第3章 企業行動の変化と投資拡大に向けた課題

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第1章でみたように、2023年に入って以降、企業の業況感や収益は改善し、さらには設備投資意欲が旺盛であるなど、企業部門は総じて堅調である。一方で、こうした堅調さが、実際の設備投資や賃金の増加には必ずしも結び付いておらず、内需が力強さを欠く要因となっている。こうした姿は、近年にのみ当てはまるものではない。1990年代終盤以降の企業部門の動向を振り返ると、金融危機やリーマンショック、コロナ禍など様々な経済的な危機に見舞われながらも、企業収益を順調に増加させてきた一方で、長引くデフレも背景に設備投資や賃金を抑制してきた。そうした中、家計は所得の伸び悩みなどから消費を抑制し、その結果、需要の回復力の弱さが継続するという悪循環が続いてきた。設備投資の停滞は、経済成長を支える資本ストックの蓄積を妨げ、資本の老朽化をもたらすとともに、研究開発など無形資産による新しい価値の創造を抑制し、我が国の潜在成長率を押し下げる要因ともなってきた。

こうした認識の下、本章では、企業部門の現状と課題を整理・分析する。具体的には、過去四半世紀にわたり継続している「貯蓄超過」に象徴される企業行動の実態と背景を振り返るとともに、企業部門による新たな設備投資や賃金引上げの鍵となるマークアップ率について、長期的な推移や業種別の動向、無形資産投資との関係といった複数の国際比較も踏まえ、我が国企業における課題を分析する。

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