第2章 労働供給の拡大と家計所得の向上に向けた課題

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第1章でみたように、我が国経済は、緩やかな回復基調が続き、コロナ禍でGDP比最大9%超まで拡大した負のGDPギャップはおおむね解消に向かいつつある。一方、名目賃金の上昇が物価上昇に追い付いていない中で、個人消費は力強さを欠いた状態にあり、家計所得の継続的な向上が重要な局面にある。同時に、今後、人口減少が更に進行していく下で、マクロ経済の持続的な成長を実現するためには、主要先進国よりも低く、0%台にとどまる潜在成長率の引上げが重要な課題となっている。

潜在成長率を規定する要因の一つである労働供給の観点では、2010年代以降、人口減少が進む中にあっても、女性や高齢者の労働参加の高まりにより、就業者数が増加し、潜在成長率を下支えしてきた。しかしながら、少子高齢化の流れは加速しており、少子化対策が労働力人口増加という面で効果を表すとしても、それまでの間の今後20年超にわたっては、労働供給の制約が潜在成長率を押し下げる要因となり得る。こうした中、労働時間の追加を含め、人々の潜在的な就業希望を可能な限り実現しつつ、限られた人材が適材適所で活躍できる環境を整えることにより、労働供給面からの成長制約を緩和するとともに、労働者一人一人の所得の向上につなげていくことが重要である。

こうした認識の下、本章では、労働供給の拡大や家計所得向上のための論点を整理する。第1節では、最近の労働供給の動向を踏まえ、女性と高齢者に注目して労働供給の拡大余地について分析する。その際に、副業・兼業などを通した潜在的な追加就業希望の実現に向けた論点も整理する。第2節では、家計所得向上に向けて、転職を通じた賃金向上の可能性、最低賃金引上げやこれに密接に関わる就業調整への対応といった課題について考察する。

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