一四、賃金と家計費


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 まづ二二年一月以降における、全國工業一ヶ月一人当り平均賃金(労務者、職員、男、女総平均)は、

第12表

となつており、新價格体系の基準賃金一、八〇〇円(七月)に対して、実際には毎月騰貴して來た官公吏の平均給與は、一二月まで一、八〇〇円の儘据置かれた爲、二・八ヶ月分の支給と本年一月以降の、給與基準を二、九二〇円に引上ることによつて民間給與との不機能の是正がはかられたのである。

 なお上に示した賃金は諸給與を含めた総額であるが、その内訳を上と同じく全國工業一ケ月一人当り平均賃金(労務者、職員、男、女総平均)について見ると、二二年の月平均一八一九円の中、八五%に当る一五四八円が定期給與、一一%に当る二〇八円が臨時現金給與、四%に当る六三円が実物給與となつている。

 また工業における労務者、職員、男、女別の一カ月一人当り平均賃金(定期、臨時、実物給與を含む合計額)を比較すると、労務者にあつては、男子二、〇一〇円、女子九三九円、職員にあつては男子、二六四七円、女子一二四九円となつていて、労務者の賃金は職員の約七六%であり、女子の賃金は、男子の約四七%である。しかし、戰前(昭和九―一一年)において女子の賃金が男子の三〇%程度であつたのと比較すると、男女の差はかなり少なくなつている。この賃金の平準化の傾向は他の面でもあらわれているのであつて、例へば東京の某製造会社における状況をみると、戰前の昭和一二年においては、未成年工の收入を一とした場合職工の最高である役付工は五倍、職員では中学卒業者の初任給は二倍、高級社員は二〇倍となつていたのであるが、最近の給與でみると税引手取において役付工が四倍、中学卒初任給が一倍高級社員が五倍となつていて、賃金の著しい平準化傾向がみられる。

 賃金のこのような平準化は乏しきをわかたねばならぬ戰後の経済事情のもとにおいて、やむを得ない点もあるが、一面勤労意慾と向上心とを低下させる大きな原因ともなつているから、勤労の能率を大巾に引上げるために、能力と責任と仕事の難易とに應じ今後賃金に相当のひらきをつけ得るようにすることが必要であろう。

 次に家計の動きを見よう。主要都市における勤労者世帶(世帶人員四・三―四・五人)の月平均家計費は次のように各月騰貴してきた。

第13表

 面して家計收支バランスがどうなつているかを見るには、次の二二年における平均月額表を示すのが適当であらう。(前述の平均賃銀は男も女も世帶持ちも独身者も一緒にした総平均であるから、家計支出との比較に使えない。)

第14表

 すなわち、戰前と比較すると副收入の比率の增加と、租税公課の負担加重とが特に注目される。また赤字率(これは実支出に対する実收入の比率によつて示される)は約七%であるが、各月の比率を見ると次の通りであつて、余り目立つた動きはない。

第15表

 次に費目別の支出百分率は

第16表

となり、飲食費の割合が他の費目の犠牲において著しく膨張していることがわかる。

 さて、実効價格で賃金と家計費をわつて、実質賃銀と実賃家計費の動きを見ると、昭和二二年一月を一〇〇とすれば、昭和二三年一月には実質賃銀を一一八、実質家計費は一一四となる。即ち賃銀と家計費は、実質的にもやや上昇したことを示している。殊に八月以降主食の満配を主因とし通貨膨張傾向の鈍化に助けられて、物價上昇が停滞してきたのにたいし、名目賃金は引続き上昇をしたため、実質賃金向上率は次第に高まつた。またこれとほぼ歩調を合せて勤労者の実質家計費も上昇している。しかし家計收入における赤字が、当初予定されたように解消しなかつたのは、物價の騰貴が鈍化したといはいえ依然として止まらなかつたこと、生鮮食品等の流通秩序の確立が思うように行かなかつた、消費水準の向上特にし好品の消費量が增加してきたことなどがその主な原因とみられる。

 ここで実質賃金と実質生計費が戰前に対してどの程度の水準に当つているかを見るに、現在の生活内容を基準にして考えると、昭和九―一一年平均に対して、昨年における実質賃金は大体三割程度に、実質家計費は四割ぐらいに当る。このことは、また現在の家計を支えるために、賃金外の副收入に依存する割合が大きくならざるを得ないことを示している。なお、実質賃銀の水準が三割に低下していることは、鉱工業の生産量が戰前の三分の一に縮少している事情とも対應される。

 以上賃銀と家計費の動きから見られるように終戰以來生活内容は略最低限にまで低下して來たがこの一カ年間に於いて少なくともそれ以上の惡化は示さなかつた。むしろ昨年八月以降引続く主食満配の維持、本年一月から漸く効果を表はして來た副食配給の強化、及び物價騰勢の鈍化とは、次第に実質賃銀を向上させて來ており、もしもし好品その他の費目における今後の消費の增加が著しくなければ、家計は僅かづつではあるが次第に改善に向うと思はれる。

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