昭和44年
年次経済報告
豊かさへの挑戦
昭和44年7月15日
経済企画庁
第1部 昭和43年度の景気動向
3. 息の長い景気上昇のための課題
43年度中全体として根強かつた需要も,すべての指標が一様に景気拡大方向を示しつづけたわけではなかつた。
43年以降,鉱工業製品在庫率は増加し,また,43年10~12月期ごろには百貨店の売上げや日銀券の発行が伸び悩み,43年末から44年初にかけて鉱工業生産の増勢が鈍化を示した。こうした現象はいわゆる景気の“かげり”としてひところ問題になつた。まず,鉱工業製品在庫率指数(季節修正値)は,43年5月86.2の水準から急上昇し,12月には95.9と41年4月以来の高い水準となつた。これは,主として,①エアコンディショナー,カラーテレビ,アルミサッシュなど需要が急増している品目で,むしろ将来の需要を見越して積極的に在庫積増しが行なわれたと考えられるもの,②扇風機,ビール,清酒,石油ストーブ,灯油など冷夏や暖冬などの一時的要因が主因となつて在庫率が増加したと思われるもの,③乗用車,トラックなど取得税施行による一時的要因に加え,これまでの急成長が若干純化してきていることが影響したと思われるもの,などによつてもたらされた。しかし,こうした品目のなかで,在庫率の増加がとくに大きかつたエアコンディショナー,石油ストーブ,灯油の3品目を除いて在庫率指数を試算してみると,在庫率水準はかなり大きく低下し,これら一部品目の動きが全体の在庫率の水準を大きく引き上げていたことがわかる。こうした品目の多くは,44年に入つてから,あるいは出荷の好調によつて在庫率の上昇が止まり,あるいは乗用車,灯油などでは生産調整が行なわれ,鉱工業製品在庫率はこのところ横ばいとなつている( 第72図 )いずれにしても,製品在庫率の急上昇は一時的なものによるところが大きかつたといえよう。
また,鉱工業生産は,43年12月から44年3月にかけて年率9.8%の伸びとなり,43年の伸び率17.8%にくらべ大きく鈍化した。これには,上にのべた製品在庫率の上昇から乗用車など一部業種で生産調整が行なわれたこともひびいているが,一般機械,電気機械,食料品・たばこなどの業種(この期間の生産鈍化に対する寄与率約60%)の生産鈍化が大きく影響していた。しかし,これら業種の生産はここ2~3年来,年末,年初に大きく停滞し,その後急増に転ずるという特徴をもつものであつた。現にこれら業種の生産は,4月に入り大幅な増加をみた。結局一部業種に生産調整がみられたが生産全体の実勢としては,43年来の増加基調にそれ程大きな変化は生じていなかつたものと考えられる( 第71図 , 第73表 )。
さらに,百貨店売上高は43年10月から3月まで増勢に鈍化の傾向がみられたが,その原因は,百貨店販売額の中心を占める衣料品や,暖房器具などの売上げが暖冬などの影響から伸び悩んだことにあると思われる。日銀券の発行高も,前年の水準が高いこともあつて,10月,11月と増勢がいくぶん鈍化気味となつたが,12月以降再び強い増勢をとり戻した。このように景気の“かげり”といわれた現象は,後にのべるような銀行貸出の増加,財政支出の対民間払超など金融面の動きもあつて,一時的,局部的なものにとどまり,経済全体の拡大基調をかえるものではなかつたといえよう。