第3章 成長と分配の好循環実現に向けた家計部門の課題(第4節)

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第4節 まとめ

本章では、多様な働き方が広がる中で、セーフティネットや処遇の格差、転職を含む社会全体での人材活用の在り方、所得・資産等の格差の動向といった成長と分配の好循環に向けた家計部門の課題について、やや長期的な観点から考察を行った。

生産年齢人口が減少する中で女性や高齢者の労働参加が進み、男女ともに医療・福祉や情報通信業を中心に感染拡大後も正規雇用者は増加してきた。一方、感染症による影響は非正規雇用者に集中した。同一労働同一賃金の取組もあって、正規雇用者・非正規雇用者間の賃金水準差は縮小傾向にあるものの、女性を中心に正規雇用者との待遇差への不満が残っており、賃金水準も含めて様々な観点から処遇格差の是正を進めていくことが求められる。感染症下では、従来の支援策だけでは十分に対応できず、多様な働き方の広がりに対応したセーフティネットが十分に整備されていないことも明らかとなった。感染症下での経験を踏まえ、多様な働き方に対応したセーフティネットやそのための財源確保が求められる。

人手不足に直面する企業は正社員の採用・登用等により人材確保を進めており、定年延長や継続雇用の取組の効果も一部の業種で表れている。また、同一企業内での人材活用に加え、30歳代の男性や50歳代の女性、男性高齢層を中心に、転職を通じた人材活用も進んでいる。人手不足感が高止まりする医療・福祉では、非正規雇用者の正規化や感染症の影響を受けた業種の非正規雇用を正規雇用として活用する動きがみられる。こうした人材活用や労働移動を後押しするには、学びの機会の提供が必要となる。自発的に学び行動を行った者の年収はそうでない者と比べて高く、キャリア展望も開けている傾向にある。研修制度を整備することに加え、業務等に応じた目標設定とその目標の実現に向けた自発的な学習を促していくことが求められる。

多様な働き方が進む中で、労働所得の格差は全体としては緩やかな低下傾向にあるものの、25~34歳では男性の非正規雇用比率の高まり等を背景に、ジニ係数でみた所得格差は拡大傾向にある。25~34歳の世帯所得の分布の変化をみると、単身世帯の割合が大きく高まるとともに、低所得世帯では結婚や子どもを持つという選択を行うことが難しくなっている。子どもの貧困率は小幅低下しているものの、母子世帯の所得は引き続き低水準にあり、生活が苦しいと感じる世帯の割合は約9割に達している。

2014年と2019年を比べると、高額資産保有層ほど有価証券の保有割合が大きいことなどから、利子・配当金収入は高所得者層に偏っており、資産所得の格差は拡大傾向にある。感染拡大下でオンライン環境や家庭環境に起因する教育面の格差が顕在化した。感染症下での経験を踏まえ、教育格差の縮小に向けた取組の充実が求められる。地方圏での成長を第二次産業がけん引したことを背景に、地域間の所得格差は縮小傾向にある。地方移住に当たり、仕事や収入面での懸念が最も大きいことから、地方に付加価値の高い産業を呼び込み、雇用機会を確保する取組は地方への人の流れを作り出すに当たって、引き続き重要と考えられる。

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