各論 (六)雇用勞働


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一、人口の增加

終戰以來本年五月末日までの復員者を含む海外引揚者の総数は五三六万人であり(厚生省引揚援護院調)本年一〇月一日現在の國内総人口は七、七八五万人と推定される。(経済安定本部推定)昭和一〇年當時の内地在住人口は六、九二五万人であつたから現在の人口は當時に比べて一二%增加である。時に引揚者は要就業年齢層が多いから、職業を與えねばならぬ人口の增加は著しい。

二、失業の實情

  一方において最近の我國鑛工業の生産活動は戰前の三割程度であり、農村も既に人口飽和の状態にあるから戰前の生産能率をもとにして考えれば一、〇〇〇万に近い失業者を生ずるはずである。

  しかるに終戰後の失業は當初懸念されたほど大きな量となつてあらわれていない。たとえば昨年秋厚生省が行つた就業希望調査による調査の對象となつた完全失業者四〇万人のうち就業を希望するものは、二三万人にすぎない。又職業紹介事業によつても、求職数は常に求人数にたらず昭和二一年後月以降一年の実績では求職数の求人数に比する比率は六八%に過ぎない

  又昨年四月二六日に行われた人口調査の結果完全失業とみられるもの、すなわち「働くことが出來るし、又働きたいが仕事がない」ものは一五九万にすぎない。一方働いてはいるが月に一週間以内しか働かぬものが一九六万人、月に八日以上二〇日未満しか働かぬものが四三二万人という多数に上ついている。このような事態はいわゆる失業の滞在化と呼ぶべきものであり、インフレのもとにおいては、経済の統制が不完全ならば、たとえ定職に就業せずとも生計をたてうること、さらにまたこれらの人々がややもすれば定職を持つ者にくらべて有利な條件によつて生活出來ること等に原因するものであり、換言すればインフレのもとにおいて失業が失業として意識されない状態におかれているのである。

  かくては國の経済にとつて必要な場面に労働力の供給が不十分であり、不必要な場面に十分であるという不健全な事態を生じる。その結果骨の折れる生産的な職場はきらわれ、安易な職場や商品賈買の場面に労働力が集中し、生産の不振に拍車をかけ、経済の囘復をますますおくらせることとなる。

三、就業状況

  次に雇用労働力の推移をみると終戰の直後には一時は著しい減少をみたのであるが、その後次第に囘復し、昨年末では毎月上昇の足どりをしめし、内閣統計局の年次勤労調査によると昨年七月には鑛工業労働者は約六〇〇万人、全産業においては一、〇〇〇万人をこえ、ともに戰前と殆ど同じ高さに達するにいたつた。

  しかしながら一方わが國の鑛工業生産は戰前の三割にとどまるから就業者一人當りの生産量は戰前の三分一に低下しているものとみられるのであつて、いわゆる水增し雇用の状態にある。

  一方昨年末まで上昇を続けた雇用数は本年に入つてから石炭鑛業をのぞくほかはいずれも一進一退の状態におちいつた。これは一面ストツク資材の沽渇にもとづく加工部門の停滞や、本年一月以降の電力、石炭事情の惡化等の影響もあるが根本的には雇用と生産との不つりあいという戰後のわが國の経済事情が、次第に彈力性を失ってきた非重点産業の経営を壓迫し操業短縮、生産停止、はては過剰労働力の整理にまで追いつめてきたためである。

四、勞働の生産性

  上にのべたように、今日わが國の労働者は平均して一人當り戰前の三分の一、あるいはそれ以下の生産しかあげていないのである。しかもこのような雇用と生産の不つりあいは、わが國の諸産業に一様に見受けられるところであり、またかかる状態には戰後一貫して持続し、未だ改善の傾向が見えない。一例として石炭、セメント及び國有鉄道をとつてみればつぎのとうりである。

(イ)石炭労働者一人當り月平均出炭高  (單位瓲)

第19表

(ロ)セメント工業從業員数一人當り月平均生産量(單位瓲)

第19表

(ハ)國有鉄道從業員数

運轉列車粁は昭和一一年二一年度とほぼ同様であるが從業員数は昭和一一年二二万八〇〇〇人に對し昭和二一年度五七万三〇〇〇人で約二・五倍にあたる。

  上のような事情は果たしていかなる理由によるものであろうか。一般的にいえば食糧事情の窮屈、通勤難、住宅難、設備操業率の低下、原料資材の動力の入手難、原材料の品質低下、設備の老朽化等の諸原因があげられようが同時に労働規律の弛緩技術的訓練の低下等も重要な原因となつているものと認められる。

五、勞働者に對する食糧、必需物資等の特配

生産增強の窮極の担い手である労務者の労働力の再生産を図るために、主食について一般基準量のほか、加配米が配給され、又その他の作業用品等の必需物資が特別配給されている。

  上の特別配給は乏しい國力の中から労務者を優先扱として行われているものが多いが、これまでのところ、全物資について十分に計画的に處理されたとはいいがたい。しかし生産增強の中軸である石炭関係の從業者に對しては総合的に重点的に優遇の措置をとることとなつている但しその確保の実績が未だ十分にあがつていないものもあるのが現状である。

  次に昨年度の品別加配数量の実績と本年三月末に決定した炭鑛労務者用物資の確保對策の概要を掲げよう。

(一)労務用物資品目別加配実績(農産物等供出用を含む)

  酒類五〇万五千石、煙草約一三億本をはじめとして、繊維品類としては、作業衣一、六〇〇万着、タオルまたは手拭一、二〇〇万本軍手九四〇万双、また地下足袋及びゴム長靴がそれぞれ七九〇万足、二五万足あり外に石鹸、醤油、甘味品等が各々相當量ある。

(二)炭鑛労務者用物資の確保計画概要

イ、食糧については主食一人一日當り労務者に六合、同家族(坑外現場職員の家族を除く)に三合の配給と間食用として本人(坑外労務者を除く)には一合の追加がなされている。そのほか味噌、醤油、塩、蔬菜、魚介類等についても一等配給の二倍以上を確保することとなつている。

ロ、嗜好品のうち、酒については坑内労務者には稼働日数に應じて一人當り家庭配給を含め一日一合、坑外労務者については一人一カ月五合を確保し、煙草は坑内及び坑外の労務者の双方に計画生産量より增産された場合に一人一か月當り五〇本增配することとしている。

  未成年者及び婦女子に對しては、酒、煙草の代りに甘味品一人一カ月當一〇〇匁の供給をする。

ハ、作業品及び日用品

  炭鑛労務者にとつて作業衣、軍手、年下足袋、ゲートル等は作業上不可欠の物資であるから例えば作業衣については一人地當一・五着、地下足袋八足とかタオル又は手拭を年三本とか必要な適當量を確保し特殊の需要として主として北海道では冬期にゴム長靴、ゴム炭鑛靴が必需品であるので年間総量として各一二万足、七万足を用意している。

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