七、貿易の実績


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 昨年における貿易は、官民関係者の努力と連合国軍最高司令部当局の盡力により又貿易公團の設立等による國内体制の整備および九月以降の民間貿易の再開と相まつて、前年と比較して相当に增加した。昨年一―一二月の貿易実績は輸入約五億二千六百万ドル、輸出約一億七千四百万ドルであつて、これを終戰以降二一年末までの輸入において約八割、輸出において約五割の增加となつた。しかしこれを昭和五―九年平均の輸出入額(物價指数によつて換算)と比較すると、輸入において約三割、輸出において約一割にすぎず、依然として我國の貿易が戰前に比して極めて小規模に止つていることを示している。しかも貿易收支の赤字は三億五千二百万ドルに逹し、二一年末までの赤字約一億八千万ドルを通算して五億三千万ドル余となり、この入超は主として米國の占拠地救済費によつてまかなわれてきたのである。

 次に終戰後の貿易の実績をまず輸入面から檢討しよう。

第7表 輸入(比率はすべて建総輸入額に対するもの)

 上表のごとく二二年の輸入は二一年末までの輸入に比較すれば数量、種類ともに相当增加しているが、さらに輸入の性格を檢討するために輸入品目を次の三つに分類してみよう。

(一)まず飢餓や疾病を防止し最低限度の生活を維持するために不可欠な物資をあげると、食糧肥料、医薬品の全部、油糧の大部分、石油類の約三割(漁船用重油その他農水産用)塩の約七割(食用)等があり、これらの、総輸入額に対する比率は六八・二%を占め、(二一年末までは六九・五%)「生存のための輸入」の性格は終戰以降未だにそのまま継続しているのであつて工業原料が輸入の五―六割を占めた戰前の輸入構成に比較すれば輸入貿易の性格は大きく変化している。しかしながら一面にかかる輸入によつて我々はこれまで飢餓や疾病を免れ得たのである。

(二)生産資材の輸入としては、石油類の約七割(製鋼用重油、その他鉱工業用)、塩の約三割(工業塩)、その他機械類のほか粘結炭一七三二八トン、銑鉄七、八四九トン、ベンゾールその他で、合計して総輸入額に対し一六%(二一年末までは四・九%)を占め、前年末までと比較して比率、種類ならびに数量においてやや增加したが、これらはなお我國経済の需要量から見れば極めて少いのである。

(三)次に輸出用原材料においては、主要品目たる綿花は依然大きな比率(一二・九%)を占めているが、数量においても比率においても前年にくらべて輸入が減少した。したがつてその他の羊毛、麻、生ゴム、パルプ、カオリン等をあわせても、総輸入額に対する比率は一五%程度にすぎず、二一年末までの二五%に対してかなり低下している。要するに加工貿易方式は昨年までのところいまだ軌道に乗つたとはいい難いのである。

 次に終戰後の輸出貿易を檢討すれば

第8表 輸出(比率はすべて円建総輸出額に対するもの)

 上表に見るごとく数量こそなお極めて少いが、輸出は輸出に比べてその商品構成が、戰前に近い姿に次第に立ちもどりつつある。

 まず繊維品の輸出は二二年においては輸出総額の半ば以上を占めているが、その内容においては前年に比し生糸輸出が減少し、輸出繊維の大部分が綿製品となつている。綿製品については、原料綿花がアメリカから賃與されこれを製品化し輸出して綿花代金を返済することになつており、輸入綿花の約八割が輸出用に向けられている。したがつて綿製品の取引はドルで決算する建前になつており、その主な市場である東亞地域のドル不足は綿製品の輸出を必ずしも順調ならしめていない。すなわち毎月の綿製品の輸出実績は毎月の輸出向生産の約半ばにすぎず、昨年一二月末においては綿織物約三億ヤード、綿糸一千万ポンドの滯貨を生じた。

 農水産物、雜貨類、機械類等の輸出は、その種類数量ともに增加しており、漸次軌道にのつているのであるが、ただ機械類は、各地域からの需要が極めて大きいにもかかわらず、わが國における鉄鋼、石炭の不足のため充分注文に應じられないでいる。また二一年末までにおける鉛、錫、石炭、木材、生ゴム等の輸出と同じく、二二年においても朝鮮香港向けの石炭、中國、朝鮮向けの坑木、まくら木等の木材、沖縄、朝鮮向けの肥料のごとく我國内において不足している重要物資の輸出が依然として続いていることは、終戰後の貿易の一特色である。しかしこれらの物資の総輸出額に対する比率は二二年に至り減少する傾向を示してきた。

 以上の輸出入を地域別にみると次のごとくである。

第9表

 すなわち輸入においては米國の比重が依然圧倒的であるが、輸出においては米国の比重が減し、蘭印向輸出の伸長等によつて東亞地域が過半を占めるに至り、わが國本來の対東亞貿易中心の姿に復帰しつつあることを示しており、その他アフリカ欧州諸國等えの輸出も漸次增加している。しかし輸入が依然として米國中心であるために、非ドル地域えの輸出の伸長はかえつてドルに対する入超を拡大する結果となつている。

 昨年から始まつたバーター貿易はこの困難な外貨問題の一対策としての意義をもつのであつて、昨年九月、ソ連との間に木造船を輸出してその見返りに粘結炭、セミコークス、黒鉛を輸入する契約が成立したのを初めとし、本年一月米国に一商会との間に粘結炭輸入の見返りとして鉄板及び亜鉛鉄板を輸出する契約が成立した。今後各地域との間に機械類等を輸出しその見返りとして、鉄鉱石、石炭等を輸入するバーター取引が相当增加するであろう。現在インド、西欧諸國との間にもすでにこの種の交渉が進められている。

 又昨年九月外國貿易業者の來朝許可によつて開始せられた民間貿易は、一二月末までは輸出契約高約一千九百万ドルで、まだ僅かなものに過ぎなかつた。契約先のバイヤーは米國が八割以上を占め、日本商品の主要な顧客である東亞地域からは極めて少なかつたことが、價格上の諸困難のあつたこととともに、あまり実績の上がらなかつた原因である。然しながらその後生糸についても民間貿易が許されるようになつた結果、本年二月以降に於ては民間貿易の比重は著しく增大した。即ち二月の民間貿易実績は、昨年九月以來一月末迄の合計の約六割に逹し、さらに三月は二月の四割增で、同月輸出総額の約三五%を占めるに至つた。かくて本年初めより四月十五日までの民間実績は二、七〇〇万ドル、終戰以來の累計は四六〇〇万ドルとなつている。契約高は品目別に見ると、繊維製品が最も多く、ついで雜貨、機械金属類、水産物、化学薬品の順序である。

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