昭和35年
年次経済報告
日本経済の成長力と競争力
経済企画庁
昭和34年度の日本経済
国民生活
所得消費の階層別変動
本年度の国民生活は、前述したように前年度とほぼ同程度の改善を示したが、これを階層別にみると、おおむね各階層を通じて均衡を保ちながら改善されている。
その第一は、都市世帯と農家世帯との所得・消費の増加率の差が少なかったことである。前述したように勤労者世帯の所得増加率は7.8%であり、農家世帯は現物を含めた所得で8.8%と両者の差はほとんどみられなかった。また、消費水準についても同様であり、勤労者世帯の4.7%増に対し、農家は5.0%自営業主、職人層等の都市一般世帯は4.8%の上昇で勤労者世帯とほぼ同率である。
第二には、勤労者や農家の内部における所得階層差が比較的少なかったことである。全都市勤労世帯の五分位階層別可処分所得を前年と比べてみると、各階層ともおおむね8%前後の増加を示し、増加率にほとんど差がみられなかった。消費支出においては中所得層の増加がやや目立ち、第一階層の4.9%、第五階層の6.0%に対し第三階層は7.3%の増加を示した。すなわち低所得層では所得増加のかなりの部分が家計の赤字解消に向けられており、高所得層では家具什器は前年とほぼ同程度の増加率であるが、前年著増した設備修繕費が減少し、雑貨関係の支出増加も鈍り、平均消費性向では大幅に低下したことが影響している。これに対し中所得層の大幅な伸びは家庭用電気器具を中心とする家具什器の購入が前年よりさらに高い上昇を続けたことにある。
また農家の可処分所得を耕地面積別にみると、下層及び上層の増加率が幾分高かったが、各階層間の差はわずかであった。上層農の増加率がやや高かったのは、豊作による農業所得の増加率が大きかったことによるものであり、下層農では好況による就業機会の増大や賃金の上昇等による労賃所得の増加が著しかった影響である。なお家庭用電気器具の購入等については上農層と勤労収入の多い下層農家での増加が目立った。
さらに日雇労働者層、生活保護世帯層などの低所得層でも本年度は好況による民間就労日数の増加、世帯員就業率の上昇、生活保護費の増額と福祉年金の実施などで所得消費とも前年を上回り、一般勤労世帯との所得格差もあまり拡大をみなかった。
このように34年度の国民生活は、比較的均衡を保ちながら大部分の層で着実に向上した。しかし、このような中においても貧困に沈殿する層が依然減少しなかったことは注目を要することである。 第14-3図 に示すように職安登録日雇労働者数は、34年1~3月の55万人から35年1~3月には56万人へわずかながら増加し、生活保護世帯数は59万から61万へ増加している。しかもこの増加を生活保護世帯について府県別にみると、大部分の府県では減少しているが、福岡を中心とする北九州3県が前年に比べて約2割増加したのをはじめ、香川、広島、愛知などの諸県でも増加がみ轤黷驕Bこれらの人々は愛知の風水害被災者等を別とすれば、石炭・塩田等いずれも産業構造変化の途上に発生した離職者や、駐留軍関係離職者等である。このような特定地域に大量に発生した中老年離職者層は、我が国における特殊な賃金構造と職業再訓練施策の不充分さ、産業間地域間の労働移動の不円滑性などと結合して、貧困層に沈殿したものであって、今年度のような高い経済成長の下でも、その恩恵を受けなかった層である。しかも産業構造の変化は技術革新や自由化の推進等によってさらに急速化する可能性もあるので、その動向は今日における重要な問題といわねばならない。