第2章 成長と分配の好循環実現に向けた企業部門の課題
我が国企業部門は、流動性確保などの感染症への危機対応ステージを乗り越え、民間企業や民間金融機関がリスクをとって事業の再構築を進めるとともに、デジタル・脱炭素などの成長産業への資源投入を進めていく次のステージに移りつつある。この新たなステージでは、企業部門のさらなる成長を起点に、家計部門への適切な分配を通じて、成長と分配の好循環の実現が望まれる。こうした問題意識から、本章では、収益が改善する中にあっても、我が国企業が雇用者への分配や投資活動への支出に慎重であったという感染拡大以前から指摘されている課題について、足下の情勢変化を踏まえた新たな成長の可能性と、逆に露呈した脆弱性の両面から議論していく。
本章の構成は以下のとおりである。まず、第1節では、やや長い目でみて我が国企業の収益動向を確認した上で、これまでの企業の分配・投資スタンスの課題について整理している。第2節では、IT投資や脱炭素関連投資などに前向きな企業が増える中で、投資効果を十分引き出すために人材への教育訓練投資やスタートアップ支援も同時に重要である点を確認する。第3節では、企業の前向きな投資環境を整備する観点から、ポストコロナに向けて企業金融の正常化に向けた課題を取り上げる。第4節は、感染症の拡大以降に世界的にサプライチェーンを見直す機運が高まったことを踏まえ、我が国企業のサプライチェーン強靱化に向けた論点について整理している。