一六、勞働事情
先づ昨年一〇月に行われた國勢調査の結果昭和一五年のそれと比較することによつて産業別人口推移を見よう。(單位千人)
総人口の增加約六一〇万は有業人口一四〇、無業人口四七〇万の增加となつてあらわれている。表の非労働力というのは家庭にある女子、一〇歳以上の学童、学生、生徒、老人、及び無職の壮年者で職を求めない者等の合計数である。失業者数は六七万で一般に想像されるよりはるかに少い。もともと我國の人口は戰前から過剰状態にあり、しかも敗戰によつて一面労働力の供給量がさらに增加すると共に、他面之を吸收する場であるところの生産規模が、異常な縮少を余儀なくされたため、戰後において労働力に相当の過剰を生じたと考えられるのであるが、失業者数がこのように僅少で止まつているのはいかなる原因に基くのであろうか。第一に現在のようなインフレ下にあつて正業につくよりは、流通部門においてヤミブローカーとなる方が生活が容易であるとして、定業に決めない人口が多数存在することであり(之等の人口は表の非労働力の中に含まれている)第二に生産水準が戰後大巾に低下したにもかかわらず、有業人口はかえつて四%程增加していることである。例えば現在農業産産は昭和一五年当時の約九割に止まると推定されるが、農業人口は二四%の增加を示しており、戰後の增加人口の吸收が最も顯著に行われたことを物語つている。又鉱工業生産に至つては当時の二割程度に激減しているにもかかわらず、鉱工業人口は九〇%に減少しているにすぎない。この不均衡部分がそのまま過剰労働力といえないことは企業の項で述べた通りである。
このように表面に現れている失業者数が案外少ないため、失業対策として各種施策も、現在の所では所期の目的を十分には果していない。例えば公共事業の就労者の一日平均実人員約五十万人のうち、失業による就労とみとめられる者は十万人内外であり、又昭和二二年下半期における公共職業安定所の職業紹介の取扱においても、求職数は求人数の七割余りにしか逹せず、職業補導所の入所者数もまた十分の状態にいたつていないのである。
戰後における労働生産性の低下については前に述べた通りであるが、之は必然的に実質賃金の低下をもたらし、生産復與の担い手である労務者の労働力の再生産をすらおびやかすことになるので特に重要産業の労務者に対しては、乏しい中から食糧、作業用品、し好品等の加配を行つて、その最低生活を保障すると共に、労働生産性の保持高揚をはかるべく努めてきた。即ち昭和二二米穀年度においては、先づ労務加配米として、農林水産業一般工業運輸業その他重要役務七〇業種に從事する労務者約六一五万人を対象に、最高四・五合から最低〇・五合迄の加配を行い、実績は総計二四八万石に及んでいる。作業用物資の配給は前年度よりかえつて惡化し、年間一人当り作業衣〇・八着、作業手袋〇・八双、地下足袋〇・五足以下という貧弱な状態で、配分に際しても科学的基礎に乏しく合理性を欠いたことは否めない。又生産意欲の增進に資するため、酒、たばこ、甘味料の特配を行い、酒の計画量は総生産量の三四%、たばこは二九%に逹している。特に石炭業労務者には、質量共に特別の配給を行い、又昨年末以降の增産にこたえるため、報しょう物資も放出しており、主食、副食はおおむね順調な実績をおさめているが、作業用物資は一般に入手が遅れている。これ等労務者用物資の特配制度は、運用を誤るとただ重要産業の労務者であるというだけで実際に働かなくとも恩沢をこうむる様なことになつて、かえつて生産意欲を減退せしめるという逆作用を生ずるおそれもあるので、最近は実際に働く日数、時間あるいは労働の強度等に相應した嚴格な配給が行われるよう審査を加えつつある。
次に最近における労働運動の傾向を概観しよう昨年一一月末において登録された單位労働組合は二六、四二一、組合員数五、九九三、六一三人で、昭和二一年末の組合数一七、二六五、組合員四、八四九、三二九人に比較すると一段と躍進の跡が見える。組合運動も当初は他人から作つて貰つた感が深く、組合員の意識も低調であり、又組合の中には自己の立場にのみとらわれて、國民経済的立場や公共の利益に対する配慮に欠けるものも少くなかつた。漸く最近に至つて(一)全炭協分裂に見る形式的戦線統一から主義主張の明確化による実質的統一えの努力(二)國鉄内紛、産別民主化に見る支部、單産の発言力の增大(三)國鉄労働組等における反共運動のたい頭(四)新價格体系をめぐる産別総同盟の対立等、連合体や協議会等の組織活動の変化の中に、下部組織や自主的な活動が認められて新しい発展えの動きが感ぜられるのである。
労働爭議は上表に見る如く二二年に入つてから減少していたが、新價格体系を契機として、七月以降最低賃金制、賃金スライド制の確立を主たる要求とする地域的爭議が增加を示している。そして之等一般産業における賃金引上要求は或程度成功したが、官公吏の給與についてはなお問題を残している。