昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

財政

37年度財政の実行─安定機能の発揮

租税収入の推移

租税収入の伸び鈍化

 租税収入は36年度を通じてほぼ対前年同月比25%前後の高い伸びで推移していたが、37年度に入ってからは税減配分適正化による減収219億円を含めて初年度1,205億円の大幅減税が行われたことに加えて、景気調整が本格的に経済各分野に浸透していったことからその伸び率もかなりの低落を免れなかった。

 一般会計の租税収入累計の推移をたどると、4月はまだ減税の影響が少ないこともあって前年度比23.5%のかなり高い増加率を示していたが、5月には一挙に15.2%増まで急落し、以後ほぼ一貫して伸びの鈍化は続いて、年度間では7.7%の増加に留まった。

 第7-1図 は37年度において税制改正がなかったものとして主要税月別に増収の程度をみたものであるが、対前年増加率は一部特殊なものを除き軒並みに36年度を大きく下回った。

第7-1図 主要税の対前年増加率

 まず所得税では源泉分、申告分とも3割程度の好調な伸びを維持しているものの、申告分はやはり景気調整を反映して対前年増加率では36年度の半分程度に留まったのに対して、源泉分の方は一般的に給与所得の下方硬直性がみられる他初任給を中心とする中小企業給与水準の根強い上昇傾向に支えられて伸び率の低下は小幅である。

 法人税は、景気調整の浸透によって生産水準の弱含み横ばい、企業収益の悪化等その影響を直接受けただけ対前年増加率では36年度の約3分の1という大幅な低落を示した。6ヶ月決算大法人(資本金1億円以上)の申告所得の対前年比をたどると、36年は3、9月期とも約20%増であったのが、37年3月期には18.1%の増、9月期には0.2%の減となっており、企業収益の悪化状況を反映している。

 酒税、物品税の対前年伸びは36年度のほぼ2分の1に留まったが、これも景気調整過程で法人の経費節約や個人消費支出の増勢鈍化によるとみられる。

滞納税額の増大

 一方、金融引締政策が企業の資金繰り難を招いたことにより、租税滞納額の増大がみられた。 第7-2図 によって総滞納額前年同月比の推移をみると、33年度以降ほぼ一貫して減少していたが、36年9月金融引き締め開始と時を同じくして増勢に転じ、特に37年度に入ってからは急激に増大していった。しかし37年度の約3・四半期以降金融引き締めの解除に伴いその増勢にも鈍化がみられるに至った。

第7-2図 租税滞納額対前年比推移

 滞納税額の新規発生割合も4月の2.4%から9月には7.3%に達し、その後しばらくは横ばいに推移し、11月には7、5%の最高を記録したが、12月以降はやや低下傾向を示している。

財政支出の推移─弾力的執行

 予算及び財政投融資計画の執行にあたっては、予算編成方針にもある通り、37年度は特に弾力的運用に配意することにしていた。

 一方、37年度に入ってからは景気調整は本格的に浸透して行き、「鉱工業生産」の項に述べた通り投資財産業を中心に受注高はかなり減少し、一部業種では設備の遊休化も顕著になってきた。そのため、夏場以降民間企業では、むしろ積極的に財政による有効需要喚起の要望が強まってきた。

歳出予算の執行状況─支出の進捗

 一般会計歳出予算の執行状況をみると、 第7-3図 の通り、年度当初から例年より比較的すみやかに行われていた。すなわち、歳出予算現額に対する支出済み割合は、37年度の場合第1・四半期25.2%、第2・四半期までで47.2%、第3・四半期までで73.4%で、31~36年度業績平均よりそれぞれ3.3%、3.1%、2.4%上回っている。

第7-3図 37年度財政の執行状況

 このように歳出予算の順調な執行がみられたのは、近年特に政府投資活動の分野で有効な長期計面が整備されてきたことや、国庫債務負担行為に基づく支出が増大していることに加え、37年度は特に前年度に引締政策の一環として行われた支出の一部繰り延べ措置の影響もあって37年度への予算繰り越しがかなりあったことによるものとみられる。

 政府支出の中でも生産誘発効果の大きい公共投資の執行状況を一般会計目的別分類の「国土保全及開発費」の支出済み割合でみると、37年度の場合36年度に比べて第2・四半期まででは1.8%しか上回っていないが、第3・四半期までは6.4%も上向かっており第3・四半期にはかなり順調に支出が進んでいる。このような支出が早まったことは結果的には公共投資関連産業を中心に生産下降の下支えとなったとみられる。特に第3・四半期には、36年度の公共事業費を中心とする支出の一部繰り延べ措置に対する37年度の支出の進ちょくといった再年度に対照的な動きがみられた。

予算補正の内容─産投会計への繰り入れ350億円

 37年度一般会計予算については12月と2月の2回の追加補正が行われた。追加補正額は第1次542億円、第2次821億円であって、補正後予算は当初予算より1,363億円、5.6%増加して2兆5,631億円となった。

 第1次補正は公務員給与改善(220億円)、石炭対策(31億円)、災害復旧(134億円)、地方交付税交付金(157億円)が主なものであり、第2次補正は産投会計繰り入れ(350億円)、失業保険費負担金等義務的経費の不足補てん(206億円)、地方交付税交付金(237億円)が主なものである。

 37年度の追加補正も当然必要最小限度のものに限られており、補正規模、補正率共に35年度(1,955億円、12.5%)、36年度(1,546億円、7.9%)をかなり下回っている。ただ、補正後予算に対する租税及び印紙収入の自然増収が35年度938億円、36年度1,981億円、37年度176億円(4月末見込み)であったことからも分かる通り、37年度の場合は見込まれる財源をほぼ全部当年度の歳出に充当し、しかもそのうち第2次補正で38年度以降の財政資金出資需要の増大に備えて350億円にのぼる多額の産投会計への繰り入れが含まれている点、財政運用の弾力的配慮を示しているとみられる。

財政投融資の執行状況─財政資金の機動的投入

 財政投融資活動は予算より財政会計手続き上の制約が少ないだけに、より一層弾力的執行が図られた。

 まず 第7-3図 の(2)は財政投融資計画のうち公募債・借入金を除く財政資金による執行状況をみたものである。37年度の計画額に対する執行割合は、36年度に比べて第1・四半期3.0%、第2・四半期までで3、4%、第3・四半期までで7.4%、年度間を通じて5.6%向かい。これは36年度計画のかなりの部分が37年度にずれ込んだことにもよるが、更に第3・四半期においては電力に対しその資金繰り緩和のため50億円の繰り上げ融資を行うなど全体として執行の促進が図られたからでもある。財政投融資計画は年度間8回、計786億円の追加改訂が行われた。その主なものは10月と2月中小企業金融対策計170億円、11月予算補正に関連した石炭対策100億円、12月硫安工業合理化対策の決定に伴う103億円、1月新幹線工事資金不足補てんのための国鉄向け161億円などである。

 財政資金の短期運用の面では経済情勢に即応し、一層機動性が発揮されている。第1に、中小企業向けオペレーションである。その推移は 第7-6表 にみる通りで、第1回6月下旬と7月下旬、第2回12月上旬、第3回2月下旬といずれも資金需給のひっ迫時期より早めに実施された。第2は、同じく中小企業金融対策として政府関係中小金融機関に対する短期融資で6~9月に計150億円、11~12月に計140億円、2月に計40億円実施された。なお、11~12月の140億円は長期資金の追加110億円と合わせて年末金融対策として、2月の40億円は長期資金の追加60億円と合わせて年度末金融対策として行われたものである。第3は、電力の資金補完のための興長銀を通じる融資で、10月下旬に50億円行われた。

第7-6表 中小企業金融対策

政府支出の生産下降に対する下支え─産業連関表による分析

 次に、産業連関表によって、37年度の財政が鉱工業生産の上昇に対してどの程度寄与しているかを当庁調査局試算によってみよう。

 経常的支出と資本的支出を合わせて政府支出(37年12月現在の実績見込み)は、家計消費の94%や輸出の123%と並んで83%程度の高い寄与率を見込まれており、36年度の15%に比べてはもちろん、景気後退期にあたった33年度の66%をも著しく上回り、景気下支えの大きい効果を発揮している。特に、政府の資本的支出だけでも約67%の寄与率が見込まれるから、仮にその他の最終需要が前年度並であったとしても、これだけで鉱工業生産を3%程度押し上げる要因となり得たわけである。

 更に、産業別に各最終需要の鉱工業生産上昇寄与率をみた 第7-7表 によると、36年度と比べて、民間固定投資の寄与率はいずれの業種でも大幅に低下したのに対し、政府の資本的支出はすべての業種で寄与率をかなり高めており、特に非鉄、機械、窯業、土木では高い寄与率を示すと共に、36年度より減産した業種である鉄鋼、鉱業に対しても大きい下支えの役割を果たしている。

第7-7表 最終需要の産業別生産上昇寄与率

財政収支─散超基調への転化

 37年度の財政が前年度剰余金等繰り越し財源を取り込んだ上に税収の伸び鈍化、財政支出の促進、更には国際収支の改善がみられたことによって財政資金対民間収支は、35年度下期来の揚げ超基調から37年度第1・四半期後半には散超基調へと転じ、その後も一段と散超幅を拡大していった。

 第7-8表 は財政収支の実績をみたものであるが、37年度は前年度に比べて揚げ超幅の減少ないしは散超幅の拡大等対照的な動きをみせた。

第7-8表 財政資金対民間収支の推移

 そこで更に過去にさかのぼってその基調的変動の推移をみたのが 第7-4図 である。今回の景気下降の場合を前回の場合と比較すると、今回景気がピークに近づいたころの財政の揚げ超幅は前回のときより一段と拡大して金融引き締めの強い素地となったが、その後は今回の方が景気下降は緩やかであったにもかかわらず、揚げ超幅縮小の足は早く、37年度第1・四半期後半には早くも散超基調へ転じ、散超幅も前回より拡大している。この理由としては今回の方が多額の前年度剰余金や前年度歳出予算繰り越しの受け入れがあったこと、財政支出の促進がみられたこと、更に夏場以降年末にかけては食管が米の生産者価格の引き上げと空前の豊作から著しい散超となったことなどを挙げることができよう。

第7-4図 財政収支の波動と景気動向

 財政資金対民間収支は、特に第3・四半期には食管、外為の散超幅拡大を主因として全体でも著しい散超となり、36年度とは逆に金融緩和の強い素地を形成していったが、このような情勢のなかで10月以降引締政策の順次の解除をみるに至ったのである。その後も財政収支の散超基調は進展を続け、金融緩和を支える大きな要因となっている。

 以上37年度財政の歩みをみてきた。37年度も減税、公共投資、社会保障等重要施策の推進に努力が傾けられたが、その全体の規模においては輸出、家計消費と並んで民間投資の沈静がもたらす過度の生産水準の下降に対する適度な下支えとなったが、その執行面では財政収支の推移が示すような財政自らの安定機能の発現と相まって、経済動向の推移に即応して財政資金の機動的かつ効果的投下等弾力的配慮が加えられたことにより景気下降局面での摩擦を排除しつつ景気調整の円滑な進行を助け、経済の安定成長路線への復帰を促進していった効果は大きかったといえよう。


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