昭和35年
年次経済報告
日本経済の成長力と競争力
経済企画庁
昭和34年度の日本経済
貿易
貿易物価の動き
34年度においても、交易条件は引き続き改善をみ、国際収支の均衡を維持するうえに、大きな役割を果たした。すなわち、通関ベースにより28年を100とした指数でみると、34年度の交易条件は、109.8と前年度の103.9をさらに上回った。32年以降、交易条件は引き続き改善を続けているが、前年度における改善が、輸出物価の下落にもかかわらず、輸入物価がさらにそれを上回って下落したことによってもたらされたのに対し、34年度の交易条件の改善は輸入物価の低下のほか、輸出物価の上昇によるところが大きかった。
まず輸出物価についてみると、前年度において既にその下落テンポは鈍化していたが、34年3月を底に上昇に転じ、年度間6.3%の上昇をみ、年度平均では前年度を2.2%上回った。上昇の中心となったものは、前年度において著しい下落を示した、繊維、金属であり、それぞれ年度間13.1%、8.6%と大幅な上昇をみた。そのほか前年度においても堅調であった食料品、木材製品なども引き続き上昇した。しかし一面、薬材化学品は前年度に引き続き、化学肥料を中心に大幅な下落をみ、また前年度において比較的堅調であった雑品、機械類、非金属鉱物製品なども下落している。さらに上昇をみたもののうちでも、繊維など、輸入原料の下落により交易条件を著しく改善したものもあり、逆に合板など輸入原木の騰貴により交易条件が悪化したものもある。このように輸出物価が上昇したといっても、商品別の動きにはかなりの相異がみられる。しかし全般的にみると、前年度の著しい下落に対する反騰という性格が強く、今後このテンポで上昇するとはみられない。現に契約ベースでみた輸出物価は、年度後半より上昇テンポが鈍化し、年度末には下落傾向すらみられるようになった。
なお輸出物価の動きのうちで、魚介類、生糸など、我が国の特産品的商品が、海外需要の増大に対し供給力が伴わず、価格が著しく上昇したこと、及び輸出不振の人絹スフ織物においても価格上昇が著しかったことが注目される。
次に輸入物価は34年3月を底に強含みとなったが、9月頃より石油の大幅下落により弱含みに転じ、その後35年度に入って繊維原料を中心に再び強含みに転じた。このように輸入物価は、34年度に入って下げ渋り、月々によってかなりの浮動がみられるようになった。その結果年度平均を前年度に比べると3.5%の下落となり、輸入金額の増加を抑える要因として働いたと考えられるが、年度間の動きを年度初と年度末の比較でみると、わずか0.5%の下落にとどまった。前年度に比べ34年度の物価水準を低下させたものは、繊維原料、食料品、鉱物性燃料である。しかしこのうち鉱物性燃料は年度後半よりの石油の急落によって引き続き下落し、年度間では16%もの下落となったが、繊維原料には既に反騰気配がみられ、年度間で3.1%の上昇を示している。そのほか前年度急落をみた金属鉱物をはじめ、油脂類、薬材化学製品などは、ほぼ持ち合いに推移し、生ゴム、原皮などの動植物原料、及び木材などは年度間34.1%、15.7%とそれぞれ著しい上昇を示した。
このように輸入物価においても、32年から33年にかけての全般的な下落と異なり、34年度には商品別の動きに非常な差異がみられるようになったが、輸入物価の軟調をもたらした主因は石油であったといえよう。すなわち世界景気の回復、上昇とともに、国際商品相場は34年度に入ってかなりの反騰を示し、海上運賃も下げ止まり、そのため我が国の輸入物価は、持合いないし反騰に転じたが、石油の大幅な下落によって、全体の指数としてはなお下落した。石油は33年において、他の商品に比べわずかの下落しか示さず、34年度後半において著しい低下をみせたが、これには長期契約による時期的なずれがかなり影響している。
34年度において輸入物価はなお幾分低下し、国際収支の均衡を維持するのに貢献したが、このようにみると、今後輸入物価の低下にはさほど期待することはできない。