昭和30年
年次経済報告
経済企画庁
国民生活
生活物資の供給事情
国民一人当たり生活物資及びサービスの供給事情の面から消費の動向をみると昭和29年の供給量総合指数は戦前(昭和9-11年)を基準にして111.5となり、ほぼ前年の水準と等しくなっている。
費目別にこれをみると、主食、住居を除いては全て戦前を上回るに至った。すなわち、28年の米作はかなりの凶作であったので29年の米の一人一日当たり消費量はやや減少し、逆に麦類の消費量は116キロから124キロへ約7%ほど増加している。
非主食は全体としての伸びは少なかったが、牛乳及び乳製品、肉類、砂糖、食用油、酒などが、前年に引き続いてかなり著しい増加を示し食料内容の高度化を現している。
被服類は28年中一挙に戦前水準を凌駕した後を受けて、29年は前年より3.5%低下したが、これは緊縮政策の影響もさることながら、むしろ需要充足過程の一巡した結果と思われる。
光熱は前年の7.4%上昇から、29年にも3.4%の上昇を示し、内容的には木炭、薪などはむしろ低下しているにかかわらず、電気、ガスなどのエネルギー増加が著しくここでも消費構造の高度化傾向がみられる。
住居指数のうち、住宅だけについてみると、都市、農村を平均した29年の一人当たり畳数は3.7畳で、戦前比92%となっているが、6大都市のそれは28年に3.0畳と戦前比81%に過ぎない。これらは住宅不足の量的面についてのみみたもので、老朽化などの質的面を考えると、住宅難の問題はこの数字に示される感覚よりさらに深刻であり、この点については次節で詳説しよう。
「その他」では、医薬品や交通、通信関係の上昇が注目される。医薬品の増加はビタミン剤使用など、家庭の保健予防が一般に普及した反映であろう。また交通関係では鉄道、軌道、バスなどの利用度がいずれも上昇しており、通信では電報発信数の減少と電話通話の著しい上昇が対蹠的で、これは電話の新規架設に伴い、電報が漸次電話に置き換えられつつある現象であろう。
以上のように、29年は27、28年に比べて全体としてはや竦Lび悩みないし停滞気味であったが、内容的には引き続き消費構造の高度化傾向がうかがえる。
また物品税の課税状況から消費の動向をみると、緊縮政策に伴う外貨節約の反映として、輸入品を国産品に切り換える傾向が強くなったことがわかる。すなわち物品税の対象となる輸入品目の課税総額は28年の217億円から29年には134億円へと約4割減っているのに対し、国産品のそれは1,700億円から1,906億円へ約12%ほど増加している。このうち右のような傾向のことに著しかったものを拾ってみると、例えば、29年の輸入乗用自動車の課税額は28年に比べ52%減少しているに対して、国産のそれは65%増加した。また外国製時計の輸入は21%減少したのに対して国産品の売れ行きは48%増加している。このような現象はその他電気器具、ガス器具、化粧品などにもみられる。