第1章 世界経済の不確実性の高まりと日本経済の動向(第4節)

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第4節 まとめ

本章では、第1節でコロナ禍での抑制された経済社会活動からウィズコロナ下における我が国経済の回復の特徴、世界的な物価上昇の背景や足下の為替変動の背景とその影響についてみた後、第2節では足下の物価上昇の家計・企業への影響と物価の基調的な動向について、最後に第3節では世界経済の見通しを踏まえた我が国の短期的なリスク、中長期的な課題についてみてきた。

我が国経済はコロナ禍以降、財消費や財輸出を中心として持ち直してきたが、2022年以降はウィズコロナの下、消費や投資を中心に民需が徐々に持ち直している。しかし、サービス部門については、諸外国と比較すると依然として回復が遅れている。今後、全国旅行支援やインバウンドの再開もあり、サービス部門が引き続き我が国経済を下支えしていくことが期待される。こうした中で目下の課題は物価上昇への対応である。諸外国が金融引締めと物価対策を講じる中で、我が国も累次の支援策を実施しながら、2022年10月には総合経済対策をとりまとめた。今後、当該経済対策及び2022年度第2次補正予算を着実に執行することが重要となる。

第2節では、国際商品価格の急騰等に端を発した輸入物価の上昇が企業部門、家計部門でどのように波及していったかをみた。企業部門における価格転嫁は少しずつ進んではいるが、アメリカと比べると依然としてそのパススルーは弱いこと、輸入物価の上昇は9か月から12か月程度のラグを伴って消費者物価へ波及する可能性があること、家計部門では低所得世帯として特にひとり親世帯や相対的に小規模の企業で働いている者の世帯などが影響を受けていることがわかった。過去の物価上昇局面と比較すると、今回は依然として上昇が続いている中で、既に上昇率でも広がりの面でも2008年の物価上昇局面を上回っており、第二次石油危機に近づいている。そうした中で、2008年の物価上昇局面と比べると、依然として十分ではないものの、企業の価格転嫁は進んでいる一方、家計は当時よりも安価品へのシフトや消費の抑制等の生活防衛的な行動をとっていることがわかった。また、マクロ統計を基にした推計結果やスーパーのPOSデータに基づく分析によると、今回の物価上昇は輸入物価の上昇がもたらしたコストプッシュ型であり、国内需給や賃金による上昇圧力は依然として弱い。ただし、長く続いたデフレにより生じた価格粘着性は弱まっている兆しもあり、今後、安定的な賃金上昇が実現すれば内生的な物価上昇へと変化していく可能性がある。こうした価格転嫁に係る環境変化を政策的に後押しするため、企業間取引に関し、下請取引の適正化に向けた実態調査や企業への啓発活動が引き続き重要1であり、これにより企業が付加価値を維持することで投資・賃上げを継続できる環境を整えていくことが重要である。

第3節では、世界経済の先行きに不透明感が高まる中、輸出の減速が設備投資の減少を招く可能性を指摘している。設備投資が我が国の回復を支えてきた情報関連財や資本財関連の業種で抑制された場合、これらの業種の競争力を損ねるリスクがあり、経済対策等を通じ、こうした分野の投資を喚起していくことが重要となる。また、潜在成長率が諸外国と比べても低い伸びとなっているが、投資の伸び悩みによる一人当たり資本装備率の低迷を是正する必要がある。また、生産性の向上に向けては人的資本投資や研究開発投資、競争性の低い規制の改革等も求められる。内需の伸長に加え、海外需要の取り込みを進めることも、成長分野での投資促進には不可欠である。中長期的には生産年齢人口の減少に歯止めをかけることが必要であり、将来を見据えた少子化対策の強化が不可欠である。


1 下請取引の適正化に関しては、2021年12月に中小企業等が労務費や原材料費等の上昇分を適切に転嫁できるようにし、賃上げ環境を整備するため「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が取りまとめられた。これに基づき行われた事業者団体の自主点検結果(2022年12月公表)によれば、業種によって価格転嫁が実現できていると回答した企業の比率が異なるなど、改善余地がみられる分野の存在が示唆されている。
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