昭和35年
年次経済報告
日本経済の成長力と競争力
経済企画庁
日本経済の国際競争力と構造政策
日本経済の国際競争力の評価
国際競争力の現状
日本産業の近代化はここ数年著しく進展したとみられる。近代化の促進は技術革新投資の増大による生産設備の合理化及び需要の急速な拡大に伴う市場構造の近代化、この両面を通じて行われた。特に昭和30年頃から始まった新産業の発展とこれに伴う新製品市場の拡大は極めて著しいものがあり、発展の可能性を秘めたこれら新産業もようやく、国際競争力の基盤をかなりの程度に備えるにいたったとみてよい。しかし先進諸国のレベル比較すれば競争力の絶対的水準はまだ相当に低いものが多く、既成の産業にしても原料条件の不利や、技術水準の低位から国際競争力がはなはだ劣るものが見受けられる。そこで我が国産業の国際競争力を次に述べるような諸点を中心として検討しよう。
産業別にみた国際競争力
まず始めに国際競争力の現状を産業別に一わたり概観することによって問題の所在を明らかにしよう。
輸出条件からみても、輸入条件からみても現在既に国際競争力をかなりの程度に備えた産業がいくつかみられる。これらの産業は輸出規模も相当な水準に達し、国内市場のみでなく海外市場でも競争力は強い。繊維(綿、絹、人絹、スフの一次製品)、衣類、合板、陶磁器、雑貨、普通鋼、船舶、カメラ、ミシン、繊維機械、鉄道車両、セメント、塩ビ樹脂などの諸産業がこれに相当する。これらの製品のうちには鉄鋼(普通鋼)、繊維(一次品)、船舶、カメラ、車輌のように世界的にも高度の技術を背景として十分輸出競争力を有しているものと、雑貨に代表されるように低賃金を基盤として競争力が支えられているものがある。また両者が結合して競争力を強めているものも少なくない。
このように競争力を十分備えた産業もかなりあるが、競争力が乏しく、輸入品に対抗できないおそれがあるものも多い。国内市場においても国際競争力が十分でない産業は(一)資源条件が劣悪で競争力がないものと、(二)産業発展の将来性がありながら、現段階では競争力が十分でないものの二つに大別されよう。
産業基盤の劣弱な産業
資源基盤の脆弱性のために国際競争力が非常に乏しいものとしては、石炭、非鉄金属が挙げられ、パルプ、ソーダも原料条件が劣悪なために競争力が弱い。
これらのうちでは石炭が最も競争力に乏しい。国内原料炭は輸入炭に比べ3割近くも割高だし一般炭も1割以上割高である。一般炭は特に重油との競争で深刻である。これは抗内構造の不備や炭層条件の劣悪によって労働生産性が非常に低いことに基因している。
非鉄金属の場合もこれとほぼ似たような条件にある。なかでも銅、ニッケルの劣位はおおい難い。ソーダやパルプは石炭や非鉄金属のような資源産業ではないが、原料塩、原木が極めて割高なために製造工程で割高幅を吸収しきれない産業である。原料塩は輸入に依存しているが、我が国の場合海上輸送距離が長いので非常にコスト高になる。ただソーダ工業にしてもパルプ工業にしても石炭や非鉄と違い、合理化の余地がかなり残されている。ソーダでは塩素の利用、塩安の併産などがあるし、パルプでは濶葉樹への転換、木材糖化のごとき木材利用高度化などが挙げられる。しかしそれにしてもこれらの部門は資源基盤の劣弱を完全に克服することは難しい。
成長産業で競争力未成熟のもの
同じく競争力が不十分であっても成長率が高く、今後市場拡大とともに競争力が次第に培養されるとみなされる産業もある。これらのなかには将来産業構造高度化の中心となるべき産業も少からず含まれている。特に重化学工業に属する産業にその例が多い。
もちろん重化学工業のなかでも国内市場において外国品と十分対抗できる競争力をたくわえてきたものもいくつか挙げられる。例えば競争力が弱いとみなされる機械工業でもテレビ、ラジオ等耐久消費財、ベアリング(高級品を除く)、農業機械、大型を除く建設機械、トラック、バス、鉄道車両、二、三輪車などがそれに相当する。また科学工業のなかでは肥料、塩化ビニール、尿素樹脂、メタノール、ホルマリンなどは十分競争力があるとみられよう。 しかし重化学工業の多くはまだ競争力が少ない産業である。それらは(1)これまで市場の狭脆と技術の後進性から競争力が培養されなかった産業、(2)新産業であるためまだ十分に競争力がついていない産業、の二つに大別されよう。
(1)に属する産業としては特殊鋼、化学機械、工作機械、圧延機械、計測機器、乗用車などが挙げられる。特殊鋼ではニッケル、モリブデン等原材料の割高、生産規模過少、圧延技術の遅れなどによって、工具鋼をはじめとして競争力が弱い。工作機械では専門生産体制の遅れ、特殊鋼の割高などが競争力劣位の原因をなしている。乗用車も材料割高、部品工業の遅れ、量産規模の過少によって輸入車と対抗できる力はまだ育っていない。圧延機械、化学機械などの場合でも競争力が不十分な原因は上に示したような分野と共通している。
以上のように(1)に属する産業の全ては多品種少量生産の不利によって国際競争力が弱められている分野である。しかし、共通してこれらの分野では最近量産専門化の体制が次第に確立されつつあり、国際競争力強化への曙光が見出されている。(2)に属する産業としては石油化学、合成繊維(アクリル及びエステル系等)、電子工業(オートメーション機器、計算機等)、などが挙げられる。例えば石油化学の場合、工業化の初期段階にあるので規模が小さく、副産物の総合利用も遅れている。 エチレンの場合では年産2万トン規模と4万トン規模では、工場原価で16%の開きが出るが、日本ではアメリカに比べると小規模工場が乱立していて、国際競争力を弱めている。
以上みてきたように我が国産業の国際競争力は部門によってそれぞれニュアンスの相違が認められ、一律に評価することはできない。しかし産業全体のうちでは一応国内市場において国際競争力があるとみとめうる産業は過半のウェィトを占めているものとられる。ただし、現在競争力の乏しい産業のなかには既にのべたような今後の成長性の大きな新産業や資源条件に制約された鉱業物資が多く、自由化の展開に当っても慎重な配慮を必要とする点を見落してはならないであろう。
原料費からみた国際競争力
このように日本の国際競争力は産業によって相当な開きがみられるが、それは原料条件の差あるいは生産性、技術の開きによって規定されたものである。しかし、原料条件が劣弱で競争力に乏しい産業でもここ数年の発展過程でそれを克服しようとする努力が強められてきた。それがどのような形で展開したかを次にみていくことにしよう。
我が国の原料取得条件は国際的にみて2-1にみたごとく決して有利ではない。エネルギー資源、金属資源は工業生産の最も重要な原料であり、これら原材料の割高は影響するところが大きい。
エネルギー価格の割高は工業全体に響くし、金属資源の割高は金属価格の割高を通じて機械工業製品のコスト高を招く。従って素原料→中間原料→最終製品の各段階においてこのような原料資源の割高を次第に吸収することが、国際競争力を強めるために欠かせない条件である。
事実、昭和30年以降の設備投資は原料節約技術の向上を目指したものが少なくなく、原単位の切下げという形で合理化は相当に進展した。一方、原料条件の不利をカバーするのは原単位切り下げのみでなく、製品の加工度を高めることによっても可能である。加工度が上昇すれば製品コストにしめる原料コストの比重が低下し、原料条件不利の影響は少なくてすむ。原料条件の不利はさらに資源転換によっても克服できる。割高な原料からより割安な原料に転換することによっても原料コストの低下が可能となる。原料節約技術のみならず加工度向上、資源転換によって我が国産業の国際競争力は最近とみに強化されてきたものと考えられる。
原料節約技術の発展
まず原料節約技術の向上による原単位切下げは原料条件の不利が最も強く現れている鉄鋼業において特に著しかったといえる。鉱石輸送の遠隔化、国内原料炭の割高、世界的な供給不足による屑鉄の相対価格上昇などに対応して、製銑段階では原料処理技術の向上、高炉大型化などによって各種原単位は大幅に改善された。例えば高炉技術の指標とされるコークス比をみるとここ2~3年間の低下傾向は著しく、世界でも( 第II-2-1図 参照)最低の0.6台を記録するにいたった。また、製鋼段階では酸素の大量使用により、熱量原単位の低下が大きく、屑鉄使用量も大幅に節約された。特に純酸素転炉の出現によって平炉鋼に匹敵し得る鋼質の転炉が生産可能となり、その効果は大きかった。日本鉄鋼業の酸素利用技術は世界でも一流の水準に達したとみてよい。鉄鋼業以外の金属産業でも原料節約技術の向上は著しい。例えばアルミニウム工業では電解炉の大型化が進み、従来の3万アンペア級の電解炉から最近では7~10万アンペア級へと発展し、これにより電力原単位は20%も低下を示している。金属以外は素材供給産業においても原料節約技術は発展している。セメント工業では熱管理技術の向上によって熱量原単位はここ三年間目立って低下したし、パルプ工業でも原木使用量は引き続き低下を示している。( 第II-2-2表 参照)
これら素材供給産業と並んで、国民経済の基礎的部門を形成する電力業も原料節約が進んでいる。水力開発地点の減少に伴い、火力へ重点が移行しているが、それによって石炭価格割高の影響が強くあらわれてきた。このため大容量高温高圧化された火力発電所が各地に建設され、新鋭火力の比重が高まることによって、全体として電力業の熱効率は 第II-2-2図 のごとく次第に上昇している。
このように素材供給産業、エネルギー産業などでの原料節約は目立って改善されてきた。
一方、加工産業でも原料費切り下げのための諸方途が講ぜられ、その効果も次第に上ってきている。加工産業の代表とされる機械工業は金属価格割高の影響を特に受けやすい、かつて日本の自動車が非常に競争力に乏しかった理由の一つは薄板をはじめ鉄鋼価格が割高な上に、材質が悪く歩留り低下重量の増大を招いていたからであった。最近ではこうした材料割高は次第に改善され、材質も向上した。板類生産のほぼ55%は現在ストリップミルで生産され、このため歩留も向上し、深絞り性、塗装性など薄板の性質は非常に改善され、自動車産業の発展に貢献している。薄板のみでなく特殊鋼、構造用鋼、鋳物の材質向上も著しい。
このような効果は例えば自動車生産における不良品発生率などにはっきり伺うことができ30年に比べて材料加工における不良品発生率が55%も低下したという例が知られている。このほか材質向上と並んで、設計技術の進歩による材料節減も著しく進んでおり、軽量化による原料節約が随所にみられる。 第II-2-3図 はそのような例の代表である。
加工度の向上
次に加工度の向上について述べよう。例えば工作機械では普通旋盤にならない装置をつけたり、高速精密化したりすることによって重量当たり金額は相当に上昇する。電子コントロールの工作機械などになればなおさらである。このような方法を採用すれば原料条件の不利を技術の向上でカバーできるわけである。
こうした加工度の向上も各産業で最近著しく進展している。第2表は加工度の推移を主な産業について示したものある。加工度を示す指標は色々と考えられるが、ここでは主要原材料消費量または製品重量あたりの実質売上高を指数化したものを加工度指数として採用した。この表からわかるように加工度向上が著しい部門は機械工場、鉄鋼業である。ゴム工場などのごとく技術進歩が眼界に達した産業では加工度向上はそう大きくない。鉄鋼業ではストリップミルの製品を中心に、各種新製品を次々とつくり出すことによって加工度向上が進んだ。ガードレール、軽量型鋼、被覆銅板、メタルラス、スパイラル鋼管、ワイドフランジビームなどの新製品がそれである。機械工場でもより高級機種への移行によって加工度が上昇している。例えば化学機械の場合、従来はポンプやコンプレッサーのごとき単一機械に重点がおかれていたものが、次第にプラント全体の設計製作に力が注がれるようになった。自動車でいえば従来三輪車を中心とした企業が四輪車へ乗り出すことによって加工度が向上した。耐久消費財では洗濯機や扇風機から冷蔵庫に移行することによって加工度が上昇している。
機械工場の加工度向上は記述や経営の問題にも深く関連しているから、これについては後にふれよう。
資源転換
このように原料節約、加工度向上によって原材料コストはかなり低下してきた。しかし原料条件が決定的に不利な産業では積極的により安い原料へと資源転換が進められねばならない。このような例の代表としては化学工場が挙げられよう。硫安工場では水素ガス源として従来コースク、電解水素が使用されていたが、石炭や電力の割高化により重油、原油へとガス源転換が進められた。 第II-2-4表 のごとくガス源にしめる石油、天然ガスの比重は次第に増加している。このほかソーダ工業でも天然ガスが使用されるようになったり、アセチレン工業も石油へ原料を求めようとしている。またパルプ工場でも原木の割高化から針葉樹から濶葉樹へと転換が進められている。
さらに次の事実にも注目する必要がある。それは技術革新の進展によって、割高な農林産原料や鉱物性原料から次第に加工原料への原料転換が進められている点である。これは世界的な傾向だと考えられる。 第II-2-4図 及び 第II-2-5図 は世界及び日本の原料消費構造の変化を示すが、加工原料の比重が高まっていることがはっきりしよう。このように第一産業生産物に対する依存が次第に希薄化することは資源に恵まれない日本経済にとって有利な兆候である。原料消費構造の変化は今後も日本産業の国際競争力を強める方向に作用すると考えられよう。
原材料費比率の国際比較
上に示したように、原料節約技術の発展、加工度の向上、資源転換を通じて、日本産業にみられる原料条件の不利は次第に克服され、国際競争力の強化が次第に進んできた。
全体として我が国産業の原材料費がどのような推移を示し、かつ国際的にみていかなる水準にあるかを比較するために 第II-2-4表 をみていただきたい。これは部門別に出荷額にしめる原材料費比率を比較したものである。第一に鉄鋼、一般機械、電気機械をはじめとして原材料費比率はここ数年大幅に低下していることが明かになろう。第二に改善のあとが著しいにせよ、絶対水準を米国などと比べると、原材料コストの比重がまだ非常に大きい。このようにみてくると原料節約、加工度向上、資源転換によって原料費の低下をさらに促進する必要が十分認められる。しかし原料節約技術の改善は各産業で相当普及し限界に近づいた面もあると考えられるから、加工度の向上と資源転換の促進が一層必要になろう。資源転換はエネルギー政策に関連するものが多く、なお問題が残されているが、加工度の向上は機械工業や化学工業を中心として今後に期待されるところが大きい。
生産性からみた国際競争力
上に述べたように原料費からみた国際競争力は最近次第に強化されてきているが、競争力を規定する他方の要因、生産性について次に検討しよう。生産性を規定する要因は技術及び量産効果である。従来先進国に比べて生産性が低位にあった原因はこの両者に求められる。
すなわち設備の機械化や自動化がおくれていたことや工場管理技術のまずさが生産性低位の要因になっていた。また市場が狭小で量産体制をとりえなかったために低生産性を生み出していた面もある。しかもこの両者は互いに関連がある。市場が狭隘で量産できなければ当然設備の機械化や自動化も発展しない。経営単位が小さければ工場の科学的管理などもおろそかになろう。このような関連で我が国産業の低生産性が形成されていたのである。
ところが昭和30年頃から国内市場の急激な拡大が始まり、最近の事情はかなり変わりつつある。市場拡大による量産効果が相当目立ってきたし、機械化や自動化も進展した。
量産効果の拡大
量産の成果が最も著しくあがっているのは機械工業である。我が国の機械工業は市場規模が過小で、少量多品種生産の体制が一般的であった。機械工業の生産性は自動車をはじめ量産効果の影響を強く受ける。少量多品種生産体制は当然低生産性の原因をなしていた。ところが耐久消費財や自動車工業の拡大が最近著しくなって、次第に量産体制も確立されつつある。
昭和30年には月産1700台あった乗用車が、34年には月産6700台に拡大し、上位のメーカーでは全自動車生産が月産1万台を越えるにいたった。この結果生産性の上昇も急激で、 第II-2-6図 にみられるように乗用車生産における工数は量産規模の拡大に比例しほぼ直線的に低下しており、所要労働時間は数年前の300時間から100時間の水準に到達するにいたった。
自動車工業は数千の部品からなる総合企業であるから、その生産コストは部品工業の生産性のも大きく影響される。日本の自動車が割高である原因は材料の割高とならんで、部品の割高にある。従来の部品工業では生産性が低いために生産コストが非常に高かった。一頃の部品価格は外国に比べ平均60%割高で、部門別には電装品で1.8~2倍、プレス鍛造部品1.6倍、完成部品1.4倍、鋳造部品1.2倍など2倍近くのものがあった。しかし親企業のシャシーメーカーが量産体制を確立するにいたって、32年はじめ頃から、下請部品工業も量産体制の整備を要求され、規格の厳守、製品精度の向上、コスト引下げ、スーパーマーケットシステムのよる確実な納期を迫られた。これを契機として急速に合理化が進み、生産性は大幅に向上した。わずか半年で工数が30~40%も低下したという例も少なくない。
このように量産体制の確立による生産性上昇は自動車工業において最も典型的にみられるが、産業機械においても多かれ少なかれそのような成果がみられる。例えば工作機械工業ではターレット旋盤、フライス盤、ボール盤などがある程度専門機種への分化が進み、部品の共通化も行われて多機種少量生産体制からの脱却が始まっている。このことは昭和30年頃の一ロット当たり生産が旋盤で平均4~6台であったものが34年には25~35台に増加している事実などによって伺えよう。
また、建設機械でも専用機を中心とした設備合理化、部品共通化によって工数が大幅に低下した。ブルドーザーのごとき量産機種では部品生産は自動車と共通した形に近くなり、セミトランスファーマシンの導入、チェーン・コンベアのよる流れ作業によって生産性は大幅に上昇した。
オートメーションの進展
量産体制の確立による生産性の上昇は以上のように機械工業を中心として非常に著しかった。他方オートメーションに代表される設備の自動化、機械化も各産業で取り入れられ、生産性の上昇に大きな役割を果たした。例えば鉄鋼業では原料処理の機械化、高炉の半自動化、平炉の自動制御、圧延の自動制御などオートメーション化が進展している。科学工業、石油工業などは早くからオートメーション化が進んでいる部門であるが、同じ装置であっても最近完成された新工場は以前に比べオートメーション化の水準が高くなっている。第2-2-5表は計器生産にしめるオートメーション機器の比率を示したものだが、その比重は最近非常に高まっており、オートメーション化が進んでいることを示している。
生産の現水準
以上のような量産体制の確立、設備の機械化、自動化の進展は大幅な生産性上昇を可能にし、これによって我が国産業の国際競争力は相当に強まったものと思われる。 第II-2-6表 は付加価値生産性の推移及び米国との比較を示したものだがこれから、次のような特色がうかがえる。第一に綿紡績、肥料、重電機、民生電器、電子管などの諸部門では生産性水準は相当に高まり、米国に比べればまだかなりの開きはあるにせよ、大体4分の1以上の水準に到達した。
ラジオ、テレビのごとく米国のほぼ半分までに高まった部門もみられる。これらの部門は国内の市場規模も大きく、技術的にも諸外国に比べあまり見劣りしない部門である。第二に合成樹脂に代表される合成化学、工作機械をはじめとした産業機械等の部門では、生産性水準は米国に比べてまだ低いが、上昇の度合は著しい。これらの分野は最近市場規模が急速に拡大したことによって量産体制の確立、著しい技術進歩がみられ、今後の発展が期待できる部門である。第三は綿織物や紙パルプのように市場拡大が限度に達したり、中小企業の比重が多く技術的にも停滞的な分野である。ここでは生産性水準も低いうえに上昇率もあまり大きくない。
以上を総括するといくつかの部門では先進諸国の生産性水準にかなり接近をみせてはいるが、米国に比べるとまだかなり多くの部門が2~3割という水準にある。市場規模の拡大を維持し、量産効果の発現を一段と進めることによって、日本産業の生産性をさらに向上せしめる必要が強くみとめれらる。