第1章 感染症と経済活動の両立に向かう日本経済(第5節)

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第5節 まとめ

本章では、2021年の我が国経済の動きを概観した上で、家計部門、企業部門での特徴的な動きについて確認した。この1年間の我が国経済は、緊急事態宣言等が断続的に発出されたことで、個人消費が一進一退の動きとなったことに加えて、2020年秋頃に顕在化した半導体不足や2021年夏の東南アジアでの感染拡大に伴う部品供給不足などの供給制約が足かせとなり、内需と所得・雇用の好循環が抑制され、景気回復は緩やかなものとなった。一方で、緊急事態宣言が緩和された10月以降は、経済社会活動の水準が段階的に引上げられる中で、個人消費が上向くなど、持ち直しの動きがみられている。ただし、2022年初以降のオミクロン株をはじめとする感染拡大等が、個人消費等を下押しするリスクに注意する必要がある。医療提供体制の強化やワクチン接種の促進、検査、飲める治療薬の普及により予防、発見から早期治療までの流れを強化し、「ウィズコロナ」下で経済社会活動を継続できる環境作りに取り組むことで、経済を民需主導の自律的な成長軌道に乗せていくことが重要である。

家計部門は感染症の影響に加えて、半導体不足や東南アジアからの部品供給不足に伴う自動車の生産調整の影響により、2021年9月まで個人消費が低水準で推移した。しかし、自動車の生産調整が徐々に解消に向かうとともに、10月以降、緊急事態宣言等が解除される中で、消費マインドも改善し、財・サービスともに消費は持ち直している。所得と比べて個人消費の水準は依然として低めにとどまっているものの、今後、感染対策に万全を期し、「ウィズコロナ」下でも経済社会活動を継続していく取組の下、消費マインドの改善や賃金の上昇、さらには、40兆円程度の貯蓄超過を活用する動きが広がることにより、個人消費の回復が力強さを増していくことが期待される。

企業部門は、供給制約や国内外の需要鈍化という需給両面からの影響を受けて、2021年末にかけて、企業の輸出入や生産活動、設備投資の持ち直しに足踏みがみられている。東南アジアでの部品供給不足による自動車減産の影響は徐々に緩和しつつあるものの、半導体等の供給制約、中国経済減速等の影響には引き続き留意が必要である。また原油・原材料価格が高水準で推移しており、中小企業を中心として収益を押し下げる可能性があることにも注意が必要である。こうした国内外の需給両面の動向を丁寧にみていく必要がある。

このように輸出や投資に足踏みがみられるとはいえ、個人消費が持ち直す中で、我が国景気全体にも持ち直しの動きがみられている。こうした動きを強化し、経済を民需主導の持続的な成長軌道に乗せていくためには、長期にわたるデフレからの脱却を目指すことが重要である。2021年初以降、ガソリン等のエネルギー価格上昇を主因として消費者物価指数(コア)は緩やかに上昇し、特に低所得者や寒冷地に対して大きな影響を与えている。一方で、こうした外部要因を除いた物価の基調である消費者物価指数(コアコア)は、底堅い動きとなっている。感染症後、マクロ的な需給動向を示すGDPギャップは依然としてマイナスで推移し、賃金面での物価上昇圧力を示すULCも底堅い動きとなっている。こうした中、成長と分配の好循環の実現のためには、継続的に経済活動を活発化させることでGDPギャップのマイナス幅を解消していくとともに、賃上げの取組を後押しすることが必要である。また、両者とコアコアの関係は正の相関関係が保たれているものの、1990年代と比べて関係は弱まり、またGDPギャップがゼロとなる場合の基調的な物価上昇率も大きく低下している。このため、経済全体の需要の高まりや賃金上昇を実現するとともに、そうした状況を安定的に継続していくことなどにより基調的な物価上昇率を高めていくことが、デフレからの脱却のためには重要である。

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