第2章 感染症の影響による雇用と家計の変化(第4節)

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第4節 まとめ

本章では、雇用・所得の観点から感染症の影響を考察してきた。感染拡大防止のために、経済活動を人為的に抑制したこともあり、戦後最大のGDPの落ち込みとなった昨年4月、5月には休業者が増加し、女性や非正規雇用を中心に大きな影響が生じたことが確認された。また、多くの高齢者や子育て世帯の女性が非労働力化した。その後、休業者は経済活動の再開と共に減少し、就業者も持ち直したが、2021年に入っても、感染拡大以前の水準には戻っていない。非労働力化した人々も次第に労働力へと戻ってきたが、高齢層の労働参加はあまり進んでいない。失業率は抑制されているが、失業者数は男性を中心に増加しており、失業期間の長期化もみられる。

他方、厳しい経済環境にあっても、一昨年来、男性では55歳以上、女性では25~54歳を中心として正規化の動きが続いている。男性55歳以上の場合、正規から非正規に移る確率は、2019年までの3年平均で3.7%だったが、2020年は3.4%へと低下し、正規雇用での定年延長や再雇用の拡がりがうかがえる。他方、こうした正規化の動きによって非正規雇用者数は減少した面もあるが、2020年後半においても感染症の影響による雇用減少が大きい。特に、女性の宿泊・飲食業の雇用者数は前年から大幅に減少した状態が続いている。

雇用面の弱さは賃金動向にも表れている。産業別には、宿泊・飲食、運輸・郵便、生活関連サービス等の賃金が下振れした。特に、これらの産業では、冬の賞与が全体の5.6%減よりも一層大きく下回った。他方、雇用形態別に賃金動向をみると、一般労働者の賃金が賞与を含む特別給与の下振れで弱い動きもみられる一方、2020年4月から大企業に適用された同一労働同一賃金による待遇改善によって、パートタイム労働者の賃金は底堅く推移した。

雇用と賃金を合わせた所得面から2020年を振り返ると、特別定額給付金を含んだ特別収入の増加に加え、勤労所得においては世帯主の配偶者の収入が全体を下支えした。2012年以降、女性配偶者の収入は、平均収入の上昇もあるが、有業率の上昇によって増加が続いている。今後、本年4月に中小企業にも導入される同一労働同一賃金や、現在、感染症をきっかけとして普及・定着に向けた取組が強化されているテレワークなど柔軟な働き方の推進等が正規雇用や賃金の比較的高い雇用の増加など女性のさらなる活躍につながり、経済の好循環に寄与することが期待される。

経済ショックの大きさに比べれば、失業等の上昇は抑制されているが、これは政府による事業・雇用維持のための支援策に加え、企業において、人口減少に伴う先行きの人手不足も見通した雇用確保の動きによるところが大きい。企業による雇用保蔵は昨年4-6月期にリーマンショック時を大幅に上回る規模となったが、経済活動の回復と共に減少している。製造業では、生産活動の減少に対して労働時間の削減と生産性の低下でおおむね対応できたが、サービス業では雇用量も削減された。特に、宿泊業では損益分岐売上高の水準が高いにも関わらず、売上の低迷が続いており、厳しい状態にある。雇用調整助成金等によって企業の雇用維持を支えた規模は、失業率換算で2~3%と見込まれるが、引き続き、感染動向を踏まえて対処していく必要がある。

また、同時に、ポストコロナに向けた中長期的な生産性向上や経済成長の観点からは、ニーズの高い分野や成長分野に失業なき労働移動を促進していくことも必要である。産業間労働移動はこのところ低調だが、産業や職業を変える労働移動には、労働者の能力開発やスキルアップ、能力開発投資が必須である。ただし、調査によると、個人も企業も人的投資には消極的であり、こうした状況を変えて、両者を動かしていく環境整備が必要であろう。

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