昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


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昭和34年度の日本経済

貿易

輸出

輸出の推移

 33年度第2四半期を底に増加傾向に転じた輸出は、34年度に入って著しく増加し、経済の発展に寄与するとともに、経済規模の拡大に伴う輸入増加を賄い、国際収支の拡大均衡をもたらした。しかし年度後半よりその増勢には幾分鈍化がみられるようになった。

 この動きを通関実績でみると、年度前半における輸出の増加は、主として北アメリカ、西ヨーロッパなど高所得国向けに軽機械、衣類、雑貨など労働集約的商品、及び魚介類、生糸など我が国の特産品的性格の強い商品の輸出が著しく増加したことによる。特にアメリカ向けの輸出の増加は著しく、第2四半期においては前年同期を55.6%も上回り、その結果大幅な入超を続けた対アメリカ貿易にも、25年以降初めて為替収支において出超がみられるようになった。一方前年において減少を示した東南アジアも、34年度に入ってから急速な回復をみ、第2四半期においては前年同期を28%も上回る高水準に達した。

 年度後半において輸出の伸びは鈍化したが、これは前半における急増の主因であったアメリカ向け輸出の増勢が鈍化したことによる。すなわち西ヨーロッパ、大洋州、南アメリカなど、後半において著しく増加率の高まった市場もあり、東南アジアではなお増勢を続けたが、アメリカの景気が回復段階を終え、その上昇テンポが鈍化するとともに、アメリカ向け輸出は増勢を弱め、高水準ながら増加率は著しく低下した。また商品別にみても繊維機械及び綿糸など年度後半において著しく増加した商品も二、三見受けられたが、魚介類が減少したほか、前半著しい増加を示した軽機械をはじめ、衣類、生糸なども増加率が低下している。このように年度後半において、輸出の増勢は鈍化したが、第4四半期の対前年同期増加率は22%と、なお過去数ヵ年における年平均増加率を上回っており、34年度の輸出は好調裡に推移したといえよう。

輸出規模の拡大

 33年度において世界貿易の停滞により、前年度とほぼ横這いに推移した輸出は、以上述べたように、アメリカの景気回復の波に乗ったアメリカ向け輸出の急増と、東南アジア市場の回復により、34年度においては著しく増加し、その結果、通関実績でみた輸出の規模は、3,613百万ドルと、前年度を718百万ドル、25%も上回る大幅な拡大をみた。しかしこれには内外景気の上昇に伴う価格の騰貴もかなり寄与しており、数量指数でみた輸出の伸びは21%にとどまった。また34年度においては、長期借款、賠償などが増加し、そのため為替受取額の増加は20%と通関実績の伸びを下回った。

第1-3表 輸出金額及び数量の推移

 市場別に輸出規模の拡大をみると、リベリア、インド、近隣諸国(韓国、台湾、琉球)など二、三の市場で減少をみたほか、全ての市場において増加している。特に増加の著しかったのはアメリカである。アメリカ向け輸出はアメリカの景気後退期においても減少しなかったが、景気回復期においては、アメリカ鉄鋼ストの影響、トランジスタ・ラジオなどの新種商品の進出などもあり、前年度に比べ48%もの著しい増加を示し、総輸出増加額の49%を占めた。また前年度の輸出停滞期においても増加をみた西ヨーロッパ、大洋州、カナダなど高所得国向け輸出も、前年度を上回る大幅な増加をみせた。

第1-4表 市場別輸出実績

 一方東南アジアも24%増加したが、これは前年度において大幅に減退した反動によるところが大きく、従来の最高であった32年度と比べるとわずか9%程度の増加に過ぎない。国別にみると、前年度著しく減少した香港、新たに賠償の実施されたインドネシアなどが50%近くの著増をみたほか、従来より漸増傾向にあったタイ、フィリピン、シンガポール・マラヤもその増勢を強めた。このような東南アジア諸国の全般的な増加傾向のうちで、インドが引き続き減少したことが目立つ。そのほか32年を底に増加傾向にあった南アメリカも50%以上の増加をみ、従来の最高であった29年を超える水準に達した。

 次に商品別の動きをみると、市場別動向を反映し、魚介類など2、3の商品を除き、大部分の商品が大幅に増加した。

第1-5表 商品別輸出実績

 最も著しい増加を示したのは、トランジスタ・ラジオの進出によるラジオ受信機の増加であり、前年度の2.7倍に達した。一方繊維機械、バス、トラック、重電機などの重機械の増加も著しく、また船舶もリベリア向けの減少にもかかわらず、低開発国向けの増加により、前年度より若干増加した。その結果、機械輸出は38%と大幅に増加した。また総輸出増加額に対する寄与率をみても、ラジオ受信機の10%をはじめ、機械全体で33%と、商品群中、最大の比率を占めた。

 次に増加額の大きかったのは繊維製品で、23%とほぼ全体の伸びに等しい増加を示し、総輸出増加額の28%を占めた。特に生糸が2倍になったのをはじめ、衣類、絹織物、毛織物などの増加が著しかった。一方人絹スフ織物は前年度に引き続き減少し、また綿織物も12%程度の増加にとどまった。ここ数年来の繊維輸出は、高所得国向けの比率増大とともに、高度加工化、高級化の方向にあるが、34年度においても、このような商品構成の変化が続けられた。

 一方前年度においても増加した鉄鋼は微増にとどまった。これは鉄鋼ストの影響によりアメリカ向けが著しく増加したにもかかわらず、国内市況の好転により東南アジアなど、その他市場向け輸出が減退したことによる。化学薬品も停滞的であったが、これは化学肥料の不振によるものであり、その他の化学薬品は著しい増加をみた。

 33年度における世界貿易の減退期において、我が国の輸出は、低開発国向け輸出の減少にもかかわらず、雑貨、衣類など労働集約的商品、魚介類など特産品的性格の強い商品の高所得国向け輸出の増大により、ほぼ横ばいに推移し、世界貿易に占めるシェアを拡大することができた。34年度においては、世界景気の回復とともに、労働集約的、特産品的商品の増勢がさらに高まるとともに、重機械など重化学工業品をはじめ低開発国向け輸出も著しい増加をみせた。さらにトランジスタ・ラジオなど、先進国向けに高度の技術を要する新しい労働集約的商品の急増、鉄鋼ストによるアメリカ向け鉄鋼製品の増加、受注残高の食いつぶしによる船舶輸出の高水準などの増加要因がこれに加わり、輸出は著しく増加したのである。その結果我が国の輸出は世界貿易の伸びを大幅に上回って増加し、世界の総輸出に占める我が国のシェアは、33年の3.0%より34%の3.4%へと引き続き上昇をみた。

第1-2図 34年度輸出金額の対前年度比較

第1-3図 世界(日本を除く)の輸入と我が国の輸出の変動


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