昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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昭和38年度の日本経済

農林水産業

林業

木材需要の動向

 景気調整の影響をうけた37年度の木材需要はわずかながら前年度を下回ったが、38年度は景気の回復と住宅建設や公共投資の増勢を背景として上昇に向かい、前年度を8.7%上回る6,520万 ㎡ に達した。

第7-4図 木材需要の推移

 木材需要の大宗を占める建築用材は、建築着工の増加に伴い2,507万㎡(総需要量の38.5%)と前年度を15.2%上回った。すなわち、一般住宅は政府の住宅政策により毎年着実な伸びを示し、景気調整下の37年においても前年を4.5%上回り、38年は前年比16.3%増と景気調整策実施前の増勢に回復した。また、鉱工業用建築は設備投資の鈍化から低調であったが、商業用、サービス業用建築は個人消費支出の堅調やオリンピック需要等を反映して前年を41%(商業用46%、サービス業用36%)も上回る大幅な伸びを示した。一方、建築着工を構造別にみると、建築構造の不燃化や新建築材料の進出に伴い非木造建築が前年比17.3%増と著しい伸びを示し、その結果建築着工における木造比率は37年の51%から38年は関%と相対的な低下が続いているが、木造建築も着工面積の絶対量は増加しており、38年は住宅着工の堅調を反映して前年比9.5%増と好調裡に推移した。

 また、ここ数年来建築技能労務者の不足や賃金の高騰に対処して建築のプレハブ化に対する関心が大いに高まり、軽量型鋼やコンクリートを構造材としたプレハブ化が進んでいるが、これからも、住宅建築のなかで木造は依然として大きな部分を占めるものと考えられるので、木構造についてもプレハブ化の開発を推進すると共に、あわせて製材品の規格の簡素化、特に建築用資材の部品として使用できるような規格化を強力に進めることが必要であろう。

 建築用材に次ぐパルプ用材については、38年度の消費量は紙パルプの市況の回復に伴い1,561万 ㎡ (総需要量の23.9%)と前年度を9.5%上回った。38年のパルプ生産は溶解パルプが化繊業界の好転により前年比6%増の41万トンとなり、製紙用パルプも洋紙の生産の伸びに対応して前年を9%上回る416万トンに達した。

 次にパルプ用材における樹材種別使用比率の推移をみると、依然として針葉樹材に対する広葉樹材、素材に対するチップ及び屑材の使用比率の上昇傾向が続いており、38年の使用比率は針葉樹材27%、広葉樹材31%、チップ及び屑材42%となった。

 なお、37年10月からパルプ輸入の自由化が行われた結果、針葉樹パルプは輸入パルプに比し割高となっているが、広葉樹パルプは国際競争力が維持されている。いずれにしても国内の原木資源が限られているので、引き続きチップ、屑材等低質材の利用促進を図ることが望まれる。

安定化してきた木材価格

 木材価格の推移を日銀卸売指数(昭和35年=100素材、製材、加工材平均)についてみると、35年の夏以来上昇を続け、36年9月に131.8のピークを記録し、36年度平均指数は125.3と前年度を20.7%も上回る高い価格水準を示した。その結果外材の輸入が急増すると共に従来から輸入されていたラワン材やソ連材、また米檜、米松等のほか、これまでは採算ベースに乗らなかった米栂丸太と同製品が大量に輸入され、最もひっ迫していた一般建築用材の需給を緩和するうえに大きな役割を演ずることとなった。

第7-5図 木材価格の推移

 このような情勢のなかで、37年度は金融引き締めの浸透により木材需要が停滞し(前年度比1.2%減)、国内生産も減退したが(前年度比9.8%減)、外材は依然として高水準の輸入を続けた(前年度比14.6%増)。

 38年度に入ってからは、景気の回復に伴い木材需要は漸次上昇に向かった。一方、供給については、国内生産の回復は立ち遅れを示したが、外材は引き続き前年度を上回る盛んな輸入が続き、特に米栂を中心とする米材の増加が著しかった(前年度比80%増、戦前戦後を通じて最高を記録)。このため内外材を合わせると供給過剰気味に推移し、木材価格は春の需要期にも例年のような季節的な値上がりもなく、梅雨期明けまでほぼ横ばいの状態を続けた。その後秋の需要期を控えて一時的に品薄となった国産材きき物や需要の好転したパルプ用材等が値上がりを示したが、39年に入り国内生産の回復したのと依然として盛んな外材の出回りが続いたことから再び供給過剰の様相となり、価格は弱含みに転じた。その結果38年度の価格指数は127.1と若干の値下がりをみた前年度に比し3.2%の伸びに留まり、従来の需要上昇期における値上がり率に比べると極めて低率であった。

 以上のように36年の価格水準の上昇を契機として外材の輸入が急増し、特に米材においては一時的な増大ばかりでなく質的にも著しい変化が行われ、その需要先も広く一般建築用材の分野にまで浸透するに至った。その結果国産材と外材(主として米材)との間に激しい競合が行われ、国産材価格は外材の輸入価格に大きく影響されることとなった。すなわち、この時期を転機として我が国の木材価格は外材の輸入価格との関連において価格が形成される段階に入ったといってよかろう。この際外材の産地価格と海上運賃の動向が問題となるが、欧米諸国における木材価格は安定的な推移を示しているし、海上運賃についても船腹の大型化、専用船化等合理化が進められているので、外材の輸入価格には当分大きな変動はないものと考えられる。

林業の当面する課題

 国内の木材生産は年々増加してきたが国民経済の成長発展に伴う木材需要の増大に対して、なお相対的には供給不足の状態が続いている。この不足分は外材の輸入によって補われてきたが、昭和36年の木材価格の高騰を契機として輸入が急増し38年度には国有林からの供給量を上回る1,533万 ㎡ に達した。このような外材供給量の増大に伴って、その需要分野が大幅に拡大されたため従来国産材の補完的な資材と考えられていた外材が、最近においては国内の林業生産に大きな影響を与えるようになってきた。

 ところで、我が国の林業経営は、国有林のほか、主として家族労働力に依存する経営(その大部分が多かれ少なかれ農業を営む農林家経営として存在している)と主として艙用労働力による経営の二階層に分けられるが、前者は経営規模が零細であるため、林業のみで自立できる基盤を持っていないし、後者は比較的規模は大きいが概して財産保持的な色彩が強く、企業的な経営を営んでいるものは極めて少ない。また、国有林は全森林面積の32%を占め、一応計画的な経営が行われているとはいうものの、奥地未開発林が多く、未だ十分に生産力化されているとはいえないのが現状である。

 このような実態であるから我が国の林業は生産性が低く、木材の供給面においても、林業従事者の所得面においても高度成長の経済に著しい立ち遅れを示している。

 従って、我が国の林業が、前述のような木材需給をめぐる環境の変化に対応して経済的供給力を強化し、産業として安定的な発展を確保して行くためには、林業総生産の増大と生産性の向上を図ることが必要であり、それに即応できるような林業経営の近代化を図ることが緊急な課題となっている。

 すなわち、民有林に対する具体的施策としては、林業の自然的、社会的、経済的な不利を補正するために税制上、金融上の優遇措置を図ることが望まれるし、特に零細な規模の経営を改善するためには、それぞれの地域に最も適した形態の協業組織を確立すると共に、林地取得の円滑化、分収造林の促進、国有林野についての部分林設定の推進、入会林野の権利関係の近代化等経営規模の拡大に資する諸施策を積極的に講じることが必要とされる。

 また、国有林野については、特に奥地未開発林の開発を促進して林業総生産の増大に寄与させることが必要である。さらに最近、農業の構造改善と関連して国有林野の利用に対する要請が一段と強まってきているのにかんがみ、今後の国有林野の管理経営は、これまで以上に国土の総合的利用の観点から林業はもちろん農業をはじめとする他産業との関連を十分考慮して行わなければならないと考えられる。


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