昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

日本経済の国際競争力と構造政策

西欧の貿易自由化とその背景

西欧における国際分業

 西欧における自由化がまず域内の自由化、ついでにドル地域の自由化という具合に漸新的に進められたことは前述の通りであるが、なぜ、このような段階的自由化が行われたのであろうか。むろん戦後のドル不足という事情があったことはその直接的な理由のひとつには違いなかったが、より本質的な原因として西欧の経済的社会的特質を見逃すことはできないであろう。一口について、彼等は早くから相互補完的な産業構造を形成しており、なるべく経済的な国境をなくすことが彼等にとっては好ましいことなのであった。つまり彼等の国際分業のあり方自体がもともと自由化を欲していたといえるだろう。

 この点を実証してみるために、代表的な経済ブロックである共同市場六ヵ国についての地域間投入産出表を、横方向に生産物の仕向先を、縦方向に購入先を示す行列の形にして作り、域内諸国の相互関連性及び域外諸国に対する依存度の状態の推移を調べてみよう。 第I-2-1表 は28年及び33年の国民経済全体に関する地域間投入産出表である。各国の国内総支出でその列の各項を割れば、その国の国内市場に供給されたものの内、何パーセントがどの国に依存しているかがわかる。これを供給係数と呼ぶことにする。 第I-2-2表 は、 第I-2-1表 に対する供給係数表である。対角線上の項は自給度を示す。

第I-2-1表 西欧の地域間投入産出表

第I-2-2表 西欧の地域間投入産出表の供給係数

 同様の表を各種の商品について作製し、これ等と国民経済表を比較し、またそれぞれの異時点間比較を行えば、西欧経済の構造的性格及び構造変化の方向を知ることができる。その概要は次の通りである。

構造について

 大国においては、国民経済全体についてのみならず個々の品目についても自給度が高い。国内市場が大きいので、どの産業にとっても安定市場たり得るため産業構造がかたよらないものと思われる。

 小国は全体の自給度が低く、ある品目については 完全に外国商品に依存する代わりに、その輸入代金をまかない、かつ国民経済の巨大な部分がこれに依存しているような特殊な発達を遂げている輸出産業がある。デンマーク、オランダの酪農品、ベルギーの鉄鋼、ノルウェーの海運、スイスの精密機械等がその例で、このような典型的な国際分業は小国においてのみ存在している。

 地理的に近い所ほど相互依存度が高い。同じ程度の発展段階にあり政治的社会的問題がない場合にはこれは当然の現象といえる。

構造変化について

 国民経済の自給度は全部が低下してきており、域内他国からの供給係数は9割まで増大している。貿易自由化の結果、国際特化が進み域内貿易が盛になったということは、一般的な原則として妥当する。

 イギリスからの供給係数はドイツの場合を除き低下している。貿易自由化が相互に行われたとしてもその結果が必ずしも相手国市場におけるシェアーの増大をもたらすものではなく、結局ものをいうのは輸出競争力であることを示している。

 アメリカに対する輸入依存度は各国において増大している。28年当時には、アメリカと西欧との生産性の格差は相当大きかったと思われる。そのため対ドル輸入自由化に主な伴ってアメリカ商品の対欧輸出の伸びは西欧全体の輸入増加率を上回り、シェアーの増大をもたらした。

 域外の「その他諸国」の供給係数はドイツの場合を除き減少乃至横ばいであるが、33年は西欧としては不況の年で原料輸入が激減した時であり、原料供給国は殆ど全て域外の「その他諸国」に含まれていることを考えれば、域外諸国のシェアーが景気後退による一時的現象を除けば、この六カ国の市場において減少する傾向にあると考えることは誤りであろう。

 以上は自由化に伴う現象の一般的な表れであって、個々の商品が全てこうなっているということではない。例えば、農産物としてのチーズ、基幹部門としての工作機械、成長産業としての人造繊維においては、これと反対の傾向を示す場合、すなわち自給度が上がったり相互交流の割合が減少したりした場合も多い。これには産業保護政策や合理化投資によるコストダウン等の要因が働いているものと推測される。


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]