一五、生活物資の需給


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 前節にもふれたように、生活物資の配給いかんは家計に大きな影響を與え、したがつてその確保は國民生活安定の一つの基礎條件であると共に、労働生産性向上の前提となるものであるが、ここでそれら生活物資の生産ならびに配給状況について概観して見よう。

 まづ主食について見れば、昨年六月以降において、遅配は全國平均九、三日に逹し、しかも七―一〇月の四カ月にさらに二〇日の欠配を生ずるおそれがあつたので、政府は七月一日以降数次にわたり食糧緊急対策を実施して、綠故米、救援米等の制度を設けると共に、麦、馬鈴しよの早期供出に努めた。綠故米、救援米の制度には大して見るべきものがなかつたが、麦の早期供出は好成績を收め、かつ総司令部においても官民一体の必死の努力を認め、 八月以降数回にわたつて、完全配給をするに足る輸入食糧の緊急放出を許可することとなり、ようやく端境期を切り拔けたのであつた。二二米穀年度の收獲は五、九六七万石であり、これに対して主要食糧供出割当量は、雜穀を含めて三〇五五万石と決定した。これは前年度の供出割当二、八〇六万石に対し八%の增加となつたが、強力な出荷督励及び報しよう物資の裏付けと共に、農家の絶大な協力により、出荷状況は例年に比し好調裡に進み、三月半ばを以つて供出を完遂した。しかし、一面供出割当の基礎及び運営の点における地方各廳の措置には未だ欠陷が認められ、また買上機関の買上実務や報しよう制度の運用にも種種改善を要する点が見受けられた。

 次に家計費中約一五%(鮮魚介五%、野菜一〇%)を占めている鮮魚介と野菜について述べよう。

 水産漁獲高は戰前の約六割に低下しており、野菜も、生産は戰前と大差ないが、特産地関係の喪失等により都市への集荷は著しく減少している。したがつて政府は、昨年七月食糧緊急対策の一環とし、八大都市に重点を置いて、鮮魚介七―一〇月一人当り三日に三五匁、野菜七月一人当り三日に六〇匁、八―一〇月一人当り二日に六〇匁の配給計画をたて、これが確保の爲に燃油、肥料リンクの強化、輸送トラツクのガソリンリンク配給等を実施して集荷の促進を計つた結果、中央市場入荷量は鮮魚介においては余り見るべき成果が挙がらなかつたが、野菜については漸增の傾向をたどつた。

しかし、中央市場へ入荷したものも、これが必ずしも全部家庭へ入つているとは限らず、例えば東京都について家計調査から一人一日当り実際配給量を調べて見ると

第17表

 となつていて、之は市場入荷量中家庭向配当量の、鮮魚介については約八割、野菜に至つては三割弱にしか当らず、他は目減、横流れ等によつて消耗していることになる。さらに家計調査によつて配給單價を見ると、マル公に比し魚介も野菜も八割程度高くなつていて、結局種々の努力にかかわらず、七―一二月の家計面から見れば、生鮮食品を全部ヤミ買いしたのと比べ、せいぜい家計費の一―二%程度を軽減したに過ぎないという結果に終つた。かくして、政府においては、昨年一二月一五日以降生鮮食品緊急対策を以つて、集荷、配給統制の効果的な促進強化を計ることとなり、本年一月より漸くその効果がみえ始め、昨年後半において家庭購入量中に占める配給品の割合は二割以下にすぎなかつたものが本年二月にはこの割合が約七割に逹している。しかしその反面地方中小都市の入荷が減退する等新らたな問題が提起するに至つている。

 加工食品については昨年食糧緊急対策の一環として六大都市に対し、みそ、しよう油、塩及び油脂の配給を確保することに努めた結果、一部水害による輸送の阻害に基く遅配を除いて、おおむね計画量の供給を確保し得た。なお東京都における家計面から見た一人一カ月当り平均購入量(二二年七―一一月平均)は次の通りであり、これら物資についても一部ヤミに流れていることがうかがわれる。

第18表

 二二年度の衣料品の供給は、國内在庫全部と新規生産品を極力民需に充てるとしても、國民一人当り一・八ポンドの供給しか見込まれなかつた状態であり、比較的在庫品の多かつた前年度の九〇%に過ぎない。

 そこで昨年八月繊維緊急対策を決定して重点的に配給を実施し、労務用をまづ第一に確保すると共に、妊産婦、乳幼児、児童、中学生、生活困窮者等に、特に必需品を配給することとなつた。然るに燃料難、資金難等によつて九―一二月の生産は計画の三七%にすぎなかつたため、これらあい路の打開に努めると共に、輸出用滯貨品及び進駐軍用拂下品の流用等によつて配給確保を計り、本年六月までには予定配給量を遂行し得る見込である。

 二三年度においても輸入原料の國内轉用の增加等を見込んでも、國民一人当りの供給量はせいぜい二ポンド(一般國民用は〇・九ポンド)程度であつて、戰前の一人当り一〇ポンドの消費量に比べるとはるかに及ばない。

 日用品は、その原料であるゴム、繊維品、油脂パラフイン等が相当部分輸入に依存しており、かつ政府が実際につかみ得る原材料は限られているため、配給の実績は、例えばマツチは家庭用に一日一人四本、石けんは漸く一人一年一個程度であつて國民の消費する日用品の大半はヤミ又は自由市場に依存している。

 家庭用燃料の消費量は戰前非農家一世帶当り平均一カ年約一、一九〇カロリー(木炭四貫俵換算三二・四俵)に対し昨年は四三〇カロリー(一一・七俵)で約三五%に低下している。これは電熱の使用量が增加したにもかかわらず、木炭、薪及びガスの生産減に伴う消費の減少の爲である。

 以上総括して見れば、主食は昨年八月以降引続き完全配給を維持しており、今後の見透しもかなり有望であるが、生鮮食品は本年一月以降好轉しているものの、その性質上今後の見込は官民の努力いかんにかかつている。衣料、日用品、燃料等は、少なくとも昨年よりは惡くはならないが、種々の点からみて今年中に大巾な好轉を期待することは出來ない。

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