昭和30年
年次経済報告
経済企画庁
国民生活
農家の生活
都市消費の停滞に比較して、昭和29年の農家消費は相対的に好調であった。すなわち29年の全府県農家一戸当たり月平均家計支出(現物自家消費を含む)は23,414円で前年より約9%増加し、一方家計用品の物価は約5%の騰貴にとどまったので、消費水準は4.3%の上昇となり、戦前の37%高に達している。
費目別に消費水準の変化状況をみると 第153表 のごとく、住居11%、非主食7%の伸びが目立っている。主食は減少しているが、非主食の増加からみて農家の食生活が依然充実の方向をたどっていることがわかる。
このような農家消費の好調は主として農業生産が前年の不作からほぼ平年作に回復したことと、農産物価格が秋頃まで高値に推移して前年よりは、9.9%高となったため農業収入が11%の増加をみたことによる。
また農家経済余剰(黒字)は「農業」の項にみたごとく、28年度の39千円から29年度の41千円へと2千円の増加にとどまり、その農家所得に対する比率は11.8%から11.7%へと高水準ながら停滞し、都市勤労者世帯の顕著な貯蓄性向の増大に比し対照的であった。
しかしこの4.3%の消費水準の上昇も、27年の16%、28年の9%の上昇に比較すればその伸びはかなり小さく、また29年についても上半期は前年同様の水準を約6%上回っていたが、下半期には約3%高に過ぎなくなり、漸次頭打ちの気配を深めてきた。これは消費が戦前を37%も上回って一応の充足点に到達したため、追加消費の欲求が鈍化したことが一半の原因となっているものと思われ、前年伸びの大きかった被服や雑費の消費水準が29年にはほとんど上昇しなかったことがこれを示している。しかし原因の他の一半は不況の影響が29年の後半から農家経済にも漸次及んできて、賃金俸給収入の伸び悩みや、農外事業所得の低下傾向を生じてきたことである。しかも農産物価格も29年9月をピークとして反落過程に入っており、農家所得の伸びはかなり鈍化してきたため、消費も一層停滞的となり、本年1~3月の消費水準は前年同期を2.3%上回っているに過ぎない。