第1章 感染症と経済活動の両立に向かう日本経済(第2節)

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第2節 家計部門の動向

感染症は、行動制限等を通じて、家計に大きな影響を及ぼした。しかし、2021年9月末以降、緊急事態宣言等の解除と「ウィズコロナ」下で経済社会活動を可能とする取組1の下、経済社会活動の段階的引上げに伴い、感染症による厳しい状況は徐々に緩和されつつある。こうした中での2021年の家計動向を振り返る。

1 所得の動向

(家計部門全体の所得は底堅い動き)

家計部門全体の所得動向を実質総雇用者所得でみると、2020年前半に感染症の影響により大きく落ち込んだものの、2021年前半にかけて持ち直し、その後はおおむね感染症前の水準で推移している(第1-2-1図(1))。

実質総雇用者所得の動きは雇用者数、一人当たり名目賃金(定期給与・特別給与)、物価の動きに分解できる。これをみると、緊急事態宣言下の2020年4月から5月にかけて名目賃金、雇用者数ともに大幅なマイナス寄与となったが、その後は企業の生産活動の段階的引上げや政策の効果(後掲第3-1-13表)もあって、いずれも2021年春にかけて持ち直した。(第1-2-1図(2))。その後も定期給与のマイナス幅は着実に縮小する一方、雇用者数や特別給与は横ばい圏内で推移してきた。こうした中で、2021年4月、8月、10月に実施された携帯電話料金の引下げによる物価の低下は実質総雇用者所得の下支えに寄与した。

雇用者数については、依然として感染症前の水準を下回って推移しているが、特に感染症の影響が大きい宿泊・飲食サービス業や生活関連サービス・娯楽業では、2019年から女性を中心に非正規雇用者数が大きく減少している(後掲第3-1-3図)。一方で、需要が増加している情報通信業や医療・福祉等では、正規雇用者数が感染拡大前から増加基調で推移しており、この間の雇用創出に寄与している。

定期給与について、所定内給与・所定外給与別にみると、所定内給与は、一貫して押上げに寄与しており、2021年以降はプラス寄与が高まっている(第1-2-1図(3))。これは主に一般労働者の所定内給与が伸びていることによる(第1-2-1図(4))。業種別にみると、医療・福祉、運輸・郵便、製造業、建設業等において、一般労働者の賃金が上昇しており、人手不足などを背景とした賃上げや処遇改善に向けた継続的な取組などが押上げに寄与したとみられる(第1-2-1図(5)、後掲第3-2-1図)。一方、所定外給与は、生産活動の再開に伴って2021年初めまで持ち直してきたが、その後は働き方改革が進む中でほぼ全ての業種が横ばい圏内で推移しており、感染症前の水準を下回っている。

緊急事態宣言等が解除された2021年10月以降、宿泊・飲食サービス業を含めて全ての産業で雇用過不足感が不足超に転じ、求人等に持ち直しの動きもみられる。こうした動きが今後、雇用者数の増加につながるとともに、後述する企業業績の改善を反映し、賃金引上げの動きがさらに広がっていくことにより、雇用・所得環境の底堅さが増していくことが期待される。

第1-2-1図 家計の所得環境
第1-2-1図 家計の所得環境 のグラフ

2 個人消費の動向

(個人消費は低い水準にとどまってきたものの、2021年10月以降、持ち直しの動き)

底堅く推移する所得環境の下で、個人消費はどのように推移してきただろうか。GDP統計で確認できる2021年7-9月期までの個人消費の推移を形態別にみると、感染症の影響から、引き続き、外食や宿泊といったサービスは低水準で推移した(前掲第1-1-1図(3))。また、耐久財は、巣ごもり需要の一巡による家電販売の減少、2020年秋以降に顕在化した半導体不足や2021年夏の東南アジアでの感染拡大に伴う部品供給不足による自動車減産の影響もあって、7-9月期はマイナスに転じた。衣料品等の半耐久財についても、行動制限により外出機会の減少が続く下で、感染症前の水準を下回って推移してきた。

個人消費の水準を評価するため、所得や人口構成に基づき推計した個人消費と実際の個人消費の水準を比較すると、2020年4-6月期以降、実際の消費は推計値を大きく下回って推移してきた(第1-2-2図(1))。推計値に対して消費が弱い動きとなったことに加え、2020年4月末以降、特別定額給付金2の支給もあり、2021年7-9月期の家計の現預金保有残高(ストックベース)は、2015年から2019年のトレンドを40兆円程度上回る水準となっている(第1-2-2図(2))。

感染症の影響、半導体不足や東南アジアでの感染拡大に伴う部品供給不足の影響から、2021年9月まで低水準で推移してきた個人消費は、10月以降、緊急事態宣言等が解除される中で、消費者マインドも改善し、サービス消費などに持ち直しの動きがみられている(第1-2-2図(3))。

2021年の個人消費は、全体として所得等から得られる推計値の水準を下回った状態が続いてきたが、2021年10月以降、緊急事態宣言等が解除され、消費者マインドが改善する中で、貯蓄超過を活用する動きが広がることにより、個人消費の回復が力強さを増していくことが期待される。ただし、2022年初以降のオミクロン株の感染拡大が、例えば消費マインドの低下や、それに伴う個人消費の下押しにつながる可能性に注意が必要である。

第1-2-2図 個人消費の動き
第1-2-2図 個人消費の動き のグラフ

(緊急事態宣言の解除後はサービス消費を中心に持ち直しの動き)

財とサービスの主要品目の消費動向について、最初に、代表的な耐久財である自動車と家電の販売動向をみてみよう。新車販売台数は、2020年秋以降に顕在化していた半導体不足に加え、2021年夏には東南アジアでの感染拡大に伴う部品供給不足による生産調整が生じたこともあり、8月から9月にかけて大幅に減少した(1-2-3図(1))。ただし10月以降は自動車減産が徐々に解消されていく中で、依然として2021年前半の水準を下回っているものの、持ち直している。家電販売額は、2021年前半にかけて、在宅時間の長期化に伴う巣ごもり需要の高まりや東京オリンピック・パラリンピックの関連需要により、エアコンや洗濯機、テレビ、ゲーム機などが押上げに寄与した(1-2-3図(2))。しかし、こうした需要の一巡や天候不順に伴う来店客数の減少などもあって、6~8月にかけて弱さがみられた。その後、緊急事態宣言等の解除や感染者数の減少もあって、多くの主要品目で反発する動きがみられている。

非耐久財消費は感染症前と比べて高い水準で推移している。飲食料品を多く取り扱うスーパー販売額は、感染状況に応じて多少の振れはあるものの、巣ごもり需要の拡大に支えられて底堅く推移している(1-2-3図(3))。一方で、半耐久財は、低めの水準で横ばいとなっている。衣料品等の販売額をみると、感染拡大の下での外出機会の減少などから、2021年初に水準を切り下げた後、振れを伴いつつも、横ばい圏内で推移している(第1-2-3図(4))。

サービス消費は低水準で推移してきたが、2021年10月以降、持ち直している。外食売上高は、2020年末にかけて感染再拡大や営業時間短縮・酒類提供制限の要請などを受けて、再び落ち込み、その後は横ばい圏内で推移してきた(第1-2-3図(5))。しかし2021年10月以降、依然として一部業態(パブレストラン・居酒屋)では低水準が続いているものの、緊急事態宣言等の解除に伴い、回復の動きがみられる。

旅行取扱額について、国内旅行は2020年夏から秋にかけて、Go Toトラベル事業3の効果もあって回復の動きが進んでいたが、感染再拡大や緊急事態宣言の再発出などの影響を受けて、2020年末以降は、2019年比で8割近く落ち込んだ(第1-2-3図(6))。2021年に入って、緊急事態宣言が断続的に発出される中、一進一退の動きが続いていたが、感染者数の減少や宣言解除を受けて、9月以降再び持ち直しの動きがみられる。なお、海外旅行については、各国で感染拡大に伴う入国制限が実施されていることなどから、引き続きゼロ近傍で推移している。

このように2021年後半は、感染症への警戒感などからサービス消費を中心に下押し圧力が依然としてみられたが、東南アジアからの部品供給不足による自動車の生産調整が徐々に解消に向かうとともに、緊急事態宣言等が解除された10月以降は財・サービスともに持ち直している。

第1-2-3図 主要品目の消費動向
第1-2-3図 主要品目の消費動向 のグラフ
コラム1-1 感染拡大と人流

ワクチン接種が進み、個人消費の抑制要因となる行動制限が緩和されつつある中で、感染拡大と人流の関係には変化がみられるであろうか。

2021年の感染者数と自粛率4の関係を諸外国と比較すると、2回目ワクチン接種率が4割未満の時期は、日本は他国と比べて同じ感染者数に対して自粛する割合が高いものの、アメリカ、英国、ドイツ、フランスいずれの国でも、感染拡大に伴って自粛率が高まる正の相関関係がみられた(コラム1-1図(1))。

一方で、2回目ワクチン接種率が4割以上に到達した時期を比べると、日本以外の国については感染拡大と人流の関係が薄まっているが、日本はそれ以前と関係が大きく変わっていない(コラム1-1図(1)、(2))。

2022年初以降、オミクロン株の出現により再び感染が拡大しており、感染症による経済への影響には引き続き注意が必要であるが、こうした感染拡大と人流の関係も踏まえ、感染対策や情報発信の在り方を見直しつつ、経済活動への影響を見極めていく必要がある。

コラム1-1図 感染症と人流
コラム1-1図 感染症と人流 のグラフ

3 住宅投資の動向

(住宅投資は底堅く、暮らし方・働き方変化や住宅支援策による影響も)

次に、住宅投資の動向をみていこう。貸家の着工は、2018年半ば以降、貸家業者に対する金融機関の融資厳格化などを背景に減少してきた。持家着工は、消費税率引上げの半年前にあたる2019年3月末を見越した受注増5が一服したことを背景に、2019年半ば以降、減少傾向に転じ、2020年4月以降は感染症の影響も下押しした6。こうした動きを背景に、住宅着工戸数は2021年初頃まで弱含んでいたが、持家が増加基調に転じ、減少が続いていた貸家も増加に転じたことにより、2021年春にかけて水準を高め、2021年春以降は横ばい圏内で推移している(第1-2-4図(1))。

2020年半ば以降、持家の着工は増加傾向にあるが、2021年の前半と後半では違う動きがみられる。2021年前半は、感染症の影響を受けた郊外需要の高まりを背景に、首都圏のうち、特に埼玉、千葉、神奈川などで着工戸数が増加する一方、地方圏を含む「その他」の地域では減少した(第1-2-4図(2))。一方、2021年後半は、緊急事態宣言に伴う行動制限等により伸び悩んでいた受注が底堅い住宅需要に支えられて改善する中で、住宅ローン減税やグリーン住宅ポイント等の政策による押上げもあって、地方を含めて全体的に持ち直している。

貸家の着工は、2021年に入り、東京都区部、大阪、福岡といった都市部で前年を大きく上回る伸びとなった(第1-2-4図(3))。都市部においては、法人の貸家業者による賃貸マンションの建設が続いていることが着工を押し上げた。

首都圏をはじめとして、マンション等の分譲住宅は弱含んでいる(第1-2-4図(4))。首都圏では新規販売物件の成約率が70%前後と好調を維持するなど、購入側の動きは底堅い一方、用地不足の影響等もあり、大規模物件の分譲マンションの供給が伸び悩んでいる7。こうした中で、新築マンションの平均販売価格が上昇し、世帯年収の多い共働き世帯が購入者に占める割合も増加傾向にある(付図1-4)。

住宅着工は、持家が感染症前の水準を回復したこともあって横ばい圏内の動きが続いてきたが、底堅い所得環境や緩和的な金融環境などを背景に、今後も底堅く推移することが期待される。

第1-2-4図 住宅投資の動向
第1-2-4図 住宅投資の動向 のグラフ

コラム1-2 都市部の貸家建設の特徴

都市部では貸家の着工が好調に推移しているが、全体の伸びをけん引している東京都と大阪府について、規模別の特徴等を比較してみよう。

まず、建設主別の着工戸数をみると、東京、大阪いずれも「会社」が大きく押し上げており、賃貸マンション等を運営する不動産会社や社宅等の遊休不動産を活用する企業等の寄与がみられる(コラム1-2図(1))。感染症後のテレワークしやすい住居への住み替え需要が底堅いなど、都市部では、感染症後も安定的な居住賃料収入が見込まれることが背景にあると考えられる。

次に、規模別の着工戸数をみると、大阪府は主に単身者向けと思われる40m2以下が押し上げているが、東京都はより広い41m2以上が押し上げている(コラム1-2図(2))。両地域の2020年の年齢別・人口転入超過数をみると、大阪府では、単身者が多いと考えられる20代が転入超過となっており、こうした層の流入等が貸家建設を押し上げているとみられる。一方で、東京都では、全ての年齢層で転出超過となっていることから、在宅勤務の増加を背景とした広い住居を求める動きを捉え、広めの貸家が建設されているとみられる。

最後に、こうした動きを後押しする流れとして、ここ数年は新築マンションだけでなく中古マンションも価格が上昇していることが挙げられる。都市部居住を志向する者にとって、賃貸マンションの活用が住宅費抑制のための選択肢になっていると考えられる。

コラム1-2図 都市部での貸家建設の動向
コラム1-2図 都市部での貸家建設の動向 のグラフ

1 「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」(令和3年11月12日、新型コロナウイルス感染症対策本部決定)では、ワクチン接種、検査、治療薬等の普及による予防、発見から早期治療までの流れを更に強化するとともに、最悪の事態を想定した対応を行う中で、感染拡大を防止しながら、日常生活や経済社会活動を継続できるように取り組むこととされた。
2 緊急事態宣言の下、感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行うため、全国全ての人々へ1人につき10万円を給付。2020年4月末以降、市区町村において決定した給付開始日から支給を行い、申請期限は、郵送申請方式の申請受付開始日から3か月以内。事業規模は約12.88兆円。
3 国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行代金の割引を行う事業として、2020年7月22日より開始。その後、同年11月24日以降、一部地域における本事業の一時停止等の措置を段階的に講じ、同年12月14日には、年末年始における旅行について、2021年1月11日まで全国一斉で一時停止する旨を発表。その後も同措置を延長し、2021年12月末時点でも一時停止の状態が続いている。
4 住居滞在時間が、2020年1月3日~2月6日における各曜日の中央値との比較で、どの程度変化しているのかを示している。
5 引上げ前の消費税率が適用される請負工事等の請負契約期限が2019年3月末であったことから、この時期の受注に増加がみられたが、住宅ローン減税の拡充等の住宅取得支援対策が講じられたことにより、過去の消費税率引上げ時と比べると駆け込み需要とその反動減は抑制された。
6 内閣府(2020)によると、2020年4月以降の落ち込みには、感染症対応による営業抑制等も影響したとみられる。
7 2020年11月は、大規模物件の販売等が押上げに寄与した。
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