六、運輸と通信


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 出炭の增加および生産水準の上昇につれて、輸送の行き詰まりが生産阻害の第一の原因として挙げられるに至つた。二二年度の鉄道輸送計画は出炭三千万トンに対應し、各月九百万トン以上、年間一億一千七百万トンの逹成を目ざし、四月九二八万トン、五月九六五万トンと好成績をもつて発足し、その後もおおむね順調であつたが、九月に至つて東北および関東地方一帶の水害で大打撃を受け、月間九百万トンそこそこに低下した。折から秋の新穀、薪炭、肥料等の出荷最盛期をひかえ、輸送力の回復につとめた結果、一〇月九八七万トン一一月九四〇万トンの実績を示したが、北海道、青森方面の降雪が例年より著しく早く、運轉用炭の入荷に遅滯を來したため、一月、二月には北陸東北、関東の全域にわたり貨物列車の削減を余儀なくされた。これがため二二年度の輸送量は一億一千二百万トン、計画対比九五%で前年度に比へれば一二%增に当るが、なお輸送要請量に対しては八五%に止まつている。主要な物資については昭和二一年度及び二二年度の輸送実績を比較するとつきの通りである。(單位千トン)

第5表

 上の輸送量は昭和一三年ごろの水準に相当するのであつて、國鉄の輸送力をこれ以上大巾に增強するためには、衰弱した施設や車りようの補修に相当の資金、資材を投入せねばならぬ。しかるに鉄道に対する二二年度資材の割当は、普通鋼は二三万トンの需要に対し僅かにその二〇%、セメントは一三万トンの需要に対し三八%にすぎない。かかる情勢にかんがみて本年一月閣議において、鉄道輸送については石炭電力と同等の取扱をなし資材の入手、労需用物資の確保についても特別の措置を講ずる旨の方針が決定された。二三年度三千六百万トン出炭をもととして要請される輸送量は、一億六千万トンを超えるものと推定されるが、現在の見通しは一億三千万トンが最大限と目され、これが逹成に努力を傾注することとなつている。

 鉄道輸送力の不足を助けるためには、長距離輸送を汽船に切かえ、さらに機帆船の活躍分野を出來るだけ拡大し、又短距離貨物の輸送にはトラツクを活用せねばならない。海運轉移は前年以來多大の努力を傾倒したところであつて、現に石炭、鉄鉱石、硫化鉱などの輸送に顯著な実績をあげている。例えば九州炭の関西地区えの輸送実績を陸運海運別に示せばつぎの通りである。(單位千トン)

第6表

 一方において工場における手持ストツクのひつ迫のために、一船まとめえての入着より少量ずつでも毎日入荷する貨車便が喜ばれ、又鉄道運賃が海上運賃諸掛に比して遥かに安い等種々の問題があるけれども、陸上輸送力の現状から見るとき、之等の困難を一つ一つ打開して海運轉移の普遍化につとめねばならない。

 汽船による貨物輸送は二一年度には國内四二三万トン、國外一四六万トン、合計五六八万トンであつたが、二二年度は三月末までに一〇六八万トンの計画を突破したものとみられる。これは前年に比して八八%の增加である。船腹も手持資材の活用による新造船と戰禍破損船および沈没船の修理とにより增加した。現在運行中の船は四三〇隻一三二万トンで、昨年中の增加割合は二二%であつた。しかしながら國外輸送に適する船としては南方水域え航行可能なものは約二〇万トンであるが、太平洋横断可能の船は四隻にすぎない。今後增加を見こまれる貿易物資の輸送には甚しい不足が予想される。本年度において期待される貿易物資がついて見るに、價格のうちに運賃の占める比率はおおむね輸入において二二%、輸出において四%であるから、外國船によつて輸送するのでは二億ドル近くの外貨拂運賃が必要である。船員の失業救済の意味も含めて、新船の建造促進とともに外國船の用船が待望されるゆえんである。

 汽船や機帆船はそのてい泊期間を短くし、か働率を向上することが急務であるが、それに重大な関連をもつのは港湾設備の良否である。航路、泊地のしゆんせつが中絶し、荷役用のクレーンは戰災のまま放置され、荷役能力は戰前に比べて石炭その他のばら荷に於て約六〇%、米穀其他の雜貨に於て約四〇%まで低下している。したがつて港内のしゆんせつや、クレーン、荷揚場、上屋、倉庫等の急速な整備が必要である。なお鉄道に比して船便が割高になるのも主として荷役料がかさむことによるのである。

 鉄道及び汽船に対して補充的役割を果すものはトラツク及び機帆船である。トラツクは進駐軍の拂下げと新造を加えて現在一二万四千台あり、二二年度の輸送量は一億七千万トン見当と見こまれる。トラツク輸送のあい路は先づタイヤの補充難であり、これは原料ゴムの不足とタイヤの耐用命数の著しく短くなつていることに原因がある。更に深刻なあい路は燃料油の不足で、之を補うためにトラツクの六割、乗用車の五割、バスの八割全体として約四割が代燃車となつているが、之以上の代替は家庭燃料を更に圧迫する事になつて不可能であり、生産增強の一環をなす道路運送の強化にはどうしてもガソリンの確保が必要である。又機帆船は現在約一万八千隻、八五万トンで、内六八万トンが動いており、二二年度の輸送高は約二千万トンであるが、ここにおいても燃料油不足が最大のあい路となつている。

 以上貨物輸送について述べたが、旅客輸送について一言すると、人口の增加、産業活動の一般的上昇等により旅客は益益增加し、國鉄においては二一年度一日平均八四〇万人に対し、二二年度は一三%增、九五〇万人になつた。石炭事情や車りようの補修状況等から見てもう一年もたてば旅客輸送はやや改善されてくるであろう。

 次に輸送施設と並んで、近代的社会経済機構の維持運営に不可欠なものに通信施設がある。通信状況の良否は生産能率に影響するところが大きいが、現在電信電話施設の戰災と老朽のために疎通状況の惡化は甚しいものがある。たとえば市内電話についてみれば、東京都における加入者の話し中率三六%、設備の不良及び障害による不接一八%、合計五四%は通話不能に終り、加入者によつてはこれが八〇%を超えるものもある。市外通話について見れば、通話申込の取消率は戰前昭和一二年には九%であつたものが現在は二五%で、この增加分は通話の意思を持ちながら不通のために断念しているものとみなされる。電信についても東京局対大阪局間の電報所要時分は昭和一二年で一八分であつたのが、二一年五月には二時間二六分、二二年五月には一時間四〇分となつている。終戰後通信施設の復旧には多大の努力が拂われ、特に二三年度以降は、加入者に電話公債を買い入れさせ、工事費の一部に充当する等の方法を講ずることとなつたため、回復率は從來より好轉するであろうが戰前の状態にもどるまでには、なお相当長期にわたる努力を必要としよう。

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