第3章 ポストコロナに向けた企業活動の活性化と課題(第4節)

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第4節 まとめ

本章では、感染拡大やその防止策が講じられ、人為的に経済が抑制される下での企業活動の状況を、収益及び資金繰り、倒産の観点から整理し、ポストコロナに向けた企業活動の活性化に必要な課題について検討した。

第1節では、感染症の影響により悪化した企業収益について、その特徴を規模別・業種別に明らかにした。世界的な感染拡大を受け、人為的に経済が抑制されるもと、2020年4-6月期では、サービス業は企業規模を問わず大幅な減収に陥ったが、それ以外の業種については、とりわけ中小企業で大幅な減収となった。これは、大企業を中心に収益が悪化したリーマンショック時とは対照的である。ただし、政府・日銀による大規模かつ迅速な流動性供給や、金融機関からの借入増加により、企業の資金繰りはリーマンショック時ほど悪化していない。また、過去に比べれば、企業の負債比率や負債コストは低位であるほか、最適負債比率からのかい離も大きく、マクロでみれば過度に負債を圧縮させるバランスシート調整圧力は今のところ弱いと考えられる。ただし、宿泊・飲食サービス業など、感染の影響を大きく受け、営業時間短縮等を余儀なくされている一部業種では、負債比率が大幅に上昇している。負債比率の高まりが今後の企業経営再建の足かせとならないよう、感染動向を踏まえた早期の需要回復に加えて、例えば、政府による資本性ローンの活用推進が必要である。

第2節では、倒産・廃業及び開業について、長期及び感染拡大下の動向を整理している。倒産件数は、景気回復が続くなかで減少傾向が続き、感染拡大の影響による収益悪化を受けた2020年も前年から減少した。その要因の一つは、政府・日銀の金融支援等による手元流動性の増加である。また、我が国の開業件数は、小規模事業者を中心に増加傾向にあり、人手不足や後継者難要因によって増加傾向にある廃業を上回っているが、開廃業率はともに主要国と比べて低い。開業率とマクロの経済成長率との間には正の相関がみられる。また、企業レベルの分析からは、事業を継続している存続企業と廃業した企業の生産性上昇率(付加価値、TFP)を比べると、存続企業の生産性上昇率が高い傾向にあることから、生産性を通じた企業間の競争が働いていることもうかがえる。ただし、両者の生産性上昇率の差は縮小傾向にあり、生産性や生産性上昇率の高い企業であっても、後継者不足や人手不足といった、高齢化・人口減少時代特有の要因で廃業を選択している可能性が示唆されている。

第3節では、ポストコロナに向けて我が国の企業活動を活性化させるために必要な課題について検討した。我が国経済では、中小企業が事業所・従業者数に占める比率は8~9割と高いが、付加価値に占める比率は5割弱に止まっており、中小企業の付加価値を引き上げることは、我が国全体の成長につながる。その手段の一つとして、生産性向上に資することが明らかな無形資産投資(ソフトウェアを含む)の積極化が挙げられる。現状、中小企業では、キャッシュフローをソフトウェア投資に振り向ける比率が低く、有形資産に投資が偏っている。こうした投資配分の見直しや、政府によるデジタル投資支援策の積極的な活用を促す必要がある。また、中小の製造業企業には、価格転嫁力の弱さが付加価値を引上げる制約要因となっている面もある。仕入価格の変化を適切に販売価格に転嫁できるような商慣行の実現に向けた取組を続ける必要がある。さらに、高齢の経営者は事業承継を望んでおり、担い手の減少や後継者不足といった課題に対し、事業承継を目的としたM&Aの活発化が望まれる。

こうした中小企業のニーズに応えることが期待されているのが地域銀行である。地域銀行の貸出は、感染拡大下で増加したが、保証協会承諾融資の増加などにより信用コスト増加は限定的であるほか、自己資本も安定している。今後は、経営統合による基盤強化も図りながら、金融・ヒト・モノ・情報の仲介機能を発揮し、地域内での新規事業や雇用機会を創出することで、地域経済とともに成長していくことが求められる。

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