昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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貿易

輸入

輸入の規模

 昭和29年の輸入は為替支払額では前述のように104百万ドルの減少であったが、通関額では2,399百万ドルと前年を10百万ドル下回ったにとどまり、また輸入量としては輸入単位の値下がりでかえって前年を3%上回り、戦前の77%となった。( 第8表

第8表 輸入金額及び数量の推移

輸入の推移

 このように輸入は総額では、前年とほぼ同じであったが年間の推移は大変違っている。すなわち、28年が大体一貫して増加傾向をたどったのに対し、29年には上期と下期の増減の変化が激しかった。

 輸入は28年の末から、異常な増加傾向をみせていたのであるが、29年の3月には263百万ドルに達し数量規模としては戦後の最高水準を記録した。これは、28年産米の不作から食糧緊急輸入が行われたことにもよるが、同時に経済規模の急速な拡大につれて輸入原料の必要額が増大したこと、28年末頃から国際収支が悪化したため輸入が制限されるのではないかという危惧から買急ぎがあったこと等がその理由であった。しかしその後輸入は反落し下半期に入ってからは、特に減少が著しく9月にはわずか148百万ドルとなり3月に比べほとんど半減した。これは昭和27年2月以来の最低レベルであった。その後経済の安定化にともない12月頃から再び増加を始め30年の3月には228百万ドルとかなり高水準となっているが、このように半年の間に輸入水準は激変し、半期別にみても26年以降の4年間において29年上半期はその最高(1,411百万ドル)、下半期はその最低(988百万ドル)であった。( 第24図

第24図 輸入の動向

輸入の内容

 昭和29年の輸入の特色は次の諸点に要約することができる。食糧が増大し工業原料、製品が減少したこと、不急品等の輸入が減少したこと、輸入価格が全般的に低落したこと、、輸入のドル地域依存が増大してポンド地域が急減し、また米州依存が増大して、東南アジア、オーストラリアの比重が減少したこと、輸入原料在庫投資が減少した品目が多かったこと、国内の生産の増大に比べて輸入原料の消費が比較的少なかったこと、などである。

商品別動向

 輸入額を商品類別にまとめてみると、 第10表 のように食糧の増大が、繊維原料の減少によってカバーされたという関係になるが、そのほか増大したものとしては非金属鉱物、機械が、また減少したものとしては鉱物性燃料がめだっている。

第9表 主要商品の輸入状況

第10表 商品類別輸入通関実積

 また主要商品別に輸入量を前年と比べてみると、増加したものは米の33%増を筆頭にして、燐鉱石、小麦、塩、レーヨンパルプ、鉄鉱石、石油、木材、大豆、大麦、綿花が挙げられ、減少したものとしては羊毛の28%減が一番激しく、ついで石炭、原皮、麻類、鉄鋼くず、生ゴム、砂糖等の順である。( 第9表 )概括していえば増加の面では28年の不作による米、小麦、大豆等の輸入増加が中心であるが、燐鉱石、塩、レーヨンパルプ、石油、木材等、それぞれ燐酸肥料、苛性ソーダ、化学繊維、石油製品、木製品等の国内生産の増大による原料輸入の増大もあった。また、鉄鉱石輸入の増大は銑鉄の増産にもよるが28年の輸入が少なかったのが29年には平常化したためである。一方減少したものとしては羊毛が最も大きいが、これは不況の影響を受けた紡毛糸の生産減と、前年蓄積した原毛在庫を29年には食いつぶしたことによるところが大であった。また石炭の急減は28年の輸入額中に炭労ストにより緊急輸入が行われた一般炭が含まれていることに主たる原因があるが、原料炭の輸入も、銑鉄生産の微増にかかわらず減少したのは、合理化によるコークス比(銑鉄1トンの生産のためのコークス所要量)の減少と、輸入炭の使用割合を減らして国内炭を多く使ったためであって原料炭の在庫はむしろ幾分増加している。このほか、原皮は毛皮生産の低下と在庫投資の減少に、また麻、鉄鋼くず、生ゴム、砂糖等はいずれも在庫投資の減少によってそれぞれ輸入減少をきたした。

 このように29年の輸入量は主食を中心にした増加品目の方が、羊毛を中心とする減少品目より多く、全体としてしては前述の通り3%程度の増大をみたわけである。しかし全般的に価格の低落が著しく、前記の品目中でも綿花、燐鉱石、大豆、パルプを除いてはいずれも価格が低下したので金額としては前年を10百万ドル下回ることとなった。

 次に年間の推移をみるとまず28年より輸入が特に上回った主食も上半期の輸入が主で、下半期になると黄変米の発生による買付のおくれ、MSA余剰農産物買入れ一巡などから、かえって前年同期を下回った。このほか上半期の入着が多く、下半期に入って減少が激しかったものとしては大豆、木材、綿花、非鉄金属、鉄鋼くず、石油、原皮、機械類等多くのものが挙げられ、一貫して増加傾向をたどったものは、燐鉱石、塩等少数品目に過ぎずデフレの影響が下半期の輸入にかなり強く現れたことを示している。

地域別動向

 決済通貨地域別の輸入金額の動きでは、ポンド地域の激減と、ドル地域の増大が特徴的である。ポンド地域は、国内の不況が特に羊毛、ゴム等ポンド物資に関係の深い部分に強く現れたこと、パキスタン綿花の割高等いろいろの理由から急減し、ビルマ等若干の国を除いてほとんど各国が減少した。ドル地域の増大は主として、アメリカからの綿花、米等の増加によるものであった。オープン勘定地域からの輸入は、タイからの米の輸入減少等もあったが、ブラジルの綿花、アルゼンチンの小麦、インドネシアからの粗糖等の輸入増加があって全体としては増大した。これを州別に区分すれば、増加した地域は北米、南米の2州、減少した地域は太洋州、アジア州の2州でヨーロッパ、アフリカからの輸入もわずかながら減少した。このうちアジアの減少は、東南アジアのポンド地域が中心で、中近東諸国からはアラビア、イラン等の石油により、また、中共からは、米、大豆、塩等を中心にかなり増加していることは日本の市場の新しい方向を示すものとして注意を要する点であろう。

第11表 通貨地域別輸入構成

第26図 商品類別、商品別輸入数量水準

第27図 州別輸入通関実積

第28図 通貨域別輸入通関実積

輸入減少の要因

 昭和29年はしばしば述べたように年初に食糧緊急輸入で2億ドル近くの輸入増加を行わなければならず、また国民総生産や工業生産も増大し、この面からも、当然輸入が増大するはずであったのに輸入はむしろわずかながらも減少した。この理由は以上に述べたことから既に明らかであるがここでまとめて要約すれば次のごとくである。

 (1)輸入価格の低落によるもの。輸入価格の低落は前述のように多くの品目で一般的にみられ、もし価格が28年並みであったならば、29年の輸入価額は一億ドル近く増加しなければならなかっただろう。

 (2)在庫投資の減少によるもの。羊毛、鉄鋼くず、麻、生ゴム、レーヨン・パルプ、油脂、原皮等において輸入原料在庫投資が減少した。これに対し綿花、鉄鉱石、原料炭、燐鉱石、工業塩等では、在庫投資が増大したが、総体としては、28年は輸入在庫が増加し、29年は減少したので、在庫投資は前年に比べかなりの減少とみられる。

 (3)輸入原料に対する依存度の低下によるもの。工業生産が増大したにかかわらず輸入原料が増加しなかったのは、前述の在庫投資減少のほか次のような要因が作用している。すなわちその一つ毛糸、麻糸、銑鉄等原料輸入依存度の強い物質のうちに生産の減退ないし停滞がみられ、これが綿糸や燐酸肥料等の増産から生じた原料輸入の増加をある程度緩和する役割を果たしたこと、他の一つは綿糸中の混紡糸の増加、原料炭中、国内炭使用割合の増加、鉄鋼原料として輸入鉱石にかわる硫酸滓の利用の増加等による輸入原料の節約である。

 また国民総生産の増大にかかわらず、輸入が増大しなかったことの理由としては、この年の増加が輸入依存度の高い工業でなく、農業やサービス業等で増大したという点がさらに挙げられるであろう。

 (4)不急品等の輸入減少によるもの。菓子、香辛料、ウイスキー、衣類、はき物、時計等いわゆるぜいたく品、嗜好品、不急品等の輸入も3,000万ドルほど減少した。乗用自動車も通関額で約17百万ドルほど低下した。

 (5)特殊な理由による輸入の減少。28年の初めに行われた石炭の緊急輸入分の減少、29年の年末における黄変米の発生等による米の買付の遅れ等。これらいろいろな原因が重なって29年中の食糧緊急輸入等による主食の輸入増加をほぼ相殺することとなった。


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