昭和30年
年次経済報告
経済企画庁
貿易
輸出
輸出の規模、水準
昭和29年の輸出金額(通関実積)は1,629百万ドルで、前年に比べ354百万ドル(28%)増大し、戦後年額最高を記録した。また輸出単価が前年より2.5%低下したため輸出数量は31%増大し、戦前(昭和9~11年平均)の46%に回復した。( 第4表 )
輸出の推移
年間の輸出の動向( 第19図 )を通関実積によってみると、年初は前年来の不振を持ち越して比較的低い水準にあったが、その後増勢が年中を通じて維持され、特に7月以降下期の増加が著しかった。このため下期は上期に比べて26%増加し、また半期別にみて、戦後最高であった。
その推移をみると3月頃からポンド地域は、対日輸入制限緩和を反映してまず繊維を中心とした増加がみられたが、一方オープン勘定地域の繊維中心の減少もあったので、上期中には全体としての増加はまだあまり大きくならなかった。下期には繊維がポンド及びドル地域向に好調を維持したうえ、鉄鋼、非鉄金属が海外市況の堅調によってオープン勘定地域、ポンド地域中心に増加し、さらに雑品関係のドル地域向輸出の増加もあって増勢が顕著になり、特に12月は季節的な船積集中という事情も加わって190百万ドルと、戦後最高を記録した。( 第20図 )
30年に入って1月は季節的な原因もあり前年末急増のあとを受けて減少したが、1~5月の月平均は148百万ドルとなおかなり高い水準でほぼ横ばいになっており商品別には金属及び船舶(契約)の比較的高い水準が続いている反面、綿織物はかなり不振となっている。
輸出の内容
昭和29年の輸出の内容には次のような特色がみられる。すなわち輸出総額が戦後最高に達し商品類別にみて金属関係以外がいずれも戦後最高を記録したこと、前年に比べて大多数の品目が増加し、特に繊維、金属、その他(雑品)の増加が大きかったこと、市場別にみてポンド地域の対日制限緩和をはじめ、アルゼンチン、ブラジルなどオープン勘定の特定国について特殊な増加要因が強く働き、その結果、東南アジア、南米への増加が著しかったこと、などがこれである。
商品別動向
商品別の内容( 第5表 及び 第6表 )に立入ってみると、まず繊維品の輸出金額は657百万ドルで前年より44%増加し、人絹糸以外の各品目はいずれも増大した。このうち綿織物は12.8億平方ヤードで前年より40%増大し、引き続き世界第一位を占めた。特にポンド地域向は78%増大し、またドル地域も下期の増加によって49%増加したが、オープン勘定はインドネシアに対する輸出調整措置の影響を受けて伸び悩んだ。人造繊維織物も好調で、特にスフ織物は3億平方ヤードと前年に倍増して人絹織物をこえるに至り、また毛糸、毛織物は内需不振の影響もあって前年の2~3倍に急増した。なお生糸は前年盛行したオープン勘定経由によるドル地域三角貿易が禁止されたため、その輸出はオープン勘定地域から直接ドル地域に転換し、金額で9%増加した。
金属及び同製品の輸出は下期における鉄鋼、非鉄金属の増加を中心に年額249百万ドルと、前年より33%増加した。鉄鋼は上期には前年来の不振が継続し、契約の面でもアルゼンチン、ブラジル等特殊な大口取引以外は低調であった。しかし下期に入って西欧諸国における建設、投資財生産の拡大、後進地域における開発需要の増大などから供給不足をきたし、また米国は下期に生産が回復したがなおその輸出は伸長するには至らなかった。このため海外価格は値上がりをみたが、一方我が国の輸出価格は内需不振によって上期以来低落したため、従来障害となっていた価格の割高がほぼ解消して、南米以外にも東南アジア(インド、ビルマ、パキスタン)、オーストラリアなどへの成約が増大し、通関実積も上期39万トンに対し、下期79万トンに倍増した。しかしその年額は動乱後の最盛期であった昭和26、27両年には及ばなかった。非鉄金属の輸出金額は年間42百万ドルで前年より147%急増し、特に下期には米国及びチリのストによる銅鉱の減産、西欧諸国の好況、電線に対するココム制限の緩和などから需要が増大し、我が国の輸出も上期の2.4倍に達した。
機械類の輸出は202百万ドルで前年より7%の増加にとどまったが、このうち船舶の輸出金額は56百万ドルで前年に比べ約半減した。従って船舶以外の機械の輸出は146百万ドルとなり、前年より約6割の急増に当たる。増加の著しかった品目としては繊維機械、ミシン、電気機械、工作機械などが挙げられる。なお船舶の輸出金額は減少したが、輸出契約は輸出振興策、戦時標準船などの代替需要、下期における海運市況の好転、我が国の納期の迅速などを要因として134百万ドルと前年の3.4倍に達し、特に10~12月には64百万ドルが集中的に成約され、さらに好調は30年に入っても続いている。このほか化学品は燐酸肥料、苛性ソーダ、ソーダ灰、医薬品などの増加を中心に、非金属鉱物製品はセメント、陶磁器、板ガラス等を中心にそれぞれ増加した。また前述のようにその他(雑品)の増加が大きく、前年を50百万ドル(27%)上回った。増加した主な品目は製材、ゴム製品、合板、紙類、玩具、養殖真珠、双眼鏡などかなり広範にわたったが、養殖真珠、双眼鏡などについては一部に売込競争による安値輸出があった。
地域別動向
通貨地域別の輸出金額( 第7表 )の動きをみると、前年に比べてポンド地域175百万ドル、オープン勘定地域108百万ドル、ドル地域71百万ドルをそれぞれ増加した。ポンド輸出は対日輸入制限緩和によって、繊維、食糧、雑品などを中心に増加し総額の増加の約5割を占め、またオープン勘定地域は韓国向が対日輸入制限強化のため大幅に減少したが、ブラジル、アルゼンチンなど前年我が国の輸出が少なかった国への増加を始め、タイ、インドネシア、オランダなどもかなり増加したため、同地域への増加は増加総額の31%を占め、また品目別には鉄鋼、機械の増加が著しかった。ドル輸出の増加は総額の増加の20%にとどまったが、これは船舶の輸出減少による所が大きく、繊維、化学品、木材、玩具などは下期を中心にかなり増加した。また州別( 第22図 )にみるとアジア州、南米がそれぞれ142百万ドル及び100百万ドル増加したのをはじめ各州とも増加した。アジア州では東南アジア及び中近東がそれぞれ132百万ドル及び31百万ドル増加したが、近隣諸国は中共向が輸出制限品目の解除などに伴って前年の4.5百万ドルから19.1百万ドルへ急増した反面、韓国の大幅減少によって全体としては23百万ドル減少した。
輸出増加の要因
このようにして昭和29年の輸出は顕著に増加したが、以下には増加の要因を海外経済及び国内経済との関連に分けてまとめてみよう。
海外経済との関連
輸出増加の海外要因としてはまず世界貿易の拡大という背景が挙げられる。1954年の自由諸国の世界貿易(輸入)総額は792億ドルで、前年より27.4億ドル(3.7%)増加した。世界の輸入が全体として増加傾向にあったことは、我が国の輸出伸長にとって好都合な条件であったといえるが、我が国の輸出増加は対前年28%(3.6億ドル)の高率に及び、世界貿易の増加率をはるかに上回っている。特に我が国の場合ポンド及びオープン勘定地域の増加がそれぞれ55%(1.8億ドル)、23%(1.1億ドル)に及んだが、ポンド地域及びオープン勘定の対世界輸入額はそれぞれ3.3%(6.6億ドル)及び10%(21億ドル)増にとどまっている。従って我が国の輸出増加は、これらの地域の一般的な輸入増加以上に顕著であったわけである。そこで次には、海外市場において対日輸入にどんな特殊な増加要因が働いたかを考察してみよう。
海外市場における特殊な増加要因としては第一に対日輸入制限緩和によるポンド地域向増加が挙げられる。増加した品目には綿織物、スフ織物などの繊維品をはじめ、みかん缶詰、水産缶詰、玩具、陶磁器、製材、合板、板ガラス、セメントなどがあり、特に従来制限の対象になっていた消費財を中心とする増加が特徴的であった。またオープン勘定地域向の輸出増加についても、増加の中心であったアルゼンチン、ブラジルなどに特殊な経済事情があり、アルゼンチン向は羊毛、小麦の輸入を見返りとする鉄鋼輸出、ブラジル向は対日為替競売枠の拡大などに強く支えられた。なおこれらの両地域に対して前年日本の買付が大きく、相手国側が対日出超となっていた場合が多かったことも、対日輸入を促進した一因であった。ドル輸出も対米輸出が綿織物、生糸、玩具、双眼鏡、陶磁器、合板、吋材等を中心に増加したことを主因として年間7,000万ドル増加したが、これは米国の景気調整が国民消費の面にはあまり影響なく、消費財の比重が大きい日本の対米輸出は下期の米国景気の回復とも相まってかえって増加したことをはじめ、合板は建築需要の旺盛、生糸は三角貿易停止による直接輸出への切り換えなど特殊な要因に支えられたことによる。
このほか鉄鋼、非鉄金属、船舶(契約)、合板、板ガラス、茶などの増加については、海外需要が急増し、しかも海外の輸出余力が不足したため、供給余力のある我が国の輸出が増加できたという事情がある。
国内経済との関連
国内要因としては第一に緊縮政策の影響という点が挙げられる。すなわち内需不振に伴う輸出増加は、繊維(綿製品、スフ製品、生糸、毛織物)、金属(鉄鋼、銅、アルミ圧延品)、機械(船舶、紡織機、電動機、自転車)、化学品(苛性ソーダ、染料)などに強く現れ、在庫増加のはけ口を輸出に求めたものが多く、また一般に輸出比率(生産量に対する輸出量の比率)の増大をみた。なお資金ぐりの悪化や売り込み競争の結果一部には安値輸出とみられるものもあったようである。
緊縮政策の影響はまた我が国の輸出価格の上にも反映した。すなわち輸出品価格(契約価格)は前年に比べて約4%低下し、特に繊維は価格面での競争力が一層強くなり、鉄鋼は前述した海外価格の値上がりとも相まって対外的割高がほぼ解消した。輸出価格の低下は基本的には国内の引締政策の影響とみられるが、一部の商品については合理化による効果のあったことも否めない。もっとも重工業品などにはまだ割高なものも多く、また一般にコスト引下げの裏付けが乏しい点にも問題を残している。
しかし一方では緊縮政策と直接には関連のない輸出増加もあった。すなわち原材料リンク、加工貿易、求償貿易、輸出金融の優遇など国内でとられた各種の輸出振興策によって輸出が増加したものが多く、例えば綿製品、毛製品、玩具等は原材料リンクにより、ラワン合板、電線等は加工貿易により、綿及び人造繊維製品、鉄鋼、化学品、雑品等は求償取引により、それぞれかなりの伸長をみた。
このほか例えばセメント、硫安などのように内需、輸出ともに旺盛であったもの、合板、農水産品、チタニウムなどのように生産増加からかえって輸出余力を生じたものなどがあった。
また、このような輸出増加には一面、海外需要の変化に対する適合、加工度向上とこれに伴う賃金面の有利性の発揮、新産業、新技術の育成など、対外競争力を高める努力のあともうかがわれる。例えば綿織物については、捺染、糸染等加工度の高い製品の輸出がかなり増加したこと、加工度の低い生地、晒等においても品質の高級化がみられたことなどは、後進国の自給化等による需要の変化に対応した新しい動きといえよう。また中小企業の製品でも双眼鏡、ミシン、陶磁器、玩具、雑貨等は製造にかなり手数がかかるため、賃金や技術の利点を活かすことができ、先進国にも増加している。なお新産業、新技術の育成についてもようやくその効果が現れてきた面がある。例えば、新繊維の代表ともいうべきナイロンについては、国際商品として需要が強いうえ、加工技術の着実な進歩、加工賃の安いことなどの有利な点があって輸出が増加している。このほか合成樹脂やチタニウム等の増加にも新産業としての発展の一端がうかがわれる。
輸出増加にはこのようにいろいろな要因があり、しかも相互に関連しているものも少なくないが、ごく大体のところでみると緊縮政策以外の要因が予想外に強く働いていたようである。