一二、産業金融と貯蓄の状況


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 先の表に見るように、産業融資の增加額は月を逐うて增加し、昨年八月以降は價格改訂の影響もあつて月一〇〇億円を突破するに至つたが、更に最近は財政資金の著しい引揚げがあつたため、融資增加の傾向が強くあらわれ、昨年度中の産業融資增加額は一、六七五億円に逹した。元來産業資金は生産活動に比例すべきもので、現在の如き生産状態では、新たな産業投資は少額で済むはずであるが、実は物價値上りのために、同程度の生産を続けるためにも運轉資金の不足を生じ、かつ設備資金についても見積額では足りなくなつてくるのである。また融資增加の一つの大きな原因は赤字金融である。即ち多くの企業は、その操業率が戰前に比べて極めて低いため、経理内容が不健全で昨年上半期において、赤字を続発した。七月の價格改訂により一應現在の操業率においても收支均衡するように公價の引上げが行われたが、その後賃銀の上昇や操業率の予期以上の低下、その他の事情により、再び相当の赤字を生ずるに至つているのである。

 次に金融機関別に融資内容を分析すると、昨年度間の融資增加額一、六七五億円の中三二%に当る五三五億円が復興金融金庫による融資額であることは注目に値する。本來同金庫は、日本経済を復興するため必要な資金で一般金融機関より借入が困難なものを対象するのであるが、現在基礎産業はおおむねその経理内容がよくないためにほとんど同金庫に依存しており、昨年度間の一般産業融資(公團融資を除く)三五三億円の中、石炭業だけで五三%でこれに肥料鉄鋼を加えると三業種だけで六割以上を占めている。また資金用途別にみると設備資金約六割、運轉資金約四割に分かれているが、後者の相当部分は赤字金融と推定され、融資内容は決して健全とはいえない。ただこれ等の産業が重点産業であるがために、生産を続けさせる必要にせまられ、融資を余儀なくされている実情である。また近時公團の設備增加に伴い公團金融が急增し、復金融資総額の三四%を占めて同金庫の資金繰りをかなり圧迫していることは否まれない。もともと公團金融は主として運轉資金であり、その点からみると市中金融機関でまかない得る性質の資金であるが、制度上復與金融金庫が一手に引き受けているものである。ただこの傾向を是正するため最近公團認証手形制度が新設され、公團所有資金を極力市中金融に廻すことになつたので、この方面に対する復金の負担は今後軽減されるであろう。なお復與金融金庫の融資は、後述するようにその大部分が通貨の增発を來していることから言つても、これを出來るだけ抑制する必要があり、目下その融資を監査するための特別の委員会を設けることが企図されている。

 次に一般金融機関は、融資規制によつて、産業資金賃借優先順位表に定める甲の1、甲の2、乙、丙の四段階の業種別順位にしたがい、上位のものから優先的に賃出しが行われることになつており、おおむね所期の方向にむかつている。これを全國銀行について見れば昨年三月より本年一月までの融資額の中、甲の1は一六%、甲の2は六〇%、乙は二二%、丙は二%であつて、甲の1及び甲の2だけで全体の七六%を占めている。しかしながら乙と丙に対する融資が二四%となつているから、更に規制強化の余地がないとはいえない。

 しからば金融機関の資金繰りはどうなつているであろうか。先づ復與金融金庫は設立以來本年三月末までに、すでに五九五億円の巨額を融資してきたが、資金としては政府出資は七〇億円が実行されたに過ぎず、残余は挙げて復與金融債券により調逹され、その額は五八九億円に逹してゐる。しかもその市中消化率はきわめて惡く、僅かに一三〇億円(二二%)が消化されたにとどまり、残り四五九億円(七八%)は日銀引受によつている現状で通貨增発の一因になつている。

 一般金融機関においても産業融資及び國債、地方債、復金債等投資の合計額即ち資金運用額は、預貯金等の資金蓄積額を超えており、不足額は日銀借入金でまかなわれている。これを全國銀行について見れば、昨年四月―本年二月の資金增加は八七二億円であるのに対し賃出增加七五八億円、証券投資增加二四五億円で結局一三一億円の資金不足を生じている。これが通貨增発の一因をなしていることはいうまでもなく、貯蓄の一段の增強を不要不急な賃出の抑制とが要望されるわけでもある。

 次に貯蓄についていれば昨年度における一般自由預金の增加は、救國貯蓄運動の本格化に伴つてかなりみるべきものがあり、從來は月一〇〇億円未満であつたのが、昨年六月以降は一〇〇億円を超し、特に一二月は年末の特殊事情もあつて四二八億円に逹した。本年に入つてからは、徴税の強化、政府支拂の抑制等の事情が大きく響いてその增加の勢は相当弱まつたが、昨年度間を通じてみると一九五〇億円增加したことになる。しかしながら財政資金、産業資金、その他の資金放出額の中、どれだけが自由預金として還流したかを檢討すると大体七〇%程度に過ぎず、他は流通面に滞留しているわけである。なお第一封鎖預金は毎月減少の一途をたどつているので、一般自由預金增加からこれを差引いた純貯蓄額は、先の表の如く昨年度間において一二五五億円であり、産業資金の需要を満すにも足りない程度である。

 さらに昨年の経済実相報告書においても触れていたようにこれ等の預金の貯蓄性が問題である。全國銀行預金についてこれをみると、終戰後に貯蓄の安定性は急激に低下し、一昨年三月には預金総額中に占める定期的預金の比率が一三%であつたのに対し昨年末には二一%とかなり回復してきているが、正常時に五〇%を超えていたのに比較すると未だかなりのへだたりがある。このように、貯蓄は量的にも質的にもかなり改善されつつあるが、未だ決して十分な成績を收めているとはいえない現状である。これは日本経済がインフレという本質的に貯蓄を困難にするような基盤の上に立つていることに基くのであるが、なおいわゆる新円階級等の特殊の社会層に、必要以上に現金が滯留していることも事実であり、これを対象として強力に貯蓄增強運動を展開していくことが必要である。

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