昭和42年
年次経済報告
能率と福祉の向上
経済企画庁
第1部 昭和41年度の日本経済
3. 台頭してきた設備投資
製造業の設備投資を形態別にみると,自動車,石油精製,石油化学,その他化学工業などのいわゆる成長産業では,景気後退というような循環要因がなくなると,これまでの成長すう勢に復帰していく傾向がみられる( 第11図 )。
このような成長産業の投資回復が,42年度の設備投資の動きにみられる第1の特色である。
昭和30年代に入つて急伸をつづけた日本の重化学工業化率は,35,36年ごろを境として欧米水準に到達した( 第12図 )。このころから,重化学工業自身の構造変化がはじまつた。重化学工業化の急速に進む過程では,市場構造は投資依存型となり,欧米諸国とくらべると,金属・機械工業の生産の伸びが相対的に大きかつた。一方,欧米諸国では,重化学工業の市場構造はむしろ消費依存型であつて,生産の伸びは,化学工業が相対的に大きく,機械工業でも重機械より乗用車,家庭電器などの耐久消費財の伸びが大きい。しかし,35,36年以降は,日本でもこうした欧米型の動きをつよめるようになつてきた( 第7表 )。重化学工業の生産力が充足される一方,所得水準が上昇して国内市場が拡大したからで,重化学工業の市場構造が投資依存型から消費依存型ヘ変化する条件が日本でも生まれてきているといえよう。
30年代前半の日本経済は,人口規模は大きいが所得水準が低かつたから高度大衆消費財の市場は狭く,むしろ重化学工業自身の生産力を引上げる必要に迫られたいわば垂直的発展型であり,そうした発展過程そのものが投資依存型の需要をつくつてきた。しかし最近の重化学工業は,消費需要の拡大を通じてその生産力を高めていく,いわば水平的発展型へと変わつてきている。こうした構造変化は,2つの意味をもつ。
1つは,消費需要が拡大するときの,重化学工業内部の相互連関効果が大きくなることである。たとえば,自動車工業などの生産力が低ければ,乗用車の消費需要が拡大しても完成車や鋼板の輸入がふえて,需要効果は途中でしや断されてしまうが,水平型だとこうした需要の拡大がすみやかに関連部門の生産拡大をよびやすい。つまり消費需要の生産誘発効果は大きくなるということである。
2つは,重化学工業のこれからの発展は消費需要の拡大テンポに左右されることである。したがつて,これまでのように重化学工業の拡大が重化学工業の需要をよぶのとことなり,消費需要をこえて重化学工業が拡大したときの反動は大きいであろう。