五、農林水産業の生産


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 稻に対する肥料の配給は二一年度硫安換算反当り二貫が二二年度には四貫三百匁に倍增し、二三年度においては五貫を超える見込である。しかしなお需要に対しては六割程度にしか逹しておらず有機質肥料、綠肥作物、自給肥料の供給減少の影響を十分につぐなつていないが、硝安の輸入も引つづき期待できるし、工業生産水準の向上とともに次第に好轉が予想される。なおりん酸肥料の增産は麦作に好影響を及ぼしていると認められる。

 昨年及び一昨年の主要食糧農作物の生産高を過去の実績に比較すると次の通りで、肥料その他の生産條件においてもつともよかつた昭和一二―一四年はもちろん、昭和五―九年に対しても、かんしょ、馬鈴しよ以外は相当に下廻つており、特に麦において著しい。その原因は米について反当り收量に大して変化はないが作付面積が大巾に減つているためであり、麦についても反收減が大きく響いている。

第4表

 農業生産は年年の氣象條件により強く影響されるのであつて、肥料その他の生産條件が甚しく低下しているのにかかわらず、二一年、二二年と、とに角豊作を收め得たのは比較的天候に恵まれたからといえるであろう。唯昨秋のたい風によつて推定米約二五〇万石、かんしよ約二二〇〇万貫の收穫減があつたが、さしたる雨量を伴わないたい風によつて河川がはん濫し、一朝にして農地開墾による收量に数倍する被害を生じたことは、減産防止対策としての治水事業の意義を改めて教えるところがあつた。

 耕地の開拓に関しては目標を開墾一五五万町歩千拓五万町歩計一六〇万町歩におき、食糧の增産と人口の吸收を計つたが、資材、資金が十分でなく、又用地の選定にも万全を期し得なかつたため現在までの処、計画通りにははかどつていないので、今後たとい進度をおくらせても着実に進行するように、適当な修正を加えることになつている。

 木材の二十二年度生産状況は立木所有者の思惑賣りや、財産税納入のための立木の賈却等もあつて、計画の七千万石を相当上廻る見込みであるが、輸送がこれに伴わないため、徒らに生産地に滯貨して、昨年末の全國滯貨量は二千二百万石に及んでいる。薪炭についても同様輸送の不円滑から木炭一九七万トン、薪七六七四万層績石、ガス薪三六万トンの生産計画は一應逹成しながら、消費地における配給は甚だ不円滑である。

 水産業は食糧確保のため戰後いち早く立上つたが、戰爭による漁船の喪失と漁場の縮少のため二二年度の生産高は昭和五―九年平均の六二%七億七千万貫にとどまり、二一年に対しては一割の增産であつた。漁船の復旧の速度は意外に早く、終戰以來約二三万トンが新たに出來上り、現在の保有量は九四万トンに逹している。漁業用の資材として燃料油、漁網等はいすれも需要を充すにはたらず、生産の主要なあい路となつている。その上供出に対するリンク資材の不足が供出制度の円滑な運営をはばんでいる。漁区は連合軍の好意により既に二回に亘り拡張を許されたが、なお北洋漁業の操縦と東海、黄海の底引き網、南方のかつお、まぐろ漁業の漁場が制限されていることが生産回復の大きな制約となつている。南氷洋の捕鯨は二一年度と同じく二船隊の出漁が許され、鯨肉、鯨油は食糧および油脂資源として貴重な役割を果たしている。

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