第2章 成長型経済の実現に向けた課題(第1節)
第1節 物価上昇が家計に与える影響と属性ごとの違い
1 家計の消費構造の違い
第1章第2節でも見た通り、消費者物価上昇率は、2024年夏以降、米を中心とした食料品価格の上昇を主因として再度上昇幅を拡大した後、2025年後半は前年比3%前後で推移している。
消費者物価指数は、582品目に及ぶ各財・サービスの価格を、家計の消費構造に沿った構成割合で加重平均したものである。その品目別構成割合(加重平均に用いるウェイト)は全家計の平均から算出されていることから、総合やコアといったマクロの消費者物価上昇率は平均的な家計が直面する物価上昇率として定義されることとなる。一方、家計の消費構造は、家計の属性ごとに異なることが知られている。例えば、消費支出に占める食料品の比率、いわゆる「エンゲル係数」は、所得が相対的に低い家計ほど高くなる(消費支出に占める食料品の割合が高い)ことが知られている。また、同様に、物価上昇の度合いも財・サービスによって異なる。例えば、2024年の消費者物価(総合)は、前年比+2.7%であったが、このうち「10大費目ベース」では、「食料」の前年比は4.3%(うち「生鮮食品」が7.0%)、「教養娯楽」の前年比は5.4%だったのに対し、「教育」は(高校授業料無償化による押下げ効果もあって)前年比マイナス0.4%、「住居」は前年比0.7%となるなど、大きなバラつきがみられる。
この場合、低所得者ほど、価格上昇率の高い「食料」が消費バスケットに占めるウェイトが相対的に高いため、加重平均した物価上昇率も高くなると考えられる。言い換えれば、近年の食料品を中心とする物価上昇は、低所得者ほど負担感が大きくなっていることが示唆される。
そこで、本節では、まず、品目ごとに足元の物価上昇率のばらつきが大きいことを様々な区分で確認する。次に、家計調査の属性別の消費バスケットのデータに基づき、属性による家計の消費構造の違いを確認する。前述のようなエンゲル係数の違いといった一般に知られているものに加え、教育費や住居費といった要素の違いについても分析する。
さらに、こうして得られた消費バスケットを用いて、各属性の家計が直面する物価上昇率(以下「直面物価上昇率」という。)を計算する。最後に、こうした属性ごとの直面物価上昇率と、実感物価上昇率(後述するアンケート調査の、「日ごろ欲購入する品物の価格が1年間でどのくらい変化したか」という回答に基づく物価上昇率)、予想物価上昇率の違いを議論する。
(2020年代以降、「食料」、特に「生鮮食品」の上昇が顕著)
消費者物価指数を構成する品目別の物価上昇率を確認したものが第2-1-1図(1)である。まず、いわゆる「10大費目」ベースで、2019年の上昇率と2024年の上昇率を比較すると、2019年は光熱・水道が+2.3%、家具・家事用品が+2.2%となる一方、食料は+0.4%にとどまっていた。それに対して、2024年は、食料が+4.3%と、上昇率が大幅に高まっていることが分かる。また、2014年から2019年の5年間と、2019年から2024年の5年間の上昇率を比較すると(第2-1-1図(2))、2014年からの5年間では、食料が+7.6%だったのに対し、2019年からの5年間では+19.4%と、こちらでみても大幅に伸びを高めていることが分かる1。また、5年間の消費者物価(総合)上昇への寄与度を簡易的に計算すると(第2-1-1図(3))、いずれの期間でも「食料」の寄与が高いが、2014年からの5年間では+2%ポイント程度となっているのに対し、2019年からの5年間では+5%ポイント程度となっている。

次に、もう少し細かい品目ベースで状況を確認する。まず、中分類ベース2で、2019年の物価上昇率と2024年の上昇率を比較したものが第2-1-2図(1)である。これをみると、食料の上昇率が全体的に高まっている中で、特に穀類、野菜・海藻、果物の上昇率が高くなっていることが分かる。また、品目ごとの上昇率の分布を確認すると(第2-1-2図(2))、全体的に上昇率が高まっているものの、最もウェイトが高いのは0~+1%である点については変わりない(ただし、そのウェイトは4,000(1万分比。以下同様)程度から3,000程度に低下)。一方で、食料を中心に、上昇率の高い品目は増えており、特に10%以上上昇した品目のウェイトは、2019年には11だったのに対し、2024年には520となっている。物価が10%以上上昇した品目のうち、6割程度を食料が占めている3。

(貯蓄率は、ほぼすべての世帯類型で2019年から2024年にかけて上昇)
このように、食料品を中心とした物価上昇が続く中で、賃金や可処分所得も上昇し始めているものの、消費の伸びは賃金や可処分所得の伸びを下回っており、結果的に貯蓄率が多くの世帯で上昇している。第2-1-3図は、勤労者世帯の各世帯類型(年齢・収入)について、分母である可処分所得と、分子である消費支出の推移、及び貯蓄率の推移を示したものである。2019年との比較でみると、まず、可処分所得はすべての世帯類型で上昇している一方で、消費支出については減少している世帯類型もみられる。さらに、貯蓄率については4、ほぼすべての世帯類型で上昇しており、所得の増加ほど消費が増えていないことが分かる。

(年齢階層別にみると、高齢世帯ほど食料支出の比率が高い)
次に、総務省「家計調査」をもとに、様々な属性の消費バスケットがどのような構造になっているかを確認する。まず、家計全体の4割弱を占める「2人以上勤労者世帯」について、年齢階層別に消費構造をみる(第2-1-4図(1)、(2))。全世帯平均では、「食料」が27.1%と最も多く、次いで「その他の消費支出5」17.4%、「交通・通信」15.4%などとなっている。世帯主の年齢階層別にみると、29歳以下の世帯では、「住居」が15.3%と、全世帯平均を10%ポイント近く上回る値となっている一方、「食料」は23.9%と、全世帯平均を4%ポイント程度下回る結果となっている。背景には、世帯人数の違いと持ち家比率があると考えらえる。すなわち、世帯主が29歳以下の世帯では、世帯人員の平均が2.94人と、世帯平均(3.23人)よりも低い。世帯主が29歳以下の2人以上世帯は、夫婦のみの世帯、または夫婦とこども1人の世帯が相対的に多いと考えられ、世帯人数の少なさが「食料」支出の少なさに直結していると考えられる(後述)。一方、「住居」については、世帯主が29歳以下の世帯では持ち家率が29.9%と、全世帯平均(82.5%)よりも低くなっており、家賃を支払い賃貸住宅に住んでいる世帯の割合が高いと考えられる。「家計調査」上、家賃は消費支出に計上される一方で、住宅ローンの返済は「土地家屋借金返済」という消費支出外の項目に計上されることから、このような違いが生じているものと思われる。
このほか、「教育」については、40代、50代で相対的に高い傾向にあるが、これは、子どもが高校や大学で教育を受ける年齢になり相対的に学費等がかかるのが、多くの場合40代~50代であること6も影響していると考えられる。

また、2024年について、2019年との比較7でみると(第2-1-4図(3))、「食料」の比率について、30代~50代の世帯で大きく上昇しており、それに対し20代や60代以上の世帯ではそれほど大きくは上昇していない。特に、30代、40代の世帯で上昇幅が大きくなっているが、この点は、30代、40代が子育て世代であることと関係していると考えられる。実際、世帯における18歳未満の世帯員数の平均を見ると、30代が1.60人、40代が1.47人であるのに対し、20代は0.90人、50代は0.49人となっている。また、世帯人員も、30代が3.62人、40代が3.67人であるのに対し、20代は2.94人、50代は3.10人となっている8。このような世帯構成の違いが「食料」の比率の推移の違いに影響を与えていると考えられる。
(所得階層別にみると、低所得世帯ほど食料支出の割合が高い)
次に、同様の比較を所得階層別に行ったのが第2-1-5図(1)、(2)である。食料の比率に着目すると、相対的に所得の低い世帯ほど、食料の消費に占める比率が高いことが分かる(最も所得の低い第1分位で30.3%に対し、第5分位では24.4%)。また、水道・光熱についても、相対的に所得の低い世帯ほど消費に占める比率が高くなっている。食料や水道・光熱費については、所得水準や消費総額に関係なく、一定量の消費が必要となることから、所得が相対的に低い家計ほど、消費に占めるこれらの支出の割合が高くなるものと考えられる。一方、相対的に所得が高い世帯では、その他の消費支出に加え、教育の占める割合が高くなっている。この点について、年齢や経験年数に伴って賃金が上昇する賃金体系が多いと、年齢が高いほど所得が高くなりやすく、また、先述の通り教育費のピークは40代~50代に到来することから、所得が相対的に高い家計には、教育費のピークとなる世代が多いという関係が影響している可能性があるが、同じ年齢層の子どもにかける教育費について所得別に比較しても、所得が高いほど教育費が大きくなるという傾向は変わらない(付図2-1)。

また、同様に2019年から2024年への変化幅で見ると(第2-1-5図(3))、いずれの世帯でも「食料」の占める割合が上昇しているが、その中でも、第1分位の家計の上昇幅が4%ポイント程度と、第5分位の家計の上昇幅(3%ポイント程度)よりも大きいことが分かる。その分、特に第1分位の家計では住居費の減少幅が大きくなっている9。
(食料支出と教育費は子どもの有無による差が大きいが、その差は教育費の方が顕著)
次に、子どもの有無による違いを確認する(第2-1-6図(1)、(2))。家計調査では、「夫婦のみの世帯」「夫婦と未婚の子1人の世帯」「夫婦と未婚の子2人の世帯」について、同様の各種データを取ることが可能である。そこで、これらの3つの世帯類型について同様に確認すると、子どもの数が多いほど、支出に占める食料の割合が高くなっている。住居費等の固定費は世帯人員と必ずしも比例しないのに対し、食費は世帯人員にある程度比例する。特に、10代のいわゆる「食べ盛り」の子どもがいる世帯などは食事量も多くなることから10、食費は他の支出よりも増えやすい傾向にあると考えられる。
くわえて、教育費の割合が異なり、こちらの方が食費の違いよりも大きい。具体的には、夫婦のみの世帯は0%、夫婦と未婚の子1人世帯では7.8%、夫婦と未婚の子2人世帯では11.3%となっている。食費の差は夫婦のみの世帯と未婚の子2人がいる世帯で約3%ポイントであり、教育費の方が違いに影響を与えていることが分かる。また、2024年を2019年との比較でみると、子育て世帯の方が食料品支出シェアの増加幅が大きいことが分かる。教育費については、いずれの世帯もあまり変わっていない(第2-1-6図(3))。

(引退後の世帯の方が食料支出の割合は高いが、足元で差が縮小)
最後に、勤労者世帯と無職世帯で比較してみよう(第2-1-7図)。2人以上勤労者世帯、2人以上無職世帯、単身無職世帯で消費構成を比較すると、食料支出については、2019年、2024年共に、2人以上無職世帯、単身無職世帯、2人以上勤労者世帯の順に割合が高くなっている。2人以上無職世帯の方が単身無職世帯よりも食料支出割合が高くなるのは、単身世帯ほど住居費や光熱・水道費のような固定費負担が相対的に重くなる(規模の経済が働かない)ためと考えられる。
また、2人以上勤労者世帯の場合は、2024年も変わらず食費の割合は最も低いものの、2019年から2024年にかけての上昇幅で見ると、上記3類型の中で最も大きい。近年の食料品を中心とする物価上昇によって、エンゲル係数が上昇したことがうかがえる。
無職世帯は、単身世帯を含め多くが引退後の年金受給世代であると考えられることから11、両者の違いを現役世代と引退世代の消費構造の違いと捉えれば、引退後の世帯は、もともと食費の支出割合が高くなる傾向がある中で、食料品価格の上昇の影響を更に受けていたことになる。ただし、食費の支出割合、すなわちエンゲル係数の上昇幅(%ポイント)は無職世帯よりも勤労者世帯の方が大幅である。これは、この間の賃金上昇もあって、勤労・現役世帯の方が消費総額が増加する中で食費以外の消費支出の伸びを相対的に抑制しやすかった一方、賃金上昇の恩恵を受けにくい無職・引退世代については、消費における固定費的要素も大きく、食費以外の支出を節約しにくかったこと、もしくは、現役世帯は、もともとの食費の割合は相対的に小さいものの、足元食料品価格が上昇する中で、引退後の世帯と比べて相対的に食費を節約する行動をとる時間的余裕がなく、結果的に食料品価格上昇の影響を大きく受けた可能性が考えられる。

(相対的に所得が低い世帯や高齢者世帯、子育て世帯を中心に食料のウェイトが高い)
まとめると、2019年、2024年共に、相対的に所得が低い世帯や、高齢者世帯、子育て世帯においては、消費支出に占める「食料」のウェイトが高い傾向にある。また、2019年から2024年にかけて、食料品価格の上昇によって、「食料」が占めるウェイトは全ての世帯で増加したが、特に所得別にみると、所得が低い世帯ほど、ウェイトの増加幅も大きい傾向にあった。また、子どもがいる世帯は子どもがいない世帯に比べてウェイトの増加幅が大きかった。
「食料」は、価格がどんなに上がっても最低限必要な消費量があるなど、基本的に価格弾力性の低い財であることから、価格上昇局面でも消費量があまり減らず、また基本的には世帯人数に応じて必要消費量も増えることから、結果として価格上昇局面において消費に占めるウェイトが高くなりやすい。その分は、消費に回せる金額が一定であるとすれば、そのほかの特に価格弾力性が高い財を減らすことで対応する、すなわち「節約」して対応することになる。第1章でも論じた通り、予想物価上昇率と消費者マインドの間には、特に足元で負の相関がみられるが、こうした「節約」行動が消費者マインドを低下させる要因のひとつになっていると思われる12。
コラム2-1 家計調査の「数量」でみる家計の購買行動
消費者物価指数で調査されている価格は、ある代表的な銘柄、例えば米(「うるち米A」)ならば単一銘柄米のコシヒカリの価格である。一方、実際に販売されている米は、ブレンド米やコシヒカリ以外の単一原料米等も多い。そのため、例えばコシヒカリの価格が急上昇した一方、備蓄米を含めブレンド米の価格がそれほど上がらないような場合、消費者物価指数はコシヒカリの価格高騰を受けて急上昇するが、実際に家計が購入する米の価格はそれほど変わっていないかもしれない。
ここで、家計調査では、食料品をはじめとした品目について、「購入数量」(例えば米なら「キログラム」)と「購入単価」を記録していることから、同じ米であっても、単価の安いものを買う、あるいは、販売価格の安い店で購入するといった購買行動の変化をとらえることができる。例えば、消費者物価指数で米(うるち米A)の価格が5%上昇したとすると、これは、コシヒカリの米の価格が5%上昇したことを意味する。一方で、例えば家計調査上では、今まで買っていた銘柄ではなく5%安い別の銘柄を購入する、特売日を選んで5%安く購入する、販売価格の安い店に向かう、といった行動の結果、購入数量、購入単価共に変化しない、ということもあり得る。逆に言えば、家計調査上の「購入単価」と、消費者物価指数上の「価格」の動きの違いが、消費者の購買行動の変化をとらえているとも考えられる。
そこで、米と、肉類で最も消費額が多く部位や銘柄の変更などで単価が調整可能な豚肉を例にとって、名目の消費額の変化を、物価要因、数量要因、購入品目変更要因に分けて分析してみよう。
まず、米について確認しよう(コラム2-1-1図)。2019年からの変化をみると、米の購入額は、多少の数量や米価の変動こそあれ、ほぼ横ばい程度で2023年まで推移している。一方、2024年に入ると、米価の大幅な上昇に伴い、支出額は前年比+30%台前半にまで上昇した。このうち、物価要因が28%ポイント、数量要因が6%ポイント程度押し上げ、購入品目変更要因は2%ポイント程度押し下げている。特に、購入品目変更要因については、2019年~2023年ではほとんどみられなかった要素であり、米価上昇により購買行動が変化した可能性が示唆される。
そこで、足元2025年10月までの動向を月次で確認すると、まず、米価の上昇が特に大きくなった2024年夏ごろから、物価要因が徐々に拡大を始めているが、2024年後半は、数量要因による押上げもみられる。これは、インバウンド需要の増加や米の流通不足等から米価が今後も上昇すると予想した消費者や外食・中食等の事業者が、米が入手できるときに多めに購入するようになった可能性が考えられる。一方、購入品目変更要因については、2つの山がみられる。1つは、2024年末から2025年頭頃であり、もう1つは2025年6月以降である。1つ目の山については、米価が上昇する中で、ブレンド米等の単価の安い米13を買うようになった層や、インターネット通販等で安価な米を探した層等が一定数みられたものと考えられる。2つ目の2025年6月以降の山については、随意契約による政府備蓄米の販売が始まったのがちょうど同年6月上旬であり、消費者が、より購入しやすい価格の政府備蓄米を購入するようになったことを反映していると思われる。

それでは、この備蓄米の購入行動はどういった層で特にみられるのだろうか(コラム2-1-2図)。この点を確認するため、年齢階層別にコメの購入価格を同じ3つの要素に分解すると、2025年6月以降、全体的に購入品目変更要因による押下げが大きくなっているが、特に年齢の高い層でその傾向が強くみられる。また、2024年末~2025年頭は、高齢層に加えて29歳以下の層で購入品目変更要因による押下げが大きくなっている。先述の通り、インターネットや全国チェーンのドラッグストア等、若年層の行動範囲と親和性のある、より安価に米を売っている場所を探すという行動がとられた可能性がある。一方、30~40代の子育ての中心世代では、2025年6月以降の備蓄米販売時期以前ではほとんど購入品目変更要因寄与がみられず、2024年後半~2025年前半の米価上昇の影響を大きく受けていた可能性が示唆される。

一方、代表的な肉類として豚肉の動向を確認すると(コラム2-1-3図)、2019年以降、物価が押上げに、数量が押下げに寄与14する傾向が一貫して続いているが、購入品目変更要因についても、期間を通じて一定の押し下げ寄与がみられることが分かる。また、購入金額の増加率に対する寄与度という観点でも、例えば2024年は購入金額が+1%程度のところ、物価寄与が+5%ポイント程度であるのに対し、数量寄与がマイナス1%ポイント程度、購入品目変更要因についてはマイナス3%ポイント程度となっており、購入品目変更要因が購入金額全体の変化率に与える影響が相対的に大きいことが分かる。
言い換えれば、豚肉の物価上昇に対しては、少なくとも足元までは、部位や銘柄を変更して単価の低い肉を購入するなどの行動変化により、影響を一定程度和らげることができていた。これに対し、米の購入についてはそうした行動変化の選択肢が乏しく、米価上昇の影響を家計がより大きく受ける結果となっていた、という違いがあったと考えられる。

2 購買行動の違いと物価上昇
本小節では、購買行動の違いによって家計が直面する物価上昇は異なること、直面する物価上昇の違いが消費に与える影響等について分析する。
(消費者物価上昇率の計算に用いるウェイトは平均的家計の消費バスケット)
冒頭に述べたように、物価動向の代表的系列として参照される「消費者物価指数」は、各財の価格動向を、一定のウェイトを用いて加重平均したものである。当然、加重平均で用いるウェイトが変われば、加重平均された系列も変わってくると想定される。それでは、どのようなウェイトを用いるのが妥当なのか。「消費者物価指数」は、「世帯の消費生活に及ぼす物価の変動を測定する」ことを目的に、家計の消費支出を対象として、現行の2020年基準では、「家計調査」における2019年と2020年の1か月当たり・1世帯当たりの品目別支出金額(2人以上世帯)をベース15に算出している。言い換えれば、ある平均的な家計がある年と同じ消費構造(数量、比率)を継続する場合に、昨年と比較してどのくらい多くの金額を支払う必要があるか、というのが、物価指数、物価上昇率の考え方であると言える。
しかしながら、注意すべき点は、そのウェイトはあくまで「2人以上世帯」の「平均的」な家計の消費バスケットである点である。前小節で見たように、同じ2人以上世帯であっても、世帯主の年齢次第では食料品のウェイトが大きく異なったり、2人以上勤労者世帯であっても、所得階層次第で食料品のウェイトが大きく異なったりする。その場合、維持されるべき「消費構造」が異なるのだから、物価指数も異なるはずである16。
もう一つ重要な視点として、直面している物価上昇の違いが、物価上昇に対する認識の違いにも影響を与え、その結果、予想物価上昇率の違いを生みうるという点がある。すなわち、適応的期待形成の下では、過去の経験をもとに将来の予想が形成されるが、この際、過去の経験が異なれば17、将来の予想も当然変わってくると考えられている。この「過去の経験」は、時間軸の違いだけでなく、同時点であっても、購買行動の違いにより異なった経験となり得る。例えば、食料品の価格だけが急上昇した場合、食費の割合が高い家計は、低い家計と比べて、物価上昇率が高まったと感じる度合いが強くなると考えるのは自然である。
総務省が公表している作成方法に基づいて、家計調査の消費額をウェイトにとり、消費者物価指数の品目別の値を加重平均すると、公表されている消費者物価指数がほぼ再現される18(付図2-2)。そこで、ウェイトとして用いる消費バスケットのパターンを、各世帯類型の消費パターンに変更して計算することで、世帯類型が直面する消費者物価上昇率を計算・比較することができるはずである。総務省「消費者物価指数年報」においては、2人以上世帯の年齢別と所得階層別の消費者物価指数(上昇率)は公表されている。もっとも、世帯属性間の差が何によってもたらされているかについては、内訳を別途、観察し、分析することが必要である。また、「消費者物価指数年報」の数値は、ウェイトを2020年の数値で固定したいわゆる「固定基準」である。物価が上昇し、特に相対価格が変化する局面では、一般的には、より価格が上昇した財の消費量を減らす(その財のウェイトが低下する)ことから、ある年で固定したウェイトを用いた物価指数(ラスパイレス指数)には、一般に上方バイアスがかかることが知られている。この点を和らげるため、本小節では、消費者物価指数の作成方法に倣って、様々な世帯属性の消費者物価指数を、ウェイトを毎年アップデートしたうえで試算し、その違いが何によってもたらされているかを分析していく19。
(現役世代よりも年金生活世代の方が物価上昇の影響を大きく受ける)
まず、先述の通り、消費者物価指数におけるウェイトは「二人以上世帯」であったことから、それを「二人以上勤労者世帯」と「二人以上無職世帯」に分ける。おおむね、前者は現役世帯、後者は引退後の、年金を受給して生活している世帯に対応する20。両者を比較してみると(第2-1-8図(1))、基本的に、「二人以上勤労者世帯」よりも「二人以上無職世帯」の方が直面物価上昇率が高いことが分かる。ただし、2023年前後は一時的に差が縮小している。結果的に、2020年からの5年程度で、両世帯の直面する物価上昇率は3%程度の差が出ている。さらに、差が生じたのは主に2022年と2025年であることもわかり、この2年は、両者の上昇率の差が1%ポイント程度となっている。言い換えれば、同じ額の所得を得ていたとしても、実質所得には1%の差がついていることになる。
それでは、何が原因で差が生じており、何が原因で差が縮小しているのか。この点を確認するために、各属性について直面物価上昇率の寄与度を計算し、平均(ここでは「二人以上世帯」)の物価上昇率における寄与度との差を計算したものが第2-1-8図(2)である。結果をみると、まず、「二人以上勤労者世帯」では「食料」の寄与度が下方に出ている、すなわち、平均よりも直面物価上昇率を押し下げる方向に働いているのに対し、「二人以上無職世帯」では寄与度が上方に出ている、すなわち、平均よりも直面物価上昇率を押し上げる方向に働いていることが分かる。この背景としては、前掲第2-1-7図で見たように、勤労者世帯よりも無職世帯の方が消費に占める食料の割合が高いことがあると考えられる。一方、2023年前後に両属性で直面物価上昇率の差が縮小した背景としては、光熱・水道費がある。光熱・水道費については、こちらも無職世帯の方が消費に占める割合が高くなっているが、この時期は、2023年2月以降に導入された電気料金補助制度が始まったタイミングとおおむね一致しており、当該時期は光熱・水道費が前年比マイナスになっている。そのため、光熱・水道費の割合の高い無職世帯の直面物価上昇率の方が大きく押し下げられる(シェアの高いものがより大きくマイナスに寄与する)ことになったと考えられる。
さらに、2025年に入ると、「教育」が寄与度分解に現れてくることも特徴的である。子育て世帯の多くは勤労者世帯であると考えられることから、2025年4月の高校の実質無償化の影響21は、勤労者世帯に多く影響したものと考えられる。寄与度ベースでは、勤労者世帯の直面物価上昇率を平均世帯比で0.1%ポイント程度押し下げる一方、無職世帯の直面物価上昇率を平均世帯比で0.2~0.3%ポイント程度押し上げており、合わせて0.3~0.4%ポイント程度の差の原因となっていたと考えられる。
総合すると、同じ二人以上世帯であっても、勤労者世帯、言い換えれば現役世帯と、無職世帯、言い換えれば老後の世帯では、実際に直面している物価上昇率が異なっていたと考えられる。特に、老後の世帯では食料や光熱・水道費といった、生活必需品が消費に占めるシェアが高い。こういった財・サービスの価格上昇率が高い時期には、老後の世帯の方が、直面物価上昇率が高くなっていた。また、こういった財は価格弾力性が低い、すなわち、価格が多少上がっても、基本的な生活のために必要な財が多くを占めていることから、消費量を大きく減らすことができず、より物価上昇の影響が強くなっている可能性も考えられよう。さらに、高校無償化といった短期的には特定の世代に受益が集中する価格引下げは、マクロで見た物価上昇率では把握できない、家計ごとに異なる直面物価上昇率を生む点にも留意する必要がある。

(低所得層ほど直面物価上昇率が高い)
次に、所得階層別に直面物価上昇率を比較したものが第2-1-9図(1)である。これをみると、全体的に所得階層が低い層ほど直面物価上昇率が高い傾向にあることが分かる。特に、第1分位と第2分位は高く、第3~第5分位の間の差はあまりみられない。こちらも、2021年からの5年間で、直面物価上昇率が最も高い第1分位と最も低い第5分位の間で、3%程度の差が生じていることが分かる。
また、同様に要因について確認すると(第2-1-9図(2))、第3・第4分位は平均とほぼ同じような動きをしているのに対し、第1・第2分位は、無職世帯と同様に、食料品価格の上昇の影響を大きく受けていることが分かる。2023年1月22から光熱費の補助が始まり、その恩恵を受けている点も同様である。一方、第5分位については、食料品価格上昇の影響を相対的に受けていない、という点では、勤労者世帯と無職世帯の比較で言えば、勤労者世帯に近い特性を持っていると言える。一方、「教育」については、特に第5分位の世帯が高等学校等就学支援金の所得制限の一部が事実上撤廃された恩恵を受けている(低下幅が大きくなる)点も特徴的である。具体的には、第5分位の世帯の「教育」は2025年4月以降0.2%ポイント程度押下げに寄与しているのに対し、第1・第2分位では0.2%ポイント程度の押上げに寄与しており、トータルでは0.4%ポイント程度の差を生んでいる。この背景には、前小節で見た通り、高所得世帯ほど、教育にかける金額が高くなる傾向にあることがあると考えられる。

(高年齢層ほど直面物価上昇率が高い)
次に、年齢別に直面物価上昇率が異なるかを見てみよう。第2-1-10図(1)は、20代から60代までの10歳刻みで、直面物価上昇率の水準がどのように異なるかを比較したものである。結果をみると、大きく分けて、20代、30~50代、60代以上、の3つのグループに分けることができる。20代は、基本的に全ての期間で直面物価上昇率が相対的に低い。60代~70代、特に70代は相対的に高く、30~50代はその中間であり、同グループ内ではほとんど差がみられない。20代と70代では、4%ポイント程度の差が生じている。
先に見た通り、年齢階層別では、高齢層ほど家計消費に占める食料品の比率が高かった。そのため、食料品価格が上昇する局面においては、高齢層ほど直面物価上昇率が高くなる傾向にあると言える。実際、どのような財の物価上昇率が直面物価上昇率の差に影響しているかを確認すると(第2-1-10図(2))、特に60代以上では、食料の寄与が平均家計以上となっており、食料品の価格上昇が直面物価上昇率を押し上げていることが分かる。一方、40代、50代では、足元の直面物価上昇率が他の世代と比べてやや低くなっているが、これは教育費の押下げによるものである23。それ以外の世代では、消費に占める教育費の割合が相対的に低いことから、直面物価上昇率を相対的に押し上げる効果が働いていることが分かる。

(教育費支援によって子どもがいる世帯の直面物価上昇率は低下)
次に、子どもがいる世帯といない世帯で比較したものが第2-1-11図である。これをみると、二人以上勤労者世帯について、夫婦のみの世帯、子ども1人世帯、子ども2人世帯、いずれも2024年まではほぼ同程度で推移している。実際、2024年までの差は1%未満となり、他の類型における差と比べると、小さくなっている。一方、2025年については、夫婦のみの世帯と、子どもがいる世帯の間の直面物価上昇率にやや乖離が出ていることも分かる。この原因について、前年比の寄与度の差分を同様にとると、「食料」については、先述の通りもともと消費に占めるシェアにそれほど差がないこともあって、大きな違いにはなっていないことが分かる24。一方で、ここまで見てきた通り、教育無償化の影響もあり、「教育」による寄与度の違いが生まれている。特に、子どもが高校や大学で教育を受ける年齢になっている40~50代の世帯に加え、比較的所得が高く、教育費を多くかけている世帯もその恩恵を受け、直面物価上昇率が低くなっていることが分かる。

コラム2-2 所得格差と必需品価格上昇のミクロモデル
ここまで、2020年代に入ってからの物価上昇が、消費構造が異なる様々な属性の家計にどのような影響を与えてきたかを考察してきた。分析によると、所得が相対的に低い家計や子育て中の家計の負担が相対的に重いこと、所得の低い家計が、食料やエネルギー(電気・ガス)の価格上昇に強く影響を受けていることが確認された。
このコラムでは、やや見方を変えて、物価上昇が異質な家計に異なる負担を与える様子を、ミクロ経済学的な消費者モデルを用いて理論的に描写することを考える(モデルの数学的な詳細は付注2-1参照)。消費者が所得(予算)の範囲内で2つの財を消費するモデルを考え、片方の財は必需財で、必ず一定量を消費しなければならないという制約を組み込む25。この必需財は、ここでは食料品を想定しており、どのような状況下でも一定量の食事をしなければならないという意味で、このモデルと整合的である。このモデルを用いて、「物価上昇によって効用(モデルにおける生活水準や満足度に相当)が減少しないようにするためには、所得がどれだけ上昇する必要があるか」を以下の3つのケースについてシミュレーションしたものがコラム2-2図(1)である。
① すべての財価格が5%上昇するケース
② 必需品でない財の価格が10%上昇するケース
③ 必需品の価格が10%上昇するケース
これをみると、①のケースでは、負担は家計所得によらず均一である。必需財価格が横ばいの②のケースでは、所得の低い層の負担は相対的に軽くなる。一方、必需品の値上がりが大きい③のケースでは、逆に所得の低い層の負担が相対的に重くなっている。

こうした効果は、消費に占める必需財の割合が所得によって異なることに起因すると考えられる。特に、③のケースで所得の低い消費者の負担が大きくなるのは、消費に占める必需財の割合が高く、物価上昇が起きてもその財の消費を減らしにくいことに起因していると考えられる。実際、他の条件をそのままに必需品を消費しなければならないという仮定をモデルから外すと、必要な所得増加幅は所得水準によらず一定となる(同(2)図)。本論で見たように、我が国における今般の物価上昇は、食料品を中心としたものであったことから、このモデルで示されたような、「必ず一定量を消費しないといけない財が存在し、その財の価格が上昇する」③のケースに近い状況が起きていると考えられる。
なお、ここでは実際の経済状況を踏まえ、食料品価格の上昇を念頭において議論したが、様々な物価上昇の状況に拡張することが可能であろう。例えば、輸入エネルギー価格の高騰が低所得者に重い負担をもたらすことをマクロモデルを用いて示した論文もある26。今般の物価上昇では、エネルギーについては、政策効果もあり少なくとも実際の物価上昇率という形ではそこまで大きく現れていないが、逆に、政策が低所得者の厚生を改善することに貢献したとも言える。また、物価高対策等の政策手当てをする上で、必需財など低所得者の消費割合が高い財を重点的に支援することは、厚生改善の面からも効果的であることも示唆される。
(直面物価上昇率の違いを加味した実質所得の伸びは、足元で世帯類型間の差が拡大)
この観点から、実質所得の伸びについても評価を試みる。すなわち、実質所得上昇率は、名目所得上昇率から物価上昇率を引いたものであり、「購買力」の変化を示すものでもある。なぜ物価上昇率を差し引くと購買力の変化になるかと言えば、物価上昇率とは、同じ財を購入するために必要な金額の変化でもあるからである。しかし、これまで見てきた通り、世帯類型ごとに消費の構造は異なっており、直面する物価上昇率も同じ理由で異なる。そのため、実質所得の動向を評価する上では、各世帯の直面する物価上昇率を使って評価することで、より正確な評価が可能になると考えられる。
そこで、「家計調査」における実収入と可処分所得について、年齢階層別と所得階層別に、まず名目所得(実収入)の伸び率と、各世帯が直面している物価上昇率を用いて実質化した実質所得の伸び率を比較すると(第2-1-12図)、2021年から2024年の3年間で、名目所得はいずれの世帯類型でも増加している一方、高齢世帯ほど、また低所得者世帯ほど直面物価上昇率が高いことから、実質所得の増加率にも違いが生じていることが分かる。一般に実質所得を評価するときは平均の消費者物価を用いることから、それで評価した場合との差分を確認すると、例えば20代では、平均の物価上昇率で評価した場合には実質所得がマイナスだが、直面物価上昇率を用いた場合は実質所得がプラスになっている。先述の通り、直面物価上昇率は実際に購入しているものの価格変化を見たものであるため、実感としては、実質所得がプラスになっている(従来通りのバスケットの消費を続けるために必要な金額の増え方よりも、所得の増え方の方が大きい)ものと考えられる。一方で、高齢層では、例えば60代では直面物価で評価した場合と平均物価で評価した場合で実質所得が1%程度異なる(直面物価で評価した場合の方がマイナス幅が大きい)など、購買力の低下がより大きくなっている。
所得階層別にも同様に分析することができるが、こちらは年齢階層ほどの差は生じていない。ただ、第1所得分位は直面物価で評価すると0.3%ポイントほど実質所得のマイナス幅が拡大する一方、第5所得分位は同様に評価すると0.3%ポイントほど実質所得のマイナス幅が縮小しており、実質所得で見た差が生じていることは見て取れる。

(直面物価上昇率が高い家計ほど、実感物価上昇率、予想物価上昇率共に高い傾向)
最後に、こうした直面物価上昇率が実感物価上昇率や予想物価上昇率に与える影響について確認しよう。内閣府(2025)では、独自のアンケート調査を用いて、実感物価上昇率と予想物価上昇率の間に高い相関があること、高齢の家計ほど適応的期待形成(足元の物価動向に予想物価上昇率が影響されること)の性質が強く、かつ予想物価上昇率も高い傾向にあること等を示した。ここでは、同じアンケートを別の切り口から集計することで、今回の分析結果と合わせて解釈したい。
まず、直面物価上昇率と実感物価上昇率の関係を見るため、所得階層別の実感物価上昇(2025年3月時点)を確認する(第2-1-13図)。先述の通り、所得階層別にみると、食品が消費に占めるシェアの違い等を主因に、所得階層の低い家計ほど、直面物価上昇率が高い傾向にあった。実感物価上昇率についてみると、所得階層の低い家計ほど、実感物価上昇率が20%以上と答える人が多いことが分かる。あわせてみれば、全体として、所得階層の低い家計ほど直面物価上昇率が高く、また実感物価上昇率が高いことが分かる。

次に、同様に所得階層ではなく、年齢で実感物価の比較をとると(第2-1-14図)、年齢が上がるほど、体感物価上昇率も上昇する傾向がみられる。例えば、20代で「20%以上」の物価上昇を体感しているのは10%強であるが、60代になると40%弱になる。先に見た通り、直面物価上昇率は、60~70代が最も高く、30代~50代がその次、20代が最も低い傾向があったが、その関係は実感物価上昇率とも整合的である。これだけで、これらの間に厳密な因果関係が成立しているとは言えないものの、少なくとも相応の相関関係があるとは言えるだろう。

(食料や光熱費等の高頻度で購入する財と予想物価上昇率の連動が高い)
直面物価上昇率とはやや視点が異なるが、予想物価上昇率と足元の消費者物価上昇率(総合)の水準の乖離も、直面物価上昇率の概念を用いて説明がつく可能性がある。予想物価上昇率は、消費動向調査に基づいて計算すると、足元では6%程度となっている。足元の物価上昇率が高まっているとはいえ、消費者物価(総合)の前年比は3%前後となっており、最も高かった時でも4%程度であるから、5%以上の物価上昇を予想し続けることは、「過去の経験に影響されて予想を立てる」という適応的期待形成の観点からも説明が難しい。
この点について、いくつかの先行研究は、特に食料や光熱費(電気代、ガソリン代等)が実感物価上昇率に大きく影響することを指摘している27。そこで、食料と水道・光熱費の上昇率を、両者の消費額の比率で加重平均した系列(以降「直面物価上昇率(食料・水道・光熱費のみ)」という。)と、消費動向調査から計算した予想物価上昇率を比較すると(第2-1-15図)、2021年以降、直面物価上昇率(食料・水道・光熱費)が消費者物価上昇率(総合)を上回り始める中で、予想物価上昇率も同時に上昇を始めていることが分かる。予想物価上昇率は2022年頃に6%に到達するが、直面物価上昇率(食料・水道・光熱費のみ)も2022年以降、最大で9%前後にまで到達しており、近い水準感となっていることが分かる。実際、消費動向調査の予想物価上昇率は「あなたの世帯で日ごろよく購入する品物の価格について、1年後どの程度になると思いますか。」という質問文になっている。何を「日ごろよく購入する品物」と判断するかは家計によって当然異なるが、例えば、高校授業料や自動車、家電よりは、食料品や光熱費の方が「日ごろよく購入する品物28」であると言えるだろう。そのため、設問の性質上も、こうした財の価格動向に、より影響を受けているものと推察される。

(消費者マインドや景況感の向上のためには、家計の負担感を軽減することが重要)
また、同じアンケートから景気認識(2025年3月時点)について確認すると、直面物価上昇率の低い属性(若年層、年収の高い層)ほど、景気認識について肯定的に答える人が多い傾向もある(第2-1-16図(1))。特に、所得階層別の景気認識を見ると、低所得層ほど特に景気が悪いと認識する傾向がより鮮明に出ているが、直面物価上昇率の違いもその要因の一つであると考えられる。また、同様に年齢階層別及び所得階層別に、公的統計で消費者マインド(消費動向調査の消費者態度指数)を比較すると、所得が低い世帯ほど、また年齢の高い世代ほど消費者マインドが低い傾向が見て取れる(第2-1-16図(2))。
令和7年度経済財政白書では、物価上昇が続く中で、実感物価上昇率、予想物価上昇率が共に高いほど、景気を否定的に認識する傾向があることを示しており、直面物価上昇率の高まりは、実感物価上昇率や予想物価上昇率の高まりを通じて、景況感を下押しする可能性がある。物価上昇率をマクロ指標として捉えるだけでなく、消費構造の違いにより世帯ごとに直面する物価上昇率が異なることを認識したうえで、執行段階にある新たな電気ガス料金支援も含め、総合的な物価高対策によって家計の負担を軽減していくことが、景気回復の実感を広げ、消費者マインドを向上させるためにも重要と言えるだろう。
