昭和35年
年次経済報告
日本経済の成長力と競争力
経済企画庁
昭和34年度の日本経済
建設
公共事業の拡大要因
34年度の公共事業支出は 第6-2表 のごとく約3,900億円と前年度より35%の増加をみた。これは公共事業の増加率としては著しく大きく、 第6-3図 のごとく、31年までの数年間の持ち合い傾向や、その後の増加率11~14%に比すれば画期的ともいえる伸長を示すものである。その項目中でも、災害復旧費は従前に比して特に顕著な増加をみたものであって、28年以来減少ないし持合いとなって推移してきたこの項目は、ここで再び28~9年の水準に立返った。他方、産業活動の基礎として年々強力な推進が図られている道路港湾投資の増加も大であって、この二つの方向から昨年度の公共事業の急激な拡大が起こったものと考えられる。
伊勢湾台風をはじめとする34年度の災害は、戦後最大といわれた28年度災害を上回る規模となり、人工稠密な臨海都市の災害として、その被害も第2次第3次産業のものが多いという特色を示した。28年以降33年までは大災害も少なく、災害関係を除く治山治水投資も概ね横ばいに終始したが、一度気象条件が悪化すれば大災害の発生は不可避であるため、財政の裏付けある長期計画の樹立が次第に強く要望されるようになった。34年4月内閣に設けられた治山治水対策関係閣僚懇談会においてその検討が進められ、総額1兆円を上回る10ヵ年計画について詳細な検討が行われている。実施面においても、35年度より治水特別会計及び国有林野特別会計中治山勘定の新設により、大部分の治山治水事業を一般会計から分離し、資金運用部資金をも導入して円滑能率的な事業遂行態勢が整えられた。
次に産業基盤の整備の面では、道路、港湾ともに33年度から実施の5ヵ年計画によって事業の急速な拡大をみせている。(「交通通信」の項中道路及び港湾の部分を参照)34年度に新設された首都高速道路公団は、全国の交通網中特に著しい混雑によって、麻痺的な現象さえ散見される首都の交通機能の強化に道路の面で重要な役割を果たすものと期待されるが、これによって昭和40年までに8路線約70kmの首都高速道路が建設される予定である。港湾についても、新たに「特定港湾施設工事特別会計」が設けられて、資金運用部資金及び民間資金を導入し、総額533億円をもって外国貿易及び石油、鉄鋼、石炭に直接関係のある特定港湾の設備と近代化が促進されることになった。
これらの部門と並んで、生活環境整備の部門の重要性も次第に大きく注目されるようになっている。経済水準の上昇に伴って、快適な生活を営むための環境がこれと歩調を合わせ整えられる必要があるという要望は、加速度的に強くなってくる。下水道の例にみれば先進国の諸都市がいずれも100%近い普及率を示すのに対し、我が国では東京27%、大阪31%、名古屋49%程度にしか達せず、著しく立遅れた状況にある。34年度の都市関係事業費は対前年比140%と比較的大きな伸長を示しており、この大半の部分が下水道整備に向けられている。
以上にみるごとく、公共事業は経済発展に対応し益々重要な使命を課せられ、その規模の拡大に伴って他の経済活動に与える影響力も増大してゆく。従って経済成長に対して最も効果的に投資が行われるよう総事業量、各事業間の投資配分、投資の地域配分について、次第に慎重な検討が必要になると同時に、一般の経済活動に先行して、これを合理的な姿に誘導する役割が重要なものとなってくる。各事業毎の長期計画が漸次整備されて、経済成長を保障する基盤としての性格が徐々に明らかにされつつある現状から、さらに歩を進めて、適正な公共投資の輪郭が画き出されるような方向に一層多面的な前進が望まれるのである。