第2章 労働供給の拡大と家計所得の向上に向けた課題(第3節)

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第3節 まとめ

本章では、少子高齢化の中で労働の担い手となる人口が減少していることを踏まえて、我が国の労働供給を安定的に確保していくための課題と、労働供給の増加の果実として家計の所得向上のための課題を整理した。

まず、第1節の分析によれば、2010年代以降、就業者数の面から我が国の潜在成長率を下支えしてきた女性や高齢者の労働参加の更なる拡大の余地は残されているものの、人口減少が更に進行していく中にあってはこうした効果にも限界があり、先行きは労働投入の減少による負の影響が拡大する可能性も認識しなければならない。こうした状況を少しでも緩和するための方向性として、いくつかの可能性が示唆される。第一に、労働時間を追加する希望を持った就業者への対応であり、特に子育て世帯の女性の就業率は改善しつつあるものの、その多くは非正規雇用であり、家庭の制約もあり労働時間を思うように拡大できていないことから、出産期前後の支援だけなく、子どもの年齢が上がるごとに発生するハードルを緩和する支援が重要である。第二に、今後、更に人口に占める割合の増加が見込まれる65歳以上の高齢者についてみると、健康や親族の介護の問題がない高齢者は相応におり、就業意欲を高める制度設計に加え、企業側も高い人手不足感の中で高齢者にも大きくない負担で就労可能な機会を設けることが重要である。第三に、副業などを通じた新しい働き方は、労働供給の上積みのためには効果を発揮することから、より柔軟に実施可能な環境を整えることが重要である。

第2節では、転職による家計所得上昇の可能性を検討したほか、最低賃金引上げの賃金上昇効果や物価上昇下での制度の在り方、就業調整の課題などを各国比較も交えながら分析を行った。転職市場はコロナ禍を経て正社員を中心に活性化している中で、転職による賃金上昇を更に後押ししていくために、効果的なリ・スキリング支援を推し進めることの重要性を確認した。最低賃金については、引上げによるパート労働者等の賃金上昇効果を確認するとともに、物価上昇の下では、低所得の労働者の購買力を維持する観点からも、諸外国の事例も参考に、物価上昇に弾力的に対応できる制度の検討が必要であることを示した。また、最低賃金が上昇する中で、年収の壁に直面し就労時間を抑制する非正規雇用労働者の割合が上昇してきたことから、制度を背景とした逸失労働供給は小さくない。主要先進国と比較しても日本の短時間労働者の割合は高く、人手不足への対応と家計所得の向上に向けて、「年収の壁・支援強化パッケージ」の効果を精緻に検証しつつ、就業時間拡大のインセンティブを阻害しない、恒久的な制度を構築していく必要がある。

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