第2章 賃金の持続的な上昇と個人消費の力強い回復に向けて

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第1章では、33年ぶりの高水準となった春季労使交渉の賃上げや堅調な夏のボーナス、定額減税等もあって、名目のみならず実質でも総雇用者所得や家計可処分所得が増加に転じていることを示した。こうした所得環境の改善の一方で、個人消費については、持ち直しの動きは続いているものの、所得よりも伸びが緩やかなものにとどまっており、その結果として、2024年に入り、貯蓄率が上昇(平均消費性向が低下)傾向にあることも確認した。

こうした議論を踏まえ、本章では、まず第1節において、個人消費が所得の伸びほどは回復していない背景、つまり平均消費性向が低下傾向にある背景について、「家計調査」等の世帯統計をもとに、長期的な観点も交えて分析する。具体的には、2010年代前半から傾向として続いている平均消費性向の低下の一部は、この間の共働き世帯の増加という世帯構造の変化や低金利環境下で進んだ持ち家比率の上昇といった要因から説明されるが、これらを除いても平均消費性向は低下傾向で推移してきたことを示す。その上で、平均消費性向の低下の背景について、恒常所得仮説、予想物価上昇率の影響、いわゆる長生きリスク等の老後への不安の影響といった理論的な考察を行うとともに、これらに関するいくつかの事実を示し、これらが複合的に作用して、近年にかけての平均消費性向の低下傾向が生じていることを分析する。

続いて、第2節では、個人消費の安定的な回復のための鍵となる賃金上昇について、近年の改善傾向が持続的なものであるかの展望を行う。特に、コロナ禍前の2010年代後半において、近年と同様の企業の人手不足感がみられたにもかかわらず賃金上昇がほとんどみられなかった点に着目し、当時、賃金の抑制に働いた各種の要因が、現時点においては賃金上昇を制約するものとなっていないか、といった観点での分析を行う。具体的には、潜在的な労働供給の余地、雇用形態や産業・年齢といった労働者の構成変化の影響、転職等の外部労働市場の影響といった観点から実証的な分析を行う。

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