昭和38年
年次経済報告
先進国への道
経済企画庁
昭和37年度の日本経済
中小企業
業種、業態別の明暗
減産に転じた機械、金属
前年比19%増の生産を示した36年度の中小機械工業は、37年度には逆に8%の減少を示した。これに対して大手機械工業では、36年度の27%増から37年度には8%増と伸び率はかなり鈍化したものの、前年度を上回る水準を保った。中小機械工業の減産は、下請け中小機械メーカーの受注減少と、大手機械メーカーとの販売競争の激化などの影響を受けたためである。
今回の調整過程で大きな影響を受けた下請け中小企業の動きを「中小下請け工場調査」(中小企業庁調べ)でみると、 第3-2図 にみるように1下請け工場あたりの親企業への納入額(指数)の対前年同月比は37年に入って急速に低下し6月には15%減という状態を示すに至った。その後同比率は一時的に上昇を示したが、再び低下し、37年度下期の納入額は上期より3%減、前年同期より12%下回った。業種別に37年度下期の納入額と前年同期とを比較してみると、自転車(48%減)を筆頭に、造船(45%減)、通信機械(41%減)、金属製品(38%減)、産業機械(37%減)、電気機械(35%減)などの減少が著しかった。
第3-2図 下請中小企業の納入金額(指数)の推移(対前年度比)
このように納入額が減少するなかで、決済条件は手形入金率の上昇、受取手形サイト、検収期間の長期化、売掛残高の増加など引き締め強化後の悪化が目立つようになった。同調査によると、37年4~6月の手形入金率は前年同期の40%から49%へと高まり、手形サイトも前年同期には全体の66%を占めていた90日以内のものが33%へと半減している。下請け中小企業はこのような納入額、決済条件の悪化ばかりでなく、 第3-3図 に示すように同時に受注単価の値下がりの影響を受けた。前期に比較して「下落した」という下請け企業数は、37年度に入ると急速に増加し、7~9月にはその割合は3分の1にも達している。この受注単価下落の理由をみると「合理化により親企業との話し合い、または指示によるもの」が減少し、逆に「一方的な引き下げ要請」と「下請け企業相互間の競争によるもの」が多くなっている。このため受注に対する利益状況は期を追うごとに悪化し、下請け企業中「コストすれすれ」というものの割合は、37年1~3月の26%から7~9月には41%に増え、逆に「コストより若干の利益」があるというものは、その間73%から57%へと大幅に低下を示している。
好調な消費財と輸出国連業種
不調な機械、金属に比べれば、消費財及び輸出関連業種は景気調整下にもかかわらず比較的順調な歩みを示した。もちろん、消費財のなかには、繊維のように前回同様引き締めを契機に中間流通段階の換金による安ものの出回りが景況悪化の端緒になり、市況の低落、在庫の累増から、操短の実施とその強化を続けたものや、あるいはまた、輸出関連業種の中でも、合板のように輸出の不振から市況の低落、採算悪化を招き、37年度には生産調整の強化を行ったものもある。しかしながら、同じ繊維でも綿糸、そ毛糸よりも織物、織物よりも二次製品と、最終需要に近くなるほど景気調整の影響度は少なかったといえる。特にメリヤス製品、洋服、中衣、肌着などでは、年度間を通じて堅調な歩みを続けた。
引き締め緩和後、繊維市況の回復に伴い中小紡、中小機屋の景況は明るさを取り戻しつつあるが、 第3-2表 の織物生産の例にみるように、中小企業と大企業の回復はかなりまちまちの動きを示した。また絹織物のように37年末から38年にかけての生糸の高騰によって減産をよぎなくされるなど、景気回復後の動きも明暗区々の様相を示した。
他方、輸出関連中小企業の好調な動きは、金属がん具、金属洋食器、陶磁器などに代表される。
例えば、金属がん具では例年8月をピークに低下する輸出が、37年度下期においても好調を持続し、また内需も最高を記録した36年度を上回るという状態を示した。採算面では労働力の不足による労賃の上昇という圧迫要因もあったが、逆に薄板、ゴムなどの原材料価格が値下がりしたため、これらの中小企業でかなりの好収益を挙げることができた。輸出がん具の高級化、立ち遅れていた生産工程の改善、需要増大に対処する量産体制の整備などの気運が高まった。金属洋食器は主力のアメリカ向けを始め、西ドイツ、カナダ向けなどに輸出が順調な増加を示し、内需も生活洋風化の進展からセットものを中心として好調な歩みをたどった。このような出荷増大を反映してこれまで過当競争に悩み続けてきた金属洋食器もようやく37年度半ばには落ち着きを取り戻し、年度下期には価格修正の動きもみられるようになった。
また、陶磁器も36年度に低迷した輸出は37年度にはいると引き合いの増加をみせ、年度間を通じて好調な歩みを続けた。内需も設備投資停滞の影響を受けた陶磁器関係を除いて比較的順調に推移した。ただ諸原材料費、人件費の値上がり、決済条件の悪化などから、37年度の経営は必ずしも向上したとはいえないが、不振にあえいだ36年度に比べると明るさを増したといえよう。