五、むすび


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 現在の日本經濟は、長期にわたる戰爭と敗戰に基く經濟基盤の激變とそしてインフレの高進とによつて極めてゆがんだ姿を呈している。一本爲替レートの設定に當つてこれらのゆがみを一擧にため直そうとすることは、國内經濟に甚大な衝撃と混亂を與える意味からも困難である。しかしながら現在のような状態を漫然と續けて行くならば、經濟自立の達成と生活水準の回復は不可能となるであろうから、一本レートの設定を契機として段階的にしかも出來る限り短時日の閒に經濟の正常化を推進せねばならない。

 今後の經濟施策の焦點はまづ通貨價値の安定の安定と、價格調整機能の回復による經濟の正常化であり、しかしてその過程において經濟の合理化を促進することによつて經濟的自立の基礎を釀成し、その上にたつて生産と輸出の健全な伸張を圖ることである。

 經濟正常化の一環として強調されねばならないのは企業の自主性の回復である。過去の封鎖經濟におけると異り、今後の企業にあつては國際競爭力ということが重要な條件となるから、從來の非能率な國家依存經濟を脱卻して自主的な合理化を圖るとともに、當面の目標たる經濟の安定と背馳しない限度において、荒廢した設備の修復と近代化の爲の資本蓄積を急速に進めて行かねばならない。

 このような安定・正常化の道が一應逹成されたとしても更に日本經濟は外國援助を必要としない段階即ち自立化の目標に向つて進まねばならない。もともと戰後の我國經濟は戰爭に基く莫大な國富の喪失・人口の急增・資源の涸渇・交易條件の激變等本質的な困難をもつているのであり、上の如き自立化の全過程をきりぬけることは決して生易しい仕事ではない。このような困難に打ち克つ爲に不可缺なものは、消費の節約と生産の增加であり、自立化を逹成した後においては次第に生活水準の向上が可能になるにしても、當面は生産增加の大部分を資本の蓄積と輸出の振興にふりむけねばならないから豊かな消費生活は望みがたい。しかしながら元來經濟の自立化はひとり連合國の要望であるに止まらず、自國の獨立と將來の繁榮とを願う日本國民自身が自らのための課題として奮鬪すべき目標でもある。今こそわれわれは日本國民がかかる困難な事業を敢然としてやりぬく決意と能力とを備えた國民である事を全世界の前に立證せねばならない。

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