一一、財政の收支


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 昭和二二年度一般会計においては、昨年末までは歳入不振のため著しい收支不均衡を生じていたが、本年に入つてからは情勢は急激に好轉し、三月末には歳出がほぼ一、六四〇億円すなわち予算の七五%であるのに対し、歳入も專賣益金等の流用現金を加えれば、大体同額に逹するに至り、年度間の総額としてはほぼ財政收支の均衡が実現された。これは歳出面において相当支拂のくりのべが行われたことによる点もあるが、とくに歳入確保の努力によつて財政資金の支拂超過を押え、インフレーションの進行に強いブレーキをかけたことは見のがせない。ただし單に財政收支のつじつまを合わせるに止まらず、眞の意味の健全財政を実現するためには、まだ幾多の困難な問題が存在する。

 歳入に関する問題としては、まず租税について考えると、第一に徴税の実績が計画に対し時期的に著しく遅れたことがあげられる。即ち昨年末までは徴税は極度に不振であつて、租税收入予算額に対し、三五%に当る四六五億円にすぎず、歳出との間に著しい不均衡を生じたために大藏省証券の発行高は三四〇億円に逹し、國庫の状態は異常な危機に直面したのである。本年に入つてからは納税完遂運動が眞劍にとり上げられた結果、税收は印紙收入を含めて一月一六八億円、二月三一六億円、三月二九九億円の実績をあげ、同月末までに予算額一、三五四億円に対して一、二四九億円を徴收しており、出納整理期限である四月末までには、予定の全額を徴收し得たものとみられる。このように情勢は一変したとはいえ、年度間に甚しい喰い違いを生じた経驗に徴しても、税收は年間を通じてむらのないようにする必要があることは明かであつて、徴税事務の促進と共に租税制度の問題としても考慮する点である。

 第二に特に所得税の國民負担において著しい不均衡を生じてきたことである。現在の所得分布はインフレーションの結果著しいゆがみを生じており、戰前の國民所得にあつては勤労所得四割、個人業主所得三割余であつたのか、最近においては勤労所得三割弱、個人事業主所得六割強に変化し、源泉課税であるために実際の所得を捕そくし易い勤労所得は、その比率が小さくなつたのに対して捕そくの困難な個人業主所得の比率が增大したため、個人事業主所得における実際所得と課税所得との開きは相当大きくなつてきているのである。その上、課税額に対する実際の收納額の比率においても、両者の間にかなりの不均衡が存在し、例えば本年三月末現在の所得税收納額を見ても、勤労所得を対象とする源泉課税分は予定額の一三一%を收納しているのに対し、個人業主所得を対象とする申告課税分は七八%にすぎない。この点は徴税の進行と共に、かなり是正される傾向にあるが勤労者の税負担が相対的に見て重い結果になつていることは否定し得ないのである。第三は從前にくらべて、國民全体としても税負担が增大し、したがつて納税義務者の範囲が著しく低所得層にまで及んでいることである。例えば所得税において、扶養家族三人として勤労取得者は月収一、三五〇円以上、事業所得者は一、〇〇〇円以上の者は現在ではことごとく納税義務を有するため、ほとんど全世帶がその対象となつてしまい、所得納税者の総人口に対する割合でみると、戰前昭和一二年の一・六%に比して二五・六%の多きに逹している。この点は経済が全般的に窮乏化し、しかも多額の財政需要が続いている戰後の我が國においては、財政收支の均衡を期するため或る程度はやむを得ないところであるが、最近における物價、賃金、生計費等の推移を考えれば、新しい事態に対應するように税制を合理化することが必要であり、近く改正の運びである。結局現在における歳入面の対策としては、税務機構を強化することによつて、歳入の確保と負担の公正を計ることに重点が置かれなければならない。とりわけヤミ利得の捕そくとそれから徴税とが、万難を排して遂行されなければならない課題であつて、第一線税務署の增設、定員の增加、税務職員の待遇改善等このための態勢は次第に整備されつつある現状である

 次に專賈益金收入について見ると、二二年度の予算額は五一二億円で二一年度の七倍弱に当り、これだけの益金をあげるためには五六二億円のたばこを賣らなければならないわけであるが、実際の賣上高は予定をはるかに下廻り、二月末までの賣上高は三一三億円であつて計画の五五%にすぎず、三月末までの実績も、小賣店に対する賣掛金を加えても、なお益金は百億円以上の不足を生じていると推測される。

 ひるがえつて歳出についてみると、年度末の予算は総計二、一四三億円で、名目的には当初に比し八七%の膨張であるが、物價指数で換算して実質的な内容をみると、正確な推算は困難であるが、当初予想された事業量の約七割程度の予算にしか当つていない。しかもこの中には終戰処理費のように物價の如何によつて事業量を加減できない経費が大きな部分を占めているから、その他の経費は大巾な切詰めを余儀なくされているのである。又歳出予算を目的別にみると、終戰処理費及び賠償施設費が三二%、價格調整費及びこれに類する経費が二一%、地方分與金が一〇%に逹し、残りの僅か三七%で公共土木、保健衛生、社会労働施設、敎育文化、農地改革、引揚民対策その他万般の施策を講じなければならない。わが國財政がそのぼう大な金額にもかかわらず、生産的ないし社会政策的内容にきわめて乏しいからざるを得ない事実は、以上の二点からだけでも推察し得よう。このような事情の下にあつて、できるだけ財政を有効に切りもりするためには結局二つの方法しかない。その一つは徹底的に経費の重点配分主義をとり、殊に行政機構の簡素化をはかることであり、この線にそつて改革が研究されている。その二は支出監査を嚴重にして、公價嚴守、予算節約をはかることであり、このため「政府契約の特例に関する法律」及び「政府に対する不正手段による支拂請求の防止等に関する法律」が施行され、既に相当の効果をあげつつある。

 次に特別会計について檢討すると、借入金、公債を合せて昨年四月から本年三月までの純增は六六五億円に逹し、そのうち五八四億円は日本銀行引受となつており、財政資金の支拂超過の主要な原因となつてきた。特別会計による資金放出のうち、食糧管理会計によるもの三三七億円は供米成績の向上、米價の改訂等の事情によるものであるが、鉄道通信両会計にあつては、料金引上げによる他物價えの波及を應つて鉄道運賃は戰前の二二倍、通信料金は三三倍程度にすえ置かれている反面、経費が增加しているため莫大な赤字を生じている。即ち損益勘定だけで、鉄道会計においては一六九億円、通信会計においては六七億円の赤字で、一般会計からそれぞれ九七億円、四八億円の繰入れを行い、残りは借入金を以てまかなつている状態である。このように、苦しい一般会計の財源に大きく喰込んだ上、財政資金の支拂超過の大きな原因となつているので、健全財政の前提として、まずこれら官業の合理化と独立採算制とが強く要望されるわけである。

 最後に地方財政について一言すると、現在の地方財政の殆どが自主性を失つており、国家財政の窮乏を反映して、極めて苦しい状態におちいつている。二二年度の地方予算は、確実な計数は捕えにくいが、総額およそ九百億円前後と推定され、その財源のうち、地方分與税分與金、國から交付される國縣支出金及び國の認可をうけて起債する公債の收入が凡そ七〇%を占めている現状であつて、約三〇%の独立財源も極めて伸びに乏しく、いざというときは結局國の補助に賴らなければならない。地方財政のこのような状態は最近特に注目の的となつており、國家財政との調整、地方團体自体の経理の改善等による地方財政の自主性の確立は現在の重要な問題の一つであつて、目下地方財政委員会において地方自治の最大の要件である地方財政独立の理想逹成に必要な方策を檢討中である。

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