各論(二)國民生活


[目次]  [戻る]  [次へ]

一、食糧

食糧供給の如何は、生命の維持特に労働力の再生産と、賃金とに大きな影響をもつてゐる。前者については熱量及び蛋白の攝種量が問題であり、後者については、攝種された総量の中に占める正規配給量の比率が需要である。

(一)從來の配給について

  日本人の正常攝取必要量は、平均一人一日當り約二、一五〇カロリー、蛋白約七五瓦とされている。日本学術振興會の調査による戰前の実績は、略々これに一致している。

  太平洋戰爭以後の攝種量は、農林省統計を基礎とした下の調査の示すように、熱量において次第に低下し、必要量を下廻つた。

第14表

  昨年は、次第に次にのべる惡条件が影響しはじめたため、四月以降各消費地において遅配がはじまり、食糧メーデーを頂点として危機にみまわれた。統計にあらわれたかぎりでは、國内産食糧だけでは、一、三二五カロリー程度にすぎない。しかし統計以外にまだ供給源があつたし、五月以降十月までに六八七千瓲余(同じ期間における主食配給量の三七%)の輸入食糧の放出もあつて、ようやくこれを切りぬけたのである。

  昨年の消費実績を、厚生省が年四囘にわたつて実施した事例調査の平均値(概数)によつてみると、次のとおりである。

第15表

(二)食糧供給の惡条件について

  敗戰によつて從來の供給源を失つたことは重大である。その主なものをあげれば次のとうりである。

(イ)朝鮮、台湾、満州、南方地域からの米、雜穀、砂糖、大豆などが入らなくなつた影響は、熱量の面からみればカロリー換算で約二〇%の喪失となる。

(ロ)満州大豆がこなくなつたことにより、蛋白給源の約一〇%をうしない、また味噌醤油の供給は大打撃をうけ、代用原料に轉換することを余儀なくされた。

  一方終戰後今日まで五〇〇万をこえる海外引揚者を迎え内地人口は急增し、食糧の需要量は大きくなつた。

  國内食糧の生産條件をみれば農産、水産畜産を通じ生産資材の供給不足を主な原因として、次第に生産力が低下している。さらに大消費都市に對する供給は、輸送力の低下や、見返り物資の不足や、インフレーションによる貨幣の價値低落などの理由で供出、集荷がむつかしくなつたために、操作がきわめて窮屈になつた。

  農林省調査によつてみると昨年は昭和十五年に比して漁獲高が多穫魚のいわしなどの激減により約六割に、蔬菜生産高は約八割であるのに、六大都市への入荷高は生産高の減少に比べて一層の減退を示しいずれも約三〇%に低下してゐる。

(三)本年の食糧事情について

  天候にめぐまれ、昨年は米六、一〇〇万石余、甘藷一四億七千万貫の生産があつたので食糧輸入も考慮して農家保有平均四合、消費配給二号五勺に基準をひき上げその確実な実施のため一〇%の追加供出を割當て、供出促進につとめ、輸入食糧の放出を受けながら五月なかばまでは基準配給を行つてきたが、五月から六月にかけて消費地において遅配が次第に增してきた。六月二十日現在で供出は略々一〇三・八%でほとんどとまつており、主要都市所在の二一府縣の平均遅配日数は一一・八日になつている。

  では、七月以後の主食の需給は、現状のままで進むものとすれば、いつたいどうなるであろうか。

  國内産食糧による供給だけでは、米換算でおよそ、次のように推定され、約八百万石の不足をみこまれる。(七月一日、食糧管理局調)

第16表

  この不足を補うのは、まづ輸入食糧であるが、現在期待される最大の数量を供給にみこんでも、なお全國家庭配給量の二十日分に近い不足が残ると考えられる。

  六大都市の副食などの一人一日當りの配給状況を農林水産省によつてみると、鮮魚介は一―四月平均で一〇匁程度、蔬菜四―五月の平均で二〇匁程度である。夏枯れ期に入ると更に惡化することが予想される。

  調味料についてみると、味噌は、配給実行量を三月以來半減しているが、その以前から遅配は数カ月に及んでおり、現在の手持は二カ月半分しかない。醤油も基準量の二分の一ないし三分の一しか配給しておらず、しかも手持のもろみで生産できる量は七カ月程度にすぎない。

  六大都市の配給基準量では、平均一人一日當り熱量一、三〇〇カロリー、蛋白質四〇瓦足らずになるけれども、現在における実際配給では、それぞれ一、一〇〇カロリー、三〇瓦程度にすぎない。これを要約すると食糧需給の実相はこのまま放置すれはまことに憂慮すべき状況で、どうしても思いきつた國内食糧の增産や集荷促進などの緊急對策を実施するとともに食生活の刷新が必要と考えられる。

二、衣料品

  繊維品についても日本経済の全面的な囘復をみるまでは國内消費量の增加は急には期待できない何分にも生産が戰前に比べて遙かに低下している上に生糸は有力な對米輸出品であるから食糧輸入等の見返りとして輸出に殆んど全部を振向けねばならぬし、棉花は加工貿易の原料であることを主眼として輸入されるものであり、人絹、スフの生産も原材料、石炭等の事情から急速な囘復は難しいからである。

  戰前われわれは生産資材用(タイヤ、ベルト電線、漁網等の製造用)を含めて、繊維品として、年間國民一人當一一・二ポンド、衣料品としては大体一〇ポンド前後を消費していた。ところが、この消費量も開戦以來遂次低下して、昭和十六年度は六・二ポンド、同十七年度は五・八ポンド、同十八年度は三・四ポンド、同十九年度及び二十年度はそれぞれ一・三ポンド及び一・二ポンドという程度まで落ちた。(一ポンドは白木綿にすれば小巾で鯨尺三丈に當る)

  昭和二十一年度になつて衣料品の配給数量は新規生産品のほかに、戰時中の統制機関手持品軍保有品、隱退藏品などの供給もあつたので一時的ながら二・六ポンドまで囘復した。

  しかしながら、本年度の見透しとしては、原料の輸入は增加し、從って生産は增加するであろうが、衣料品としての國内消費向配給量は一人當り二ポンドにみたぬかもしれない。しかもそのうちから産業復興に直接從事する鑛工業、農林水産業、交通業関係などの労務者に不可欠な作業用品や、姙産婦、嬰兒用などは一般國民に優先して配給を確保せねばならないから一般國民への割當は一人當たり一ポンドにも満たないこととなろう。ただしこのような衣料品生活面の耐乏も、おそらく本年度が最低で來年度以降逐次改善されるものとみこまれる。

三、日用品

  主要日用品についても原材料事情の好轉が急に望めない現状では、今しばらく苦しい需給状況は緩和改善されないと思われる。ここに石鹸マツチ、地下足袋及び紙について、それぞれ昭和五年から同十一年にいたる七年間の輸出向を含む平均生産量を一〇〇として、これに對する本年度の割當資材による生産見込量の割合を算定してみると、石鹸五、マツチ四〇、地下足袋三四及び紙二八ということになる。これにもとずいた國内消費量の見込みは一人當り石鹸は年間を通じて五〇グラムの配給石鹸を二個、マツチは本年四月から引上げられた配給量の一人一日當り四本を維持することが精一杯である。又地下足袋は本年度の最低需要量に對し二一%の供給にとどまり、紙は年間一人當七・五ポンドで戰前の消費量の四分の一程度にすぎない。

四、家庭燃料

  まず家庭燃料の中心である木炭、薪及び煉豆炭の三者について、戰前及び戰後の生産実績の平均を指数で示めすと、次のとうりで、戰後は戰前に比べて木炭と薪はほぼ六割に、煉豆炭は約四割に激減している。

第17表

  上のような生産の推移の結果、終戦後の家庭燃料の需給は逼迫して、六大消費都市についてはその輸送難も加わつたので、特に甚だしく昭和二十一年には木炭、薪及び煉豆炭三者の配給量合計は僅かに木炭換算で年間一人當り平均約一四俵にすぎなかつた。六大消費都市ではガスのある家庭も多いがこのガスも戰後は石炭事情のために、極めて不十分であつた。そのため各家庭では戰後急速に普及した家庭電熱器の利用によつて、上の不足を補つた。

  最後に六大消費都市について本年の家庭燃料事情を見透してみると、木炭薪、煉豆炭および電氣瓦斯を含めた最低必要量は標準五人家庭一世帶當り木炭換算約一六俵とされているが本年四月から六月までの薪炭の生産及び供出状況は計画に對して約六割にとどまつているので最低必要量の確保はこのまゝでは容易ではない。ガスの供給增加も石炭事情から難しい。又電力事情は昨年も冬期渇水期に相當苦しかつたが今冬は更に甚だしいものと予測されている。今冬は家庭燃料の面からみても非常に困難な時期である

五、住宅

  戰災復興院の調査によると戰爭による住宅の不足は原因別に次のように見積もられる。

第18表

  これに對して、戰災死による需要減が一〇万戸で、戰後の建設と数が約四〇万戸であるから差引四〇〇万戸が戰爭による現在の不足戸数である。

  このほか、火災、風水害その他による減失五万戸、自然腐朽による減失五万戸、世帶の自然增加による需要增一〇万戸、これらを合わせて二〇万戸を別に毎年建設してゆかねば供給不足をきたす。

  他方終戰以來、本年三月までの建築戸数は総計五九万戸で、うち約四〇万戸で住宅建築であり、残りが店舗その他の建築である。從つてこの程度の建築状況では平常需要をようやくみたしうる程度で、戰爭による不足分四百万戸の再建はできない。又これまでの建築は統制が不徹底であつたために、眞面目な勤労者の住宅よりも、インフレ利得者等の住宅建築が比較的容易に行われる傾向があつたので、本年二月から建築とその資材に関する統制が強化された。今後経済力の囘復とあいまつて、住宅の本格的な建築を促進する必要があろう。

[目次]  [戻る]  [次へ]