昭和39年
年次経済報告
開放体制下の日本経済
経済企画庁
昭和38年度の日本経済
中小企業
盛んな貸し出しと流動性の回復
前々回(32~33年)の金融引き締めに比べると前回(36~37年)の引き締めの影響ははるかに軽微であったことは全金融機関の中小企業向け貸し出し状況からみてもうかがえる。もちろん、引き締めにともない貸し出しの削減、選別の強化は過去3回の引き締めを通じて共通の現象であったことは否定できないが、前回の場合は 第4-4図 に示すように前々回に比べて中小企業向け貸し出しは増減額及び貸し出し残高でみても減少率は小幅に留まった。
全金融機関の貸し出し(増減額)のなかで占める中小企業向けの比重の変化を37年の金融緩和後についてみると、37年10~12月の44.3%から38年1~3月には、19.3%へと低下を示したが、その後4~6月には、31.7%、7~9月40.8%、10~12月46.2%へと急速に比重を高め、貸し出し残高(前年同期比)も37年12月末の18.8%増から、38年3月末には20.4%増、9月末には22.7%増、12月末には23.0%増へと増勢をたどった。この貸し出し残高の増勢テンポは 第4-4図 にみるように33~4年の景気回復過程に比べると緩やかであったが、その前年同期に対する増加率ははるかに高い。このように中小企業向け貸し出しが活発であったことは、沈滞的な大企業に比べて盛んな投資意欲を示す中小企業に対して全国銀行が積極的な貸し出しを行ったことのほか、資力の充実した相互銀行、信用金庫、信用組合などの民間系中小専門金融機関の貸し出し増加、さらには財政投融資に裏打ちされた政府系中小専門金融機関の融資量の増加が強く働いたためであった。
このような景気回復期の貸し出し増加のなかで中小企業の売掛、買掛の関係、企業の流動性はどのように変化したかを製造業を例にとってみてみよう。
まず、売り上げ債権超過回転期間(売り上げ債権回転期間─買い入れ債務回転期間)は 第4-5図(1) 第4-5図(2) に示すようと景気後退下で上昇し、好況期に低下するという循環変動を示しているのが特徴的である。同回転期間は前々回(32~33年)の景気下降期には21.5日から28.8日へと7.3日伸びたが、前回(36~37年)の下降期には22.4日から26.8日へと4.4日増加したに留まり、前々回に比べて小幅であり、それだけ中小企業の資金繰り緩和要因とL。て働いた。もっとも同回転期間を売り上げ債権回転期間と買い入れ債務回転期間とに分けると、前者(売掛)は前回の場合、前々回に比べてその長期化は著しく企業間信用の膨張は顕著であったが、後者(買掛)もかなり長期化し、その結果、売り上げ債権超過回転期間そのものはむしろ前々回に比べて前回の方が低かったのである。
この売り上げ債権超過回転期間は37年の金融緩和以降横ばいから低下傾向をたどり、その好転の度合いは34年の好況期ほどではなかったが、長期化をたどる大企業に比べると同回転期間の低下は中小企業の資金繰り緩和要因となっていることは否めない。
一方、中小企業の手元流動性(買い入れ債権務に対する現預金比率)は企業間信用と同様に循環的変動を示しているが、38年4月以降の売上高の上昇、借り入れの増加などにより現・預金は増え、さらには売上高に対する買い入れ債務の相対的な低下により、企業の手元流動性はかなり回復を遂げ、資金繰りはそれだけ改善の方向をたどった。