第3章 企業部門の動向と海外で稼ぐ力(第4節)

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第4節 まとめ

本章では、ウィズコロナへの移行と経済活動の正常化、原材料コストの上昇と円安の進展など、様々な環境が変化する下での企業動向と、そうした中で浮かび上がる今後の成長に向けた課題についてみてきた。

第1節では、我が国企業の動向として、コロナ禍と世界的な物価上昇、供給制約等の影響を受けながらも、海外需要の取り込みや国内経済の回復等を背景に、企業収益は過去最高となり、設備投資も名目ベースでは過去最高となるなど力強さがみられ始めたことを確認した。企業の投資マインドの高まりとともに、コロナ禍で長らく抑えられてきた民間投資が力強さをみせ始めている現状は、10年以上にわたり慎重な姿勢が続いてきた企業の投資姿勢を変える好機でもある。原材料コストの上昇が企業収益の押下げ要因となり、また、世界経済の減速懸念が高まっているなど、企業を取り巻く環境は楽観視できるものではないが、官の投資を呼び水として成長分野における企業の予見可能性と期待成長率を高めること等により、更なる投資を引き出していくことが重要である。

第2節では、我が国対外経済構造をみる中で、リーマンショック頃を境に経常収支の黒字の主因が貿易収支から所得収支へと変化したことを確認した。過去20年において我が国の貿易は輸出輸入両建てで増加し、2010年以降は収支がおおむね均衡する状況となっているが、必須輸入品である鉱物性燃料等の輸入超過を製造業部門の輸出超過で賄う構造は変わっていない。こうした中で、輸出面では高付加価値化の進展により、輸入面では資源輸入国であることにより、輸出入金額はともに専ら価格要因によって変動している。すなわち、貿易収支は鉱物性燃料の価格変化によって大きな影響を受ける構造となっており、安定化には化石燃料に過度に依存しないエネルギー構造への転換が重要であるといえよう。

経常収支黒字の主因となっている第一次所得収支は、企業の海外進出の進展に伴う直接投資収益の拡大によって黒字幅を拡大させており、直接投資の収益率は投資先国の経済成長等を背景に高く、対外純資産の収益率を支えている。今後、少子高齢化等を背景に我が国の貯蓄投資バランスが赤字化していく可能性があることも踏まえれば、我が国が経済的な豊かさを維持するためには、対外純資産の収益性の一層の向上が重要である。また、企業は対外直接投資を増加させる中で、国内のみならず海外から持続的に収益を得る構造へと転換しており、海外で稼ぐ力は10年間で着実に高まってきた。一方で、こうした海外で収益を得る力は大中堅企業に偏在していることや、これまで海外投資に比して国内投資が低く抑えられてきたこと等を踏まえれば、海外の収益をいかに国内の成長力強化につなげていくかという点が課題であるといえよう。

第3節では、円安の進展もあって輸出拡大の機運が高まる中、今後の伸びしろが大きい分野の現状と課題についてみた。中でも、中小企業の輸出で稼ぐ力は、直接投資による海外での売上や収益と同様、大中堅企業に比べて限定的であり、過去10年間で輸出額及び輸出割合も増加していないなど、現状では課題が大きい。輸出企業は非輸出企業に比べて売上高や経常利益、付加価値生産性、研究開発実施率が高く、輸出を通じた海外企業との厳しい競争の下で自社の稼ぐ力を高めている様子がうかがえる。優れた製品を作り出しながらも生産性や収益力に劣る中小企業にとって、輸出は稼ぐ力を高めるための有力な方法の一つであると考えられる。一方で、中小企業は輸出に際してマーケティングや人材面で課題を抱えており、また、大中堅企業に比べて取引先の繋がり等のネットワーク等が乏しいことから海外事業所の重要性が相対的に高いなど、輸出へのハードルが高い状況にある。中小企業の輸出拡大に向けては、金融機関を含めた認定支援機関等の多様な主体による伴走支援や、近年中小企業で利用の機運が高まっている越境ECの活用拡大等が重要である。

コロナ禍を乗り越え、我が国経済を民需主導の持続的な成長軌道に乗せていくためには、長年にわたり低く抑えられてきた国内投資の拡大、所得・輸出両面からの海外で稼ぐ力の強化など、本章でみてきた課題に取り組むことを通じて、我が国企業の成長力を引き上げていくことが重要である。

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