三、石炭の增産と動力事情


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 石炭を中心とする傾斜生産は昨年の一月に発足した。炭坑に対しては鉄鋼、セメント等の資材、資金、労務者用の生活物資、住宅等について乏しきを割いて極端な傾斜方式がとられた。既ち鋼材セメント等は、他部門が平均して最低需要の二割乃至三割の配当しか受けられなかつたにもかかわらず、石炭部門に対しては需要の八割乃至九割が割当てられ、しかもその現物化率も極めて良好であつた。産業資金においても他産業が優先して石炭には特別の措置が講ぜられた。

 また労務者用の生活物資については一般国民が遅配、欠配のために苦しんでいるときも、炭鉱には労務者及びその家族対する加配米も含めて配給はほぼ確保せられた。なお炭鉱住宅の建設のためには昨年上半期の全國住宅建設計画一三万戸の約四分の一が振向けられたのであつた。これ等の施策にかかわらず出炭は昨年上半期にはあまり增加、月産二百十万トン台を低迷していた。下半期においては、さきに投入した資材がやつとその効果を発揮し始め、又実際生産費に対して低すぎた價格が新物價体系により改訂せられ、それが企業者の生産意欲を刺げきする等の事情も伴つて出炭は增加の兆を見せたのであるが、もともと二二年度三千万トン出炭の計画は前半に軽く後半に比較的重く設定されていたので、九、一〇、一一と生産は漸增しながらも計画と実績の開きは次第に大きくなり、出炭目標逹成の見込を危ぶまれるに至つた。このため政府は、「石炭非常対策要綱」を決定して引つづき石炭最重要主義を強行し、労務者に対しては、その救國的熱情に訴えて一日三交代二四時間制を実施するように要望すると共に、北海道および九州の二地区え特別調査團を派遣し、連合国司令部係官の協力と現地軍政部当局の援助をうけて、あい路の打開のために努めた結果、折柄もり上がつてきた労資のおう盛な生産意欲に一層の拍車をかけ、一二月の出炭は計画量を突破する二九五万トンに逹し、終戰後の最高記録を上げることができた。更に一月以降の出炭も比較的好調で、年角間の出炭目標三千万トンに対し二九三二万トン、九七・七%の実績をあげた。石炭に関する限り傾斜生産は一應所期の成果を收めたと認められるのである。

 このような增産の結果、昭和二二年度の石炭の総配当量は、前年に比してほぼ三割の 增加となり、次の表にみるように産業用配当の四割六分の增加が可能となつた。

第2表

 産業用配炭が一般的に增加したうちで、実質的にもつともその恩恵にあづかつたのは鉄鋼と肥料であり、非産業用で著しく增加したのは進駐軍向けと電力用のみである。その結果産業用炭の総供給量に対する割合も二一年度の二八%に対し二二年度は三二%とやや向上した。しかし、昭和一二年において、輸入炭をあわせて五千万トン余の総供給量の五割に当る二千五百万トンを産業用にあてていたことを思えば、現在の産業用配炭はなおその三分の一に過ぎず、炭質の低下をも考えあわせれば実質的な供給はさらに下廻り、各産業とも石炭の不足にあえいでいる。炭質低下の原因は、九州や北海道の良質炭を出す炭鉱の生産回復がおくれていること、量の目的逹成に追われて質の問題をなおざりにしたこと、選炭設備が老朽していること、炭價の質による値開きの少なかつたこと等であり、戰前は六千カロリー以上あつたわが國の石炭が終戰後非常に粗惡化して一時は五千三百カロリー位に落ち、その後やや回復して現在五千六百カロリー程度となつている。石炭の品質の低下は使用に際して、発熱量の低下した割合以上に惡影響を及ぼすものであつて、例えば鉄道用炭についてみれば、現在と輸送量のほぼ等しい昭和一二年には四一二万トンで足りたのに、昨年度の配当は六八四万トンに逹している。從つて石炭の生産には、量の增加と共に質の向上に努めねばならない。

 しかし良質炭の月月の生産は限られているからどうしても良質炭でなければならぬ部門には、春夏の候から毎月配当して、需要期に入る前に相当の貯炭をもたせる様に計らねばならないのであるが、昨年は上期の出炭が予想量に逹せぬ等の理由もあり、下期の需要增加に際して、例えば電力に粗悪炭が配当されたり、その反面北海道の暖房用に相当量の良質炭が混入したりする不合理が生じたのであつた。

 次に石炭と並んで動力事情を左右する電力については、各地に補修不足による発電所の事故が続出し、更に八月頃から異常な渇水に見舞われ、中國四国、九州の渇水は特に甚しく平年の僅か二分の一となり、全國的にみても河川の水量は平年に比して九月八七%、一〇月八三%、一一月七七%、一二月八八%と、そのまま冬の渇水に接続する結果となつた。これに加えて秋のたい風が関東、東北を襲い、六七ヶ所の水力発電所に甚大な被害を與え、逆に九州地区にはほとんど降雨がなかつたことは水力発電力の低下を一そう深刻にした。このために生じた供給力の不足を火力発電によつて補うため、発電用石炭の割当を相当に增加したのであるが、現物の入手状況の惡いせいもあつて、発電所の石炭は依然不足をつづけ、又戰災と酷使と補修不足によつて低下した火力設備の能力は炭質の低下によつて益益劣化し、火力の增強が意の如くならなかつたため、八月以降の発電電力量はおおむね冬の渇水期の水準あるいはそれ以下に止まつたのである。これに対して需要面においては、工場及び家庭における熱源としての電力需要が戰後激增した上に、設備の弱化による電力損失の增加、計器不足による盗用の增加等があり、電力使用の制限も思うようにゆかなかつたために、需給のバランスが全く崩れ、しきりに緊急停電が行われ、家庭も工場も未曾有の電力飢餓に襲われたのである。政府は上の事態に対処するため、一一月中旬に「電力機器突破対策要綱」を定め、資材、資金を石炭に準じて優先的に取扱い、発電所の復旧修理、火力用炭の確保、自家発電の動員等に努め、又危機突破の電力節約運動を展開し同時に從來の不合理な実績主義による制限方法を改め、産業計画及び燃料計画に対應して電力を重点的かつ合理的に使用せしむるために十二月から新に電力割当制を実施した。これらの対策はある程度効を奏し、又発電所の補修と火力用炭の確保はその後極めて順調となり、一月以降は水量も大体平年なみに回復し、一方電力自制会の協力等により消費は合理化され、電力事情は好轉してきている。二二年度の発電電力量は水力二八五億キロ時、火力二〇億キロ時、合計三〇五億キロ時と推定され、昭和五―九年の水準を八割五分上まわり、昭和一四年と同じ水準となつている。二三年度の供給力は水量を平年なみ、火力用炭を三七〇万トン程度として三一六億キロ時となるが、これは二二年度に比して僅かに五%の增加であり、産業水準の一般的增加に伴う需要增を考慮すれば電力需給はなお楽観を許さない。したがつて、その対策としてはさしあたり電力消費の合理化さらに一段の努力を拂うことが必要である。

 又漁船燃料、製鋼用平炉燃料、自動車及び船舶燃料等として、交通、産業の糧である石油については、その供給量の九割までは連合軍による輸入石油の放出であり、二二年産の國内生産は一七万五千キロリツトルにすぎない。二二年度の総供給量は一三三万五千キロリツトルと前年に比し七九%の增加を示したが、なお需要量の七割程度に止まつている。しかも米國に於ても石油類が次第にひつぱくし、消費規制や輸出制限を行つている程で大巾な輸入增加は困難であろうから、今後一層石油の消費を緊急不可欠の用途のみ制限する必要がある。

 石炭、電力、石油はさらに亞炭、薪炭、ガス等の燃料を加えて一つの共通なエネルギー基盤を形づくり、或程度相互に代替して使用される。家庭用ガス、薪炭、れん炭等の不足が電熱の消費增を通じて工場用電力の供給不足を招くことは周知のごとくであるが、製鋼用重油が発生炉炭に代替し、ガソリンの輸入が代燃車用の薪炭を、塩の輸入が製塩用の電熱や薪を節約して間接に電力の供給に余裕を生ぜしめるような密接な関係をもつているのであるから、各種エネルギーの合理的な消費について総合的な計画を持つ必要があり、政府においてもそのような体制を準備しつつある。

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