八、貿易の今後の見透し
昨年の輸出は前年に比較していくらか增加したが、なお輸入の約三分の一に止まつた。輸出不振の原因は、機械金属類については、海外の需要がおう盛であるにもかかわらず所要資材の不足が甚しかつたこと、また繊維製品雜貨類については、原材料の輸入が充分でなかつたことと並んで海外における賣行が不振であつたことがあげられる。又貿易金融が円滑でなかつたことも見逃せない事実である。本年においては輸出貿易の重要性にかんがみ、資材、動力、資金等の諸措置は一そう強力に遂行されねばならないが、綿花その他の輸出用原材料の輸入が一段と促進される機運のあるので、加工貿易による輸出の進展は大いに期待される。なお管理下の諸制限も漸次緩和され、又わが國業者の海外渡航も近く許される機運にあるからその実現によつて貿易取引が円滑となり、又海外販路の開拓が大いに促進されるものと思われる。しかしながら、ポンド地域その他非ドル地域においてドル資金が不足し、かつこれらの地域の通貨のドル賃えの轉換が困難であるという事情は世界共通の基本的な課題として依然継続するであろうから國際決済の問題が輸出振與上のあい路として残るであろう。これに対しては根本的には國際決済協定の成立等世界的規模における問題解決にまたねばならないが、わが國としては司令部の盡力により各國との決済協定又はバーター貿易の拡大によつて対処することが要望される。なお今般輸出綿製品の決済について、半額は依然としてドル貨で支拂わなければならないが、残りは他國通貨交換可能なポンド貨または受理しうる商品で支拂うことが出來るようになつたことは、この問題に対する解決に一歩を進めたもので、これにより綿製品の輸出は相当促進されるであろう。
次に輸入の見透しについてみると、これまで輸入資金の不足と海外需給状況のひつ迫が輸入実現の大きなあい路となつていたのであるが、今年は内外の状勢から判断して昨年よりかなり明るい様相を示すであらう。即ち、近く六千万ドルの綿花借款が実現される由であり、又別に対占拠地回轉基金の設定も期待されるので、綿花を始めとして羊毛、麻、その他の輸出用原材料の輸入が相当活ぱつになるものと予想される。また今年も食糧その他最低生活確保のための必需物資の輸入には昨年以上に米国の援助を仰がねばならないが、このため相当額の対日救済費が昨年と同様に考慮されており、さらに今年から新たにわが國経済再建に必要な資材の輸入のためのクレヂツトが米國議会において審議されている模様である。なお本年になつてから一、二月の間に海南島鉄鉱石が一万五千トン、製鉄用粘結炭が米國、中國から六万四千トン輸入され、今後も相当額の輸入が確実であることは特によろこばしい。また近く、民間投資團の來朝をみることになっているが民間投資による資材輸入の促進も期待される。
以上のごとく各種の外資援助の增加、輸出入貿易の進展等によつて今年度には一段と國際経済と接触が深まると思われるが、わが國としてはそれに対應して、國際経済参加の準備体制を整備する必要がある。特に爲替問題の解決はわが國現在の経済状態の下においては相当の困難が予想されるけれども、適当な時期にこれが解決されることが望ましい。けだしわが國経済は多年國際経済から孤立遊離していたため、わが國内の物價体系を國際体系と比べていると、極めてでこぼこのはげしいすがたを呈しているので、爲替レートないしは換算率の設定には当面この物價体系の不均衡を配慮して暫定的な操作を必要とするであろうが、終局には單一な正常爲替レートの設定に向つてあらゆる努力がなされねばならない。又それに備えて今後の物價改訂に際しては國際價格体系えのさやよせが考慮されねばならない。それは又根本的にはインフレーションの克服、企業の合理化に関連する問題である。