昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

昭和34年度の日本経済

貿易

輸入

輸入の推移

 景気の回復より遅れて、33年度第4四半期より増加に転じた輸入は、34年度に入ってから、景気の上昇とともに急速に増加し、第1四半期には前期に比べ20%もの急増をみた。その後第2四半期から第3四半期にかけて増勢は鈍化したが、12月より再び急増を示し、第4四半期には前年同期を43%も上回る高水準に達した。

 このように34年度中輸入は、趨勢として一貫した増加基調にあったが、特に第1・第4四半期において二つのうねりがみられた。その前者は主として生産の急増に伴う鉄鋼原材料の増加によるものであり、後者は繊維原材料の在庫補充によるものであった。すなわち第1四半期においては鉄鋼生産が飛躍的な増加をみ、そのため鉄鋼原材料を中心に輸入は著しく増加した。しかしこの間、綿紡の生産はいまだ本格的な回復をみず、繊維原料は季節的な増加にとどまった。なおこのような輸入の急増によって、輸入原材料在庫も増加をみたが、消費量の急速な拡大があったため、在庫率はむしろ低下した。

 その後一般の景気上昇に遅れ、綿紡の生産も急速な上昇をみ、第2四半期から第3四半期にかけて、輸入原材料の消費は引き続き増大したが、綿花などの輸入はなお低水準を続け、繊維原料を中心に在庫率は著しく低下した。そのため第4四半期において、在庫補充のための繊維原料輸入の急増をみ、輸入の水準は一段と高まったのである。従って第1四半期と異なり第4四半期における輸入の急増は在庫投資による一時的な増加によるところが大きく、35年4月において輸入の急減がみられたのも、その反動によるところが大きいと思われる。

 このような鉄鋼業、紡績業という二大産業の生産上昇期のずれが、輸入の増勢に二つの波をもたらしたが、一方石油、木材、生ゴムなどその他の原材料はほぼ一貫した増勢を続けた。

第1-6表 輸入金額及び数量の推移

輸入規模の拡大

 前年度において急速に縮小した輸入は、以上述べたように34年度に入って大幅な増加をみ、その結果34年度の輸入の規模は、通関実績で3,940百万ドルと前年度に比べ31%もの拡大を示した。

 まずその内容を商品別にみると、食糧は前年度に引き続き減少を続けたが、素原材料、工業製品はそれぞれ45%、24%と大幅な増加をみた。しかも工業製品のうち機械が微減したほか、完成品輸入の増加はわずかであり、その増加は石油製品、銑鉄、パルプなど原料用製品によるものであった。すなわち34年度の輸入規模の拡大は原材料の増加によるものである。

 大幅な景気上昇により、34年度においては製造工業の生産が全般的に上昇したため、原材料輸入もほぼ全品目に渡って増加した。特に前年度急激な減少をみた鉄鋼原材料の増加が著しく、くず鉄が消費量の増大と輸入依存率の上昇により、3.7倍に増加したほか、原料用炭、鉄鋼石なども、数量では、それぞれ26%、50%と大幅な増加をみた。また鉄鋼生産の増大に対する製銑能力の不足、くず鉄に対する相対価格の低下により銑鉄の輸入も大幅に増加した。繊維原料も価格の軟調にもかかわらず、20%以上の増加をみた。そのうち綿花が年度末における在庫投資によって数量で35%と大幅に増加したのが目立つ。そのほか生ゴム、木材、原皮などの動植物性原料は、消費量の増加のほか、価格の著しい上昇によって大幅に増加した。反面、石油など輸入量の著しい増加にもかかわらず、価格の低下により全額的には低く抑えられたものもある。このように原材料輸入は全般的に増加したと言っても、商品別にみると業種別の生産上昇テンポの違いや、輸入価格の変動の違いによって増加の度合にはかなりの相異がみられた。

第1-4図 34年度輸入金額の対前年度比較

第1-7表 商品別輸入実績

製造工業と原材料輸入の関係

 34年度の輸入増加は、素原材料の増加よるところが大きかったが、次にその増加の原因を、製造工業の生産上昇との関係から検討してみよう。

 前年度においては製造工業の生産が3.4%上昇したのに対し、輸入素原材料消費量は6.9%の減少をみた。ところが34年度においては生産が31.0%上昇したのに対し、輸入素原材料消費量は37.0%とそれを上回って増加した。この違いの第一の原因は、全体の素原材料の消費がほぼ生産にみ合って増加したことである。すなわち製造工業全体でみた生産一単位当たりの素原材料消費量の減少が小幅であったことによる。ここ数年来、産業構造の高度化と原単位の向上により、生産一単位当たりの消費量は減少の傾向にあるが、その減少の度合は、 第1-5図 にみられるように景気循環とともに変動している。33年度においては、資本財、耐久消費財など最終需要財の生産上昇によって全体の生産は前年度を幾分上回ったが、在庫投資の減退によって、鉄鋼一次製品、紡績など素原材料を比較的多く消費する基礎産業の生産は、前年度の水準まで回復しなかった。そのため生産一単位当たりの素原材料消費量は、前年度に比べ7.3%もの減少をみた。一方34年度においても、最終需要財が引き続き生産上昇の主軸となったが、在庫投資の増加によって鉄鋼一次製品、紡績など基礎産業の生産も大幅に上昇し、その結果生産一単位当たりの素原材料消費量の減少はわずか1.6%にとどまった。

第1-5図 生産一単位当たりの輸入素原材料消費量の推移

 第二は素原材料の輸入依存率が上昇したことである。34年度の素原材料の消費量は生産上昇にみ合って著しい増加をみたが、そのため国内資源の限界により、輸入依存率は急速に高まった。特に原材料の輸入依存率の変動が激しい鉄鋼一次製品の生産増が、39.8%と大幅であったため、依存率の上昇は特に著しくなった。これを30年を基準とした指数でみると、33年度においては、32年度の111.8より108.5に低下したのが、34年度においては115.4と大幅に上昇している。なお、この関係の最も著しい例はくず鉄で、その輸入依存率は34年9月には37%と、最低であった33年5月の12%に比べ大幅な上昇をみた。

 以上のように輸入素原材料の消費は生産の上昇を上回って増加したが、輸入は更にそれを幾分上回った。その原因としては輸入素原材料の在庫投資を挙げえよう。30年を100とした在庫指数でこの動きをみると、前年度は13.9ポイントの減少であったが、34年度には逆に30.4ポイント増加した。主要原材料8品目について具体的に計算してみると、このような在庫投資の変動による輸入増加は約8千万ドルであり、全体としては1億ドルを幾分超える程度と推測される。

 なおこの間輸入物価は全体の指数でみると3.5%下落したが、原油を除き、くず鉄、木材、生ゴムなど数量が大幅に増加した商品には、価格の上昇が著しいものが多く、商品構成の変化は、価格の低下による輸入の減少を相殺する方向に作用した。従って、原材料の大部分を占める12大商品について、価格低下による輸入金額の減少を具体的に計算すると、3,000万ドルにも達していない。

 以上のことを総合してみると、34年度における原材料輸入増加は大部分生産の上昇による消費量の増大と、輸入依存率の上昇によるものであったといえよう。

輸入の相対的安定

 34年度の輸入規模は景気上昇に伴って著しい拡大をみたが、輸入規模が最高となった32年と比べると、この間生産が35%上昇しているにもかかわらず、輸入はなお32年の水準に達しなかった。また前年度に対する増加の度合を前回の景気上昇期(31年7月~32年6月)と比べてみると、生産の上昇が31.0%と前回の26.5%を上回ったのに対し、輸入の増加は30.5%と、前回の48.2%を大幅に下回っている。過去において景気の急上昇が常に輸入の急激な増加を招いたことからみれば、34年度の輸入は比較的安定しており、そのことが拡大均衡を支えた一つの要因となったといえよう。

 次に34年度において輸入はなぜ、相対的な安定をみせたかを検討してみよう。

 まず第一に挙げられるのは、輸入価格が低位に安定していたことである。すなわち32年に比べ、輸入物価は18%も低下しており、もし32年当時の価格で輸入が行われたとすれば、輸入は実際の金額よりも9億ドル増加し、国際収支は赤字となったであろう。また前年度との比較でみても、前回においては輸入価格が著しく上昇し、輸入金額は数量増加を大幅に上回って増加したが、34年度においては価格の低下によって、金額の増加は数量の増加以下に抑えられた。

 第二に食糧輸入が減少したことを挙げえよう。食糧輸入は連続的な豊作と、価格低下による主食類を中心に微減傾向を続けており、経済規模の拡大により輸入増加を抑制する方向に作用した。

 第三に機械輸入は前回において、40%、60百万ドルの増加をみたが、34年度においては、発注と入着のずれによりわずか1%ではあるが減少した。

 第四に設備の拡大により供給力が増大し、緊急輸入的な半製品輸入の急増が避けられた。もちろん34年度においても、鉄鋼、非鉄金属など半製品輸入は増加したが、その増加は51%、144百万ドルで、鉄鋼輸入によって大幅に増加した前回の98%、285百万ドルをはるかに下回った。鉄鋼なども前回は、鋼材を主としたのに対し、34年度には、製鋼設備の拡充により、銑鉄輸入が主たるものであった。

 第五に34年度においては期首における在庫水準が高かったため、在庫率を引下げることによって、消費増大に伴う在庫増加を抑えることができた。32年当時には期首における在庫水準が非常に低く、消費規模の拡大と在庫率の引上げによって大幅な在庫投資を必要とし、それが輸入を急増させることとなった。しかし34年度においては、在庫水準が高かったため、消費規模は41%も拡大したのに対し、在庫は17%の増加にとどまった。すなわち前に述べたように34年度においても在庫投資による輸入増加がみられたが、期首における在庫率を維持するためには、さらにその2.4倍の在庫投資を必要としたであろう。

 以上のように34年度の輸入の規模は景気上昇とともに著しい拡大をみたが、そこにはなお増加を抑制する諸要因が働き、輸入は相対的に安定していた。しかし輸入価格には既に下げ止りの気配がみられ、在庫率もかなりの低水準にある。また機械輸入も承認段階でみると34年度に入って、急増を続け、第4四半期には前年同期の2倍の水準に達しており、早晩増加するものと考えられる。

 35年度に入って生産の動きには上昇鈍化の傾向がみられ、輸入の先行きにはさほど懸念する必要はないが、上述のように輸入の急増を抑えた諸要因が、その力を弱めつつあることも見逃されてはならない。


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]