昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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国民生活

住宅問題

深刻な住宅難

 食生活、衣生活に比べると住生活の回復は著しく遅れている。全国の住宅不足は昭和30年4月1日現在で約284万戸と推定され、さらに年々約26万戸の新規需要が見込まれねばならない。この莫大な住宅不足は、第一に、戦時中の住宅建設の停滞、維持管理の不十分と、戦災による大量喪失に基因するものである。第二に戦後においても、地代家賃統制令の対象となっている戦前建築の借家の大部分は、低家賃のため、固定資産税と管理費を賄なったあと、修繕費も十分に出せない状況であり、借家人の負担で若干の修繕を行ってもなお不足しているため、年々老朽化を早めていること、また、終戦直後の応急的な簡易住宅が今日では更新を必要とする段階であることなどによってこれらが住宅不足に加わってきていることがあげられる。

 この住宅不足及び新規需要の内容は 第155表 の通りであるが、これらの量的、質的不足とともに、他面住宅難は立退要求、追立、遠距離通勤、別居生活、不衛生、悪環境、設備不良等に現れているが、これらの問題に悩む世帯は莫大な数にのぼるものと思われる。

第155表 住宅不足数

 また住宅問題は従来とかく大都市、工業地帯ならびにその周辺に現れている面について強調されてきたが、他方農漁村及び山村の住宅においても老朽、狭小、不衛生などの面で問題があることを見逃すことはできない。

家計に対する過重な負担

 家計調査からみた住居費の家計支出に対する負担率は、戦前では15-16%であったが最近では4-5%と極めて低くなっている。これは戦前は借家のみの負担率であるのに対し、戦後では7割の持家を含んだものを平均したものであること、大部分の借家の家賃も、地代家賃統制令の対象となっていて、戦前より借家人が継続居住している借家の家賃は非常に低いし、給与住宅の家賃は実質給与の一部をなし家賃が据置かれて非常に安いなど各種の事情に基づいているからである。

 ところが新しく住宅を求める場合、第一に借家については権利金、または敷金など負担したうえに非常に高い家賃を支払わねばならない。家賃調査によると民営借家で戦前建築のものは1坪当たり平均93円であるのに、戦後建築のものは242円となっている。また入居年度別にみても第156表のごとく戦後入居の場合年々家賃、間代は上昇を続けて戦前より継続居住している場合と比べると現在新入居する場合は約3倍の高い家賃となっている。半額国庫負担でその分だけ家賃計算に入らない公営住宅についてみても、終戦直後の安いものを含めた平均は630円となっているが、現在では1,000-3,000円程度の家賃であって、大体家計負担の限度にきている。

第156表 都市における入居年度別一畳当たり家賃

 第二に持家については前述の通り戦後、持家が非常に増加した。しかしながら戦後の持ち家は戦前と異なり、貯蓄された財産としての住宅が取得されるというよりは、戦前ならば借家住まいをしていたような人々の借入資金による住宅が多く、借入金返済の形で住居にたいする家計負担が行われており、住宅金融公庫による個人住宅に例をとって考えても、頭金が数十万円必要な上に毎月3~4,000円の返済をしなければならず家計に対する負担はさらに大きい。

 従って家計における実質的な住居に対する負担は、戦前より引き続き居住している借家及び給与住宅居住者のみが低いのであって、新しく住宅を求める人々にとっては、むしろかなり過重な負担となっている。

困難な住宅取得

 このような深刻な住宅難をかかえ、相当な家計負担をしても、依然として今日では新たに住宅を取得することは非常に困難な状態におかれている。

 戦後10年の住宅建設の足取りは 第78図 の通りであるが、昭和23年をピークとして急激に下り坂となり、27年以降民間自力建設による住宅は大体頭打ちとなり、最近の住宅建設総戸数は、ほとんど財政資金の多少に左右されている。

第78図 住宅建設戸数の推移

 29年度の増改築を含む建設総戸数は約31万戸と推定され、このうち新設住宅は27万8千戸で前年度より約2万3千戸減少している。この減少は住宅金融公庫の貸付契約が予算上約1万4千戸減少して個人住宅の持家が前年より減少したことと、災害復旧公営住宅が約4千戸減少したことによるものである。

 住宅建築の停滞する大きな理由は、第一に取得難であり、第二に建築費と家計負担能力に大きな隔たりがあることである。前者については、特に大都市において、都心より通勤時間のかかる近郊地域でなければ宅地がなかなか求めることはできず、しかもその地域の宅地は他の物価に比べて著しい高騰を続けているのであって、公営住宅にしろ個人住宅にしろ宅地の問題は住宅問題の最大の問題である。後者について東京の例を挙げると、現在土地の購入と小住宅の建築で7-80万円はかかるであろうが、この住宅取得を仮に家賃計算にすると毎月9,000-1万円とならなければ他の企業と同様の採算がとれない。このために戦後は一般向けの民営借家建築はほとんど望めない状態であり、ごくわずかの高所得層と、住宅難の緊急度の非常に高い小家族世帯に対して、敷金、権利金を取るアパート等の高家賃民営借家や貸間がみられるのみである。

 かかる状態であるために財政資金による住宅が大いに期待されているのであるが、公営住宅も年間4-5万戸であり、東京に例をとってみるならば、その29年度の申込状況は一般申込の場合実に116倍になっているので、公営住宅へ入居することさえなかなか困難である。

住宅難の緩和策

 以上のようなわけで、これまでの対策では住宅難の解消に多くの期待をつなぐことはできないものとみられ、宅地取得難の緩和、建築資金の確保、建築コストの引下げ等について財政金融、建築産業、都市計画等の面からより根本的な配慮が望まれているが、30年度においては、積極的な住宅政策が推進されることになった。すなわち住宅資金へより一層民間資金を導入し、住宅建設に対する税制上の優遇を与え、また住宅公団を設立して宅地造成事業を行い、特に住宅難の厳しい地域の住宅建設を促進するなど一連の施策がとられることになり、従来の住宅政策を一歩進めることになった。


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