面,わが国の国際収支は,大幅な黒字をつづけているが,もともと国際収支は変動のはげしいものである。また,輸出は近年とくに主導的な産業で,需要要因としての比重を高めており,その動向が景気に与える影響も大きくなつているので,この点からも海外経済の推移にはこれまで以上に注目する必要がある。