昭和39年
年次経済報告
開放体制下の日本経済
経済企画庁
昭和38年度の日本経済
建設
活発だった38年度の建設活動
37年度に景気調整の影響を受けて伸び率の鈍化をみせた建設活動も、38年度には再び増勢を取り戻した。景気調整の下で37年に微減となった建築着工は、38年には床面積の総計で8,684万 ㎡ となって、前年を13%上回った。居住用建築が高水準を続けて18%増となった他に、商業、サービス月が41%増と急増したのが目立った。一方、公共投資の拡充を反映して、公共工事着工も、総工事費評価額で1兆2,762億円となり、37年の29%増には及ばないものの16%増と着実な伸びを示した。
このように38年には建築工事、公共工事とも堅調な増加を示し、民間、公共両部門が伸びるという形で建設活動の活況がもたらされた。こうした建設活動の活発化が、景気上昇といかなる関連を持っていたかを、建設受注統計、着工統計によって以下ややくわしくみてみよう。
37年10月の引き締め解除以後、建設工事受注はすぐ上昇に転じ、以後着実な増加テンポを続けた。これは引き締め期間中停滞をつづけていた民間、建築工事の受注が活発になったためであり、一方、引き締め期間中建設工事の落ち込みを下支えていた公共、土木工事の受注は、37年10~12月から下降に転じ、38年度予算の動き出す38年4~6月からようやく上昇に向かった。これに対して建築着工、公共工事着工の回復はいずれもかなり遅れていた。前回の景気回復期には引き締め解除後すぐ上昇に転じた建築着工も、今回は39年5月ごろまで停滞を続け、はっきりとした上昇をみせはじめたのは6月以降であった。公共工事着工も、37年4~6月をピークにして下降をはじめ、上昇に転じたのは38年4~6月以後であった。このように引き締め解除後の38年前半の着工状況が不振であったのは、38年1~3月には裏日本の豪雪の影響、4~6月には記録的な長雨の影響など自然的要因によるところが大きいが、総じて38年前半の建設活動は不活発であった。しかし38年後半からは自然的障害が消滅すると共に、受注の好調が着工に反映し、建設活動は急速な上昇過程に入った。民間部門では、住宅需要の増大から居住用建築が一貫して高水準を維持する一方、販売競争の激化、流通革命の進展を反映して商業、サービス用の建築が急増し、また景気調整の影響を最も大きく受けて停滞を続けていた鉱工業用建築も、38年後半からはようやく上昇に転じ、民間部門の建築は急速な拡大をはじめた。そして従来からみられた建築物の非木造化は一層進み、38年にははじめて鉄筋コンクリートなどの非木造建築着工が50%を突破し、いわゆるビル・ブームを現出した。一方公共部門についても、38年度財政において公共投資の充実が三本の柱の1つとしてとりあげられ、一般会計当初予算における公共事業関係費が前年度比13.6%増、特別会計での道路整備が21%、治山が15%、治水が14%、港湾整備が21%とそれぞれ大幅な増加となったため、38年後半以降は建設活動の活発化を支える大きな柱となった。
38年度の建設活動が、鉱工業生産とどんな関係を持っていたかをみるために、建築着工、公共工事着工をそれぞれ1期ずらして建設投資の指数を作成してみると 第5-5図 のようになる。38年1~3月、4~6月と減少を続けた建設投資は7~9月、10~12月にかけて鋭角的な反発を示している。これを前回の景気回復期と比べてみても、38年後半の建設投資の増勢は著しかったものとみられる。そして前回の景気調整から回復期にかけての建設投資の動向には循環的な動きが明らかであるのに対して、今回は循環的な動きがあまり明らかでなくすう勢的な増加傾向が強くみられる。もちろん今回も、引き締め期間中は建築投資の循環的な減少を公共投資が埋め合わせるという動きがみられるが、建築投資の落ち込みもあまり大きくはない。また38年前半の建設投資の落ち込みは自然的な障害によるところが大きく、引き締め期から回復期にかけて建設投資は、すう勢的には堅実に推移したといえる。自然障害の消滅した38年後半からは、建築投資と公共投資は共に急速に回復しており、これはビル・ブームに象徴される民間建築の活況と、大型予算の成立による公共投資の拡充を反映するものであった。このような建設投資の急上昇は、38年度前半の在庫投資の急増、年度後半の民間設備投資の盛り上がりと並んで予想外の生産上昇をもたらした1つの要因でもあった。7~9月、10~12月にかけては建設資材の出荷が好調で、鉱工業全体の出荷の伸びをも上回っていたことはこの事実をある程度裏付けている。
このように38年後半以降急速な拡大を示してきた建設活動は、国際収支の悪化から38年12月以降再び金融引き締め政策が開始された中にあっても、依然活況を続けており、建設資材の出荷も好調を維持している。先行指標である建設工事受注統計によっても引き締めの影響はほとんど現れていない。今後は、これまで高水準を続けてビルブームを現出してきた商業、サービス部門、事務所、店舗などに引き締めの影響がどのように現れるかが注目される。
引き締め下の39年度の建設活動については、引き締め期には循環的に公共工事の比重が高まるという要因の他に、近年の構造的な公共工事の増加傾向が重なりあって、なお一層公共工事の比重が高まるものと予想される。39年度予算において公共事業関係費は前年度比17.2%の増加となっており、住宅、環境衛生などを含めた公共投資は21.8%の増加となっている。道路整備、港湾整備などは一層規模を拡大して、39年度を初年度とする新5ヶ年計画が開始されることとなっており、社会資本の拡充には大きな努力が払われている。このような公共投資の充実は引き締め下の建設活動を下支える大きな要因となろう。