昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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国民生活

むすび

 以上で昭和29年の国民生活を通観したが、昨年の緊縮政策が国民生活に与えた影響は平均的にみる限り比較的緩慢であったといえよう。これは景気変動が消費者経済に及ぶまでにはかなりの時間的遅れがあることによるもので、従って本年に入り最近は所得、消費ともに多少減退傾向が生じ始めている点は看過できない。

 しかしデフレ気運は消費者にも心理的な影響を及ぼし、朝鮮動乱ブームに続く国内投資景気から若干行き過ぎていたと思われる消費傾向が鎮静化して消費の抑制が行われたことは一方で貯蓄性向の顕著な増大となり、家計の黒字は増加して生活内容が健全化、安定化の方向へ一歩を進めた。

 だがこうした貯蓄性向の増大もようやく貯蓄尊重の機運が芽生えたというに過ぎず、いまだ安定的な域にまで達しているとはみられない。従って折角芽生えてきたこの貯蓄意欲を摘み取らずに伸ばしていく努力が必要であり、そのための最大の要件は何といってもインフレを再燃させないことであろう。

 しかしこの平均的な国民生活の健全化ないし安定化傾向も、一部に失業増大、企業倒産等の好ましからざる現象を伴っていたことを忘れることはできない。これらの層に対する救済は基本的には正常なる経済の発展による就業機会の増大に待たねばならないが一時的には社会保障による救済策を講ずることがもっとも必要とされよう。

 最後に、生活一般がほぼ戦前復帰を達成した中にあって、生活の三大要件の一つである住宅面がなお著しい立ち遅れをみせており、生活構造を歪めていることは残された大きな問題である。いうまでもなく住生活の安定なくして真の国民生活の安定はあり得ない。また住宅難が労働力の移動を阻害し、我が国経済全般の弾力性を小さいものにしていることを考えると、問題は単に生活面にのみとどまらない。住宅の項にも述べたように住宅難未解決の原因は多々あるが、今やあらゆる観点から問題を追及しその解決に努力を集中すべき時期にきているものといえよう。


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