昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

 

貿易

貿易外取引

特需収入の動向

広義特需の推移と特徴

 広義特需収入のうちには米軍預金勘定振込、円セール及びその他の軍関係消費を含んでいるが、この広義特需収入は29年には596百万ドルと前年に比べ213百万ドルを減少した。( 第12表 )。これは主として大口勘定項目である米軍預金勘定振込が急減(前年比2億1,000万ドル減)したことによるものである。この減少は前年147百万ドルに上った米側負担の駐留軍労務者に対する支払いが29年には日本側の防衛分担金からの支払いに切替えられたほか、朝鮮の休戦とこれに伴う極東軍予算の削減などから狭義特需そのものが縮減したことによっている。一方駐留軍人、軍属の個人消費を主体とする円セールは微減にとどまったが、これは我が国の駐留米軍に大きな移動がなく、それに関する消費面の変動もあまり行われなかったためである。その結果特需収入の中心は従来の米軍預金勘定振込から円セールに変ったが、この傾向は今後一層強まるものと思われる。さらにその他の項目をみると、沖縄建設工事は基地建設の一段落と外国土建業者の割込みから、またUNKRA(国連韓国復興機関)からの受取は韓国側対日発注の消極化などからそれぞれ減少した。一方英濠軍などの軍関係消費は終戦処理費による立替代金約500万ドルが払戻されたことを主因として、またFOA(対外活動本部)資金による域外調達の受取は米国の東南アジア援助の強化から増加したが、その額は米軍預金勘定振込の大幅減少を補填するには余りにも僅少であった。従って今後の特需収入は個人消費に大きな変化がないとしても極東軍事予算の漸減方針はさらに続けられるであろうから多くの期待はかけられない。しかもMSA余剰農産物購入に伴う積立円174億円のうち144億円は兵器特需の支払いにあてられるので、それだけドル収入は減少するわけであり、30年の広義特需は一挙に4億ドル台に減少するという見通しが強い。( 第13表

第12表 広義特需の推移

第13表 広義特需による外貨収入内訳

狭義特需契約(ドル・ベース)の動向

 狭義特需は物資、サービス合計で234百万ドルと前年を29%下回った。( 第14表 )これは朝鮮休戦に伴う在韓米軍六ヵ師の撤退、極東軍予算の削減が主因であるが、そのほか緊急買付の解消や韓国側の消極的態度の表面化なども看過し難い。しかもその影響は単に金額のみならず契約の内容自体にも相当変化を与えた。従来物資とサービスの契約比率はほぼ2対1の割合で常に物資の方が大きかった。ところが29年は物資契約の著しい減少から両者の比率もほぼ同率となった。これは物資が主として韓国向けであったのに対し、サービスはその性格上国内関係が多く、休戦の影響が物資の上により強く現れたためである。さらにこれを類別にみると、物資では兵器を除く全品目が減少した。もっとも増加した兵器関係でも5、6月に契約が集中し65百万ドルの契約をみたが、それ以降はほとんど皆無となっており、物資契約の総額は前年に比べ半減した。( 第15表 )。一方サービス契約では物資の修理が航空機、自動車、兵器、機械類の修理を中心に45百万ドルと増加したため、その他が全般的に低調であったにもかかわらず、サービス契約の総額ではほぼ前年水準を維持した。なお狭義特需のうち円ベース契約は直接外貨収入に関係ないが、29年は500万ドル(前年116百万ドル)に著減した。これは前述の通り日本側の防衛分担金の大半が駐留軍労務者の支払いに振当てられたためである。

第14表 特需契約高の推移

第15表 物資特需契約高中の兵器の割合

一般貿易外取引

 次に広義特需を除いた29年の貿易外取引についてみると、運輸、投資収益、資本取引など主要項目の収支尻が悪化したため、MSA麦輸入代金の補填があったにもかかわらず、前年の払超59百万ドルから67百万ドルの払超へと悪化を示した。もっとも運輸関係では本邦船積取率の増加( 第16表 )、不定期船運賃の上昇などから、また保険関係では元受保険高の増加に伴う再保険の支出増を外国側の日本に対する再保険の受取増により補填したことなどからそれぞれ実質的には改善を示したが、外国為替収支の上ではその一部が輸出入に含まれるので両者合わせて53百万ドルの払超(28年13百万ドル払超)となっている。海外旅行関係は観光客の入国増と邦人の渡航抑制などを理由に収支尻の改善をみた。また政府取引の大幅な受超はMSA麦代金の補填が行われたためである。一方投資収益は外債利払の増加、29年上期の外貨手持減による受取利子の減少などから収支の悪化をまねいた。そのほか贈与の面では海外居住者からの一般送金及び宗教団体への寄附などを中心に若干の改善を示した。最後に資本取引をみると、民間長期資本では前年行われた船舶建造資金の借入がなかったため受取が減少した上に、政府及び金融機関関係の資本取引も外債の元本償還、スワップなどの決済が行われたため16百万ドルの払超となった。さらに将来は外債の償還、投資収益の支払、特許権使用料など従来からの確定債務的支出のほかに、新たに国際上の義務履行に伴う支出増も見込まれるため、今後の悪化が懸念されている。

第16表 邦船積取率の推移

第17表 貿易外為替収支一覧表


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]