第1章 感染症と経済活動の両立に向かう日本経済(第1節)

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第1節 2021年の経済動向

本節では、GDP成長率やその回復過程を主要国と比較するとともに、国内需要の下支えに重要な役割を果たした公的支出の動向を確認し、2021年のマクロ経済動向を振り返る。

1 2021年の経済全般の動向

(GDP成長率は緊急事態宣言が断続的に発出される中で一進一退の動き)

2020年後半の我が国経済は、海外経済の改善に伴う外需の増加とそれによる生産活動の持ち直しが続いたが、2021年に入り、緊急事態宣言が断続的に発出される中(付図1-1)、個人消費や設備投資は一進一退の動きとなり、景気の回復テンポは鈍化した。

実質GDPの動向を四半期別にみると、2021年1-3月期は、海外経済の回復を背景に輸出が3四半期連続で増加したものの、1月から3月にかけて発出された緊急事態宣言の影響を受け、サービス消費を中心に個人消費がマイナス寄与となったことなどから、3四半期ぶりのマイナスとなった(第1-1-1図(1))。ただし、1-3月期は、飲食サービスに限定して経済活動を抑制したことから、サービス消費は弱いものの、財の消費は底堅く推移した(第1-1-1図(3))。その結果、個人消費は2020年4月及び5月の緊急事態宣言時ほどの落ち込みとはならなかった。

2021年4-6月期は、海外経済の改善の下、輸出が4四半期連続の増加となったものの、国内生産の持ち直しやワクチン購入を背景として輸入が増加したことで、外需はマイナス寄与となった。一方で、内需は、企業業績が総じて持ち直す中で、世界的にも需要が伸長しているデジタル関連事業等を中心に設備投資がプラスに寄与した。また個人消費は、1-3月期に続き、4月から6月にかけて緊急事態宣言等の下で人為的に活動を抑制したが、長引く自粛の下で若年層を中心に旺盛な消費意欲もみられ(付図1-2)、2四半期ぶりの増加となった。その結果、GDP成長率は前期比年率2.0%と2四半期ぶりのプラスとなった。

7-9月期は、再びマイナス成長に転じた。9月までの緊急事態宣言等に加え、供給面での制約が影響し、個人消費、設備投資、輸出がマイナスとなった。個人消費は、外食等のサービス消費の弱さに加えて、半導体不足や東南アジアでの感染拡大に伴う部品供給不足による新車販売台数の大幅減少、巣ごもり需要の一巡等を背景とした家電販売の減少など財消費にも弱さがみられた。また、第3節で詳しく述べるが、設備投資は部品供給不足に伴う自動車減産や感染拡大による商談延期等を反映したソフトウェア投資減少の影響もあって、減少した。輸出は、自動車減産による供給制約に加えて、中国経済の回復鈍化等により減少した。

10月以降、全ての都道府県で緊急事態宣言等が解除される中で、景気に持ち直しの動きがみられている。景気ウォッチャー調査の現状判断DIは改善し、10月以降、基準となる50を上回っている(第1-1-1図(4))。一方で、オミクロン株の感染拡大や原材料価格の上昇、半導体を含む品不足の動きに対する警戒感から、12月の先行き判断は低下している。

このように、2021年の我が国経済は、2020年に続いて感染症の動向に大きな影響を受けた。9月末までの緊急事態宣言等に伴う行動制限や自粛による経済社会活動の抑制により、個人消費は一進一退の動きが続いた。また、第2節でみるとおり、2020年秋以降に顕在化した半導体不足、2021年夏の東南アジアでの感染拡大に伴う部品供給不足などの供給制約も輸出や個人消費の足かせとなり、2021年9月まで景気回復は緩やかなものにとどまった。こうした動きの結果として、感染症前と比較した実質GDPは、公需の増加や輸入の減少、さらに2020年4-6月期以降は輸出の減少幅縮小が押上げに寄与したものの、内需が一貫して感染症前と比べて弱い動きとなったことから、2021年7-9月期時点では、感染症前の2019年10-12月期の水準を下回った状態が続いている(第1-1-1図(2))。一方で、全ての都道府県で緊急事態宣言等が解除された10月以降、経済社会活動の水準が段階的に引上げられる中で、景気は持ち直しの動きがみられている。ただし、オミクロン株の感染拡大や原材料価格の上昇等が景気を下押しする影響などに注意が必要である。

第1-1-1図 マクロ経済の動向
第1-1-1図 マクロ経済の動向 のグラフ

(感染拡大後は輸出が回復をけん引していたが、内需も徐々に持ち直しへ)

一進一退の動きが続いた我が国経済の回復過程の特徴を把握するため、感染症前からのGDPと輸出、個人消費、設備投資の動きを主要国と比較してみよう。

実質GDPについて、2019年10-12月期を基準とした推移を主要国と比較すると、2021年7-9月期は中国やアメリカは感染症前の水準である100を上回る一方で、日本、ドイツ、英国は依然として100を下回っている(第1-1-2図(1))。感染症は、リーマンショック時を上回る急速な景気悪化を世界的にもたらしたが1、その後の経済活動の段階的な再開や、財政・金融政策による下支えなどを受けて、世界景気は持ち直しが続いた。その中でも、中国経済は感染症をゼロに抑え込むとの方針の下、2020年4-6月期にはいち早く回復に転じた。欧米諸国もワクチン接種の進展と大胆な経済支援等を背景に2021年4-6月期以降、経済活動の水準を段階的に引上げた。日本は、ワクチン接種の進展や経済活動水準の引上げが欧米諸国に遅れる中で2021年9月まで緊急事態宣言等が断続的に発出されてきたこと等から、景気回復は緩やかなものとなり、GDPは危機前の水準を回復していない。

需要項目別にみると、世界経済の回復を背景に、他国より早期に輸出が持ち直し、我が国の景気の持ち直しを先導した一方で、個人消費や設備投資といった内需項目は、他国と比べて落ち込みが小さかったこともあり、持ち直しの動きも鈍くなっている(第1-1-2図(2)~(4))。ただし、輸出については、部品供給の不足に伴う自動車の生産調整や中国景気減速の影響もあって、7-9月期はマイナスに転じている。

2020年秋以降は、半導体不足などの供給面での制約や原油等の原材料価格の高騰、これに加えて2022年初以降は、多くの国で確認されているオミクロン株をはじめとする感染症による内外経済への影響が我が国経済の下振れリスクとなっている。こうした中で、医療提供体制の強化やワクチン接種の促進、検査、飲める治療薬の普及により予防、発見から早期治療までの流れを強化するとともに、「ウィズコロナ」下でも通常に近い経済社会活動を継続できる取組の下、経済を民需主導の自律的な成長軌道に乗せていくことが重要である。

第1-1-2図 GDPとその内訳の回復過程
第1-1-2図 GDPとその内訳の回復過程 のグラフ

2 公的支出の動向

(公的支出は2020年半ばから2021年半ばにかけてGDPを下支え)

GDPは感染症前の水準を下回っているものの、これまでのGDPの回復には公需が下支えした面も大きい。2020年以降の実質GDP成長率に対する累積寄与をみると、公需は一貫して押上げに寄与している(前掲第1-1-1図(2))。感染症後に実施された経済対策の規模を比較しても、我が国はGDP比54%と主要国中で最大規模となっている(第1-1-3図(1))。

公需の内訳である公共投資と政府消費について、感染症後の動向を主要国と比較をすると、他国と遜色ないペースで推移していることがわかる(第1-1-3図(2))。特に公共投資は2020年4-6月期から2021年4-6月期、政府消費は2020年7-9月期から2021年7-9月期にかけて、アメリカを上回る水準で推移しており、感染症の影響による戦後最大の経済危機に対して、累次の経済対策を講じてきたことが経済を押し上げていた。

ただし、公共投資について、2021年に入り増勢が一服し、弱含んだ動きとなっている。この主な要因としては、東日本大震災の復旧・復興工事の実施規模が縮小したことが挙げられる(第1-1-3図(3)、(4))。公共工事出来高の前年比を地域別に寄与度分解すると、2021年4月以降、東北のマイナス寄与が徐々に大きくなっていることが確認できる。これは、これまで2011年度から2015年度末までの集中復興期間及び2016年度から2020年度までの第1期復興・創生期間2において集中的にインフラ等の整備を行ってきたが、それが一区切りついたことと対応している。

(2021年11月に策定された経済対策が今後の公共投資を下支え)

一方で、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」3の次期対策として、2021年度を初年度とする「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」4が策定され、15か月予算の考え方の下、2020年度第3次補正予算5において、対策初年度分の予算として約1.7兆円が計上された(第1-1-3図(4))。その結果、公共工事の出来高の先行指標である公共工事の請負額は、2021年の春頃に強い動きを示しており、今後、工事として着実に実施されていく中で出来高を一定程度下支えしていくことが期待される(付図1-3)。

また、2021年11月19日に閣議決定された新たな経済対策(「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」)では、防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保を4本柱の一つに据え、「16か月予算」の考え方により本対策の裏付けとなる補正予算を来年度当初予算と一体的に編成し、切れ目なく財政政策を実行することとされている(第1-1-3図(5))。

公共工事の出来高の動向は今後の発注状況に大きく左右されるものの、こうした一連の動きが今後の公共投資を下支えしていくと考えられる。

第1-1-3図 公的需要の下支え
第1-1-3図 公的需要の下支え のグラフ

1 世界全体の実質GDP成長率は、OECDによると、2009 年が前年比マイナス0.5%であった一方、2020年はマイナス3.4%と大きく減少した。
2 「第2期復興・創生期間」以降における東日本大震災からの復興の基本方針」(2021年3月9日閣議決定)等を踏まえ、2011年度から2025年度までの15年間を「復興期間」と定めている。このうち、復興需要が高まる2011年度から2015年度までを「集中復興期間」、被災地の自立につながる、地方創生のモデルとなるような復興の実現を目指す5年間として、2016年度から2020年度までを「第1期復興・創生期間」、第1期復興・創生期間の理念を継承し、その目標の実現に向け取組をさらに前に進めるべき期間として、2021年度から2025年度までの5年間を「第2期復興・創生期間」と位置付けている。
3 平成30年12月14日閣議決定。対象期間は2018年度から2020年度。
4 令和2年12月11日閣議決定。
5 令和3年1月28日成立。
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